表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
125/474

2-32 悪に堕ちた七騎士ADQ-Ⅴ

「ラクトが――」


 カロリーネの心の中を覗いたのだろうということは、話を聞いていればすぐに分かることだった。しかし、それに気が付いているけれど戦闘を止めないというところに稔は疑問を抱いた。――が、何故止めないのかを思い出した。


「(――ここで止めたら、また何処かで爆発事件が起こるって話だったっけか……)」


 カロリーネは十分な威力を誇る魔法を使用出来、その精霊も同じく使用可能だ。そんな罪を犯した二人が、もしも罪を犯したことを認めぬままに外に放たれてしまっては問題である。事件を二度と起こさないと誓われても、信じられないのが一般論と言えよう。


「(でも、それって俺らサイドがする理由だよな――?)」


 しかし稔は、考えてみれば相手の話を聞き出せていなかった事に気が付いた。自分たちは正義の名の下に相手に制裁を――否、危害を加えている訳だが、そこで用いられている理由は相手の事を踏まえてのことばかりではない。自己的な、自分たちが得するような事も当然含まれている。


 だが、それだけではよくない。正義は謝ってはいけない――即ち、悪を犯してはならない。だからこそ、稔はカロリーネに魔法を用いたこの闘争バトルを続ける意味、その強い意思の裏にある事情などを聞き出そうとして、カロリーネの目をじっと見て問うた。


「カロリーネ。何故バトルを続ける?」

「バトルを続けるのは、貴方に情報を知られてしまったからです。他の何でもありません」

「つまり、俺らを殺すことが最終目標ということか」

「間違っていません」


 稔はそう簡単には話してくれ無さそうだと思ったが、案外、遠回して言ったりせずに自らが思っていることをそのまま口に出してくれた。そして、彼女はこう続ける。


「ただ――」

「ただ?」


 若干――右に五度程度、稔は首を傾げて聞き返す。当然カロリーネサイドが言い出したことであったから、カロリーネは隠したりせずに返す。だがそれは、稔からすれば初めて耳にすることだった。


「精霊戦争の一貫として、精霊を持っている貴方を殺してやろうというのも……一つですね」

「なんだと――?」


 精霊戦争。稔は始めて聞いたその言葉によって、某ゲームの『聖○戦争』を脳裏に浮かべてしまった。無理もない。精霊を『サーヴァント』だとすれば、それを所持しているのは七名なのだ。加え、金髪も紫髪も居る。――が、その方向で行くなら問題が有る。それは、『聖杯』に値するそれがないということだ。


 ……それはそうと。厨二病であれば、『精霊戦争』なんて単語フレーズを聞いたら背筋をゾクゾクさせて感に堪えないだろう。そして、気分が良くなったら彼ら彼女らは漢字を羅列し、天下のグーグル大先生に多国語翻訳を頼み、直訳ではなくて意訳でその意味を変換し、カタカナでルビを振って言い放つのだ。


 そして、稔はそんなことを考えながらも本題へと戻った。


「待て、カロリーネ。精霊を持っていたら戦争に参加していることになるなんて、俺は聞いていないぞ!」

「そんなの知りませんよ。貴方が知らないところで私に関係は有りませんし」

「お前には情けというものがないのか……」


 稔は自分の境遇が神からの天罰だと感じる。ただ、それ以上にカロリーネの態度が許せなかった。もちろん、ハンデを付けろだとかいうことじゃない。その考えが許せなかったのだ。戦争を知らない自分に対し、問答無用で切りつけてくるのである。いくらなんでも自己中心的すぎるだろう。


 だが。


「――本来、戦争とはそういうものだ」

「紫姫……?」


 稔が精霊戦争の意を知りたくなっていたその時だ。サタンとスルトにエルジクスとの戦闘は任せ、紫姫が稔の元へと戻ってきた。紫姫の存在は精霊戦争に参加しなくてはいけなくなった根源ではあったが、一方で、これまでもこれからも頼らせてもらいたい一人の精霊だった。


 だからこそ稔は、熱血主人公のようにぶつかったりしなかった。冷静に、落ち着いて問いを投げる。


「紫姫。精霊戦争の意味を闘いながら教えろ。――主人命令だ」

「『変なところで主人命令を使うとは……』とも思うが、戦闘中である。貴台がそのような考えに至るのも不思議ではなかろう。――ああ、それと。サタンとスルトでエルジクスは叩きのめせるくらいになった」

「一気に戦況変わったのな」

「そうだ。何しろ、我が退いたところでレヴィアタンとヘルという強力な人材を確保できたのだからな」


 紫姫は自信有りげに胸を張って言った。稔の為にこんなことをしたんだよ、という風に話した。だが聞いている側の稔は、そんな気遣いによって右手の拳を握ってプルプルと震わせてしまうくらいに怒ってしまった。


「なんでラクトの治癒を止めたんだよ!」


 稔は怒りを露わにした。しかし、その怒りはすぐに収まることになった。紫姫に対して向けられていた怒りだったが、その怒りを紫姫と一人の召使が吸収してくれたのである。そして一人の召使は少し照れた顔を見せて稔の頬を抓って、続けてこう言う。


「バーカ」


 稔が目に捉えたのは――ラクトだ。負傷した箇所が有ると考えていた稔だったから、当然「なぜここにいる?」と疑問を抱く。しかし視姦するように見回してみても、ラクトは外見から見て何処にも負傷した痕跡が無かった。


「総司令官様がお戻り――と思ったけど、指揮権は稔に譲っちゃったし。でも間違いがないと言えることは、ここからまた総動員戦ってこと。怪我については完全に治ってるから心配するな」

「お、おう……」


 ラクトが笑顔で言うので、稔も心配する気を喪失した。しかし、その一方でカロリーネはまた狂い始める。何故なら、ラクトを葬る事は出来なくても自分は良いダメージを与えたと考えていたのだ。だから、痛恨の極みとしか言い様が無かった。


「ふざけるな……!」


 それはラクトが復活したことによる怒り、ラクトを地の果てにやったり葬れなかった怒り。そういったものが関係し、稔が心配する気を喪失した裏でカロリーネは理性を喪失した。せっかく敬語を使う本来の姿に戻ったというのに、逆戻りしてしまったのだ。


「カロリーネ。お前にはもう、戦っても負ける未来しかない。戦力差は歴然としている。――さあ、大人しく爆弾の在処を述べるんだ。加え、爆弾処理が終わるまではお前の精霊魂石を預からせてもらう」

「そんなの誰が承諾すると思っている。それが正義だと思っているなら大間違い――え?」


 精霊魂石が壊されたわけではない。しかし、カロリーネが必死になって自らの意見を主張して反抗している最中でそれは起きてしまった。水色の光をまとっていたその少女は、一瞬にして粉々に砕け散ったのである。見ていれば一瞬。大きな氷がまるで金槌ハンマーで叩き割られたように、氷は地表へと散っていく。


「そんな……」


 エルジクスは倒れた。そして、戦意を喪失した。それは簡潔に述べれば、『精霊としての戦いが一時的に不可能になった』ことを示す。そして魂石の中で治癒をしない限り、彼女は二度と呼び出して召喚されなくなってしまう。もっとも、ある程度は強制的に治癒や回復が行われるらしく、その間は絶対に召喚に応じないそうだが。


 精霊魂石が赤く光を発して精霊が気絶したことを示すと、カロリーネは紫姫に依頼した『精霊戦争』についての説明を稔に行った。もはや戦う意思は無く、自暴自棄になりそうだったが堪え、かわりに涙を溢す。


「『精霊戦争』というのは精霊魂石を巡るゲームの事で、勝者は精霊魂石に宿った精霊を奪うことが可能です。しかし、それが行えるのは同じ相手に三回勝った場合のみです」

「今のは一回戦だから無しか。……それで?」


 稔はカロリーネの話がまだ終わっていないことを察し、そう最後に付けた。「言われ無くても分かっています!」と言う気もなく、カロリーネは本当に悲哀した表情を浮かべながら話を続ける。


「また、精霊と契約を交わした者は、一度負けるごとに感覚を失っていきます」

「……どういうことだ?」


 稔はよく分からずに聞き返す。感覚というのは恐らく感覚器官のことを示しているのだとは見当が付くが、感覚器官は様々な場所に存在している訳だ。そんな回数も戦闘を交えて何が生まれるのだろうか。というよりかは、その頃には勝者が決まっていないくてはおかしいだろう。


 ただ、そんな疑問は説明で払拭された。依然として悲しみに暮れた表情のままのカロリーネは、もしもあのまま戦闘が続いていたら違う結果が生まれていたのかもしれないが、意識は朦朧としているわけでは無さそうだ。


「一度負ければ視覚を、二度負ければ聴覚を、三度負ければ味覚を、四度負ければ嗅覚を、五度負ければ触覚を、六度負ければ下半身を、そして七度負ければ上半身を失い、八度目に負ければ――死にます」


 聞きたくない事実だった。そして最後にこう補足を加える。


「因みに、誰に負けたかでカウントしているわけでは有りません。全体を通して何回か、という事です」

「もしかして、エルジクスが眼帯を装着していた理由は――」

「私も左目の視力は〇点(れいてん)一以下ですがね。貴方が察したとおり、エルジクスが眼帯を付けている理由はそういうことです。お分かりでしょうが、私は今……」


 カロリーネは悲しそうな表情を浮かべない。敢えて悲しまないで笑みを浮かばせて平常心を保とうとしているのだ。だがそれは、稔の心を強く痛めつける大きな要因となった。二度負けたから、今度はヘッドホンやイヤホンを耳に当てることになるんじゃないかと思うと自然と涙が出てきた。


 だから稔は、正義が謝ってはいけないというルールに反した行動を取った。治癒を受けているエルジクスから貰ったその言葉は、それは色濃く稔の心の中に残っていたが、残っていたからといって破らないとは限らない。エルジクスは謝るなと言っていたが、所詮は他人だ。まずは自分の意見を尊重すべきだろう。


「悪かった。俺が考えもしないばかりに精霊戦争で、カロリーネが……」

「いいんです。精霊が奪われたわけじゃないですし、まだ二回しか敗戦していませんし。……それよりも、貴方が勝って嫌な思いをしているようでは、負けた私がどうすればいいんですかって話ですよ」

「――」


 稔は黙り込んでしまった。自分達は嫌な思いをせずに済んだのだから、悲しまなくていいという意見も一理あったからだ。流石に土下座をした訳ではなかったが、そう言われては下げた頭を元に戻すしか無い。カロリーネらは負けてしまったが、彼女らは意思疎通が図れていたようだ。


 稔が黙りこんでしまったところで、カロリーネはこう続いた。 


「戦争なんて、たとえ双方が引き分けだと合意文書を交わしたとしても勝つか負けるかなんです。

「まあ、戦略とかで戦死者が必ずしも出るわけだからな」


 稔は頷きながら言う。だがカロリーネは稔のそんな反応を無視し、自分の言いたいことを述べる。


「強い意志を持ち、強い軍勢を持ち、臨機応変に対応できる作戦を持った者こそが、初めて『勝利』という『戦果の果実』をもぎ取ることが出来る。対してそれを持たない者は、悲しみしか詰まっていない『鮮血の果実』を手にすることになる」

「ああ、本当にそうだな」


 まるで名言じみたようなことをカロリーネは言い始める。しかし稔をはじめ、煽りの神だって、彼女を馬鹿にするようなことを言ったりはしなかった。皆が、話の最中でそれを嘲笑するのは間違いだと思っていたのだ。だが、それでも稔は無視されたことで良い気分を持てなかった。


「カロリーネ。感想を述べたんだから、俺を無視しないでくれよ。まあ、そういう趣旨ならいいが」

「馬鹿だな、アメジストは。さっきカロリーネが言っていたことを忘れたのか?」

「あ……」


 カロリーネが稔の言ったことを無視した理由。それは、『無視した』のではない。相手が行ったわけでもないが、自分が行ったわけではない。ただ単に、『聞き取れなかった』のだ。耳が悪くなってしまったから仕方がないだろう。


「悪い……」


 稔もカロリーネのように悲しんだ表情を見せ、怒ったように聞いてしまった自分を情けなく思った。カロリーネが置かれている状況を呑めなかった自分を恥じて、嘆息を漏らす前に唾を呑んでからそう言った。


「謝罪をするのは正義の務める役柄ではない、とエルジクスは述べていたと思います。なので、謝らないでください。戦いを交わした関係なか、それも精霊の指揮を執る者同士なんです。こうやって殺し合いをしなければならないのに、貴方にも私にも都合は有るでしょうが、頭を下げられたら困るんですよ」


 カロリーネは強く言い、稔に頭を下げないように求めた。負けたんだから勝ったものに従えという概念も存在しないことはなかったが、そこは稔だ。そうやって誰かを見下すことが不得意であったから出来ない。


「……以後、気を付ける」


 稔はカロリーネにそう伝えた。対してカロリーネは、「分かりました」と一言述べる。そして、続く。


「私やエルジクスに被害が出たのは確かですが、それは『私からの依頼』という形でチャラにしましょう」

「分かった。まあ、俺も謝りまくっているよりかは任務を遂行したほうが達成感有るし、良いわ」

「そうですか。では……」


 カロリーネは敢えて続けていったりはせず、三秒間程間を開けてから言った。


「今回の爆弾事件の真相を握るのは私では有りません。私の上司こそが、この事件の真相を知っています。ですので、ひいては彼を暗殺して頂けませんか? 貴方の精霊の腕前や貴方と召使の防壁見ても、互角に戦えるはずです。また、爆弾処理に関しては私も当事者ですのでさせてください」


 押し付けるように言って稔の反応を待たずして、カロリーネは暗殺対象者の写真を手渡した。稔への依頼がこれで確定されたことになる。……しかしながら、まずは爆弾処理だ。向こう側で指示されて爆破されないなら手動で解除出来るので、やるべきことはやはり時限装置解除だ。


 そうは思いつつも、貰ってしまった写真にはついつい目がいってしまうものだ。


「こいつが対象者か――ん?」


 その写真には見覚えのある顔があった。そして、稔は名を発す。


「エイブ……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ