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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-31 悪に堕ちた七騎士ADQ-Ⅳ

 テレポートしてラクトのすぐ近くまで来ると、自分が驚いているんだという事実を紫姫が述べた。


「アメジストに言わせてもらいたいが、貴台が突然行動を取る事は認めないわけではない。――が、場合を考えてくれ。今のようなタイミングでテレポートをされてしまっては、我も対応に困ってしまう」

「済まないな。でも、ラクトの体力や魔力の消費と俺らの供給能力に差がでたら問題が有る」

「供給というよりも、後方支援ということだろう?」


 紫姫が言葉を変えて解釈したが、稔は「ああ、そうだ」と一言言っておくに留めた。

 それと同じくしてラクトが大きく息を吸って吐き、身体が悲鳴を上げている状況であることを露わにした。


「……お、おい。ラクト、まだ戦えるのか?」

「覚醒状態だからな。いつもより数倍のエネルギー使って、いつもより数倍のパワー出してるんだ」

「見た感じそうみたいだな。……でも、それでお前にもしも悪影響が出てきたりでもしたら」

「紫姫には死ぬかもしれないくらいに戦わせるくせに、私に戦わせないとはこれいかに」


 ラクトは言うが、稔は反論を述べることが出来なかった。しかし、そこで紫姫が割って入って言い放つ。


「バカ言え、煽りばかりする巨乳の召使(アマ)が。私は精霊だから、精霊魂石が壊されない限りは何度でも戦える。でも、ラクトは違うだろ。一度負傷すれば、治癒するのには人間同等の時間が必要となるんだ。魔法陣の中へも戻れない欠陥状態なんだし、仕方がないさ」

「待ってよ。『欠陥』ってのは反論が……」

「悪いが、それは我の言葉の綾だ。許せ」


 紫姫は捨て台詞としてそう言った。即興で考えた台詞であったから、言葉が玉石混交していても無理はないし、そこから取捨選択出来ないのも無理は無い。加え、時間がないと急かしているのも理由の一つである。

 

 それはそうと、紫姫が高速で蝶の舞を見せていることに稔は驚かされた。だがそれは、覚醒状態アルティメットであるラクトにも召使と精霊と罪源を統べる稔にも、いい刺激になった。そんな事を思いながら稔は首を上下に振るわけだが、それと同じ時間に起こったのはポケモンで言うフレア○ライブ。



「――最後の判決ファイナル・ジャッジメント闇と氷の駆動紫蝶(バタフライ・ドライヴ)――!」



 詠唱――否、魔法使用宣言を行った紫電一閃せつな、紫姫は紫色の光りに包まれた。稔は紫姫と剣を交えた際に蝶の舞を見ていないことから、特別魔法の一貫ではない事を察した。そして、それが何を意味していたのかも即座に察する。


 紫姫の行動で起こった空間を震わすその振動。精霊として、戦闘狂を裁する者として。自らに出来る最強の特別魔法はそれだった。HPを減らしたところで、戦闘狂は喜ぶだけだと分かっていたからこれに込める。


「はあああああああああああああッ!」


 テレポート並みの速さ、というべきだろうか。――いや、違う。それは刹那なんてものじゃない。


 しかし、それでも同時。まるで死すら捧げた英霊のように、紫姫は左手にも右手にも銃を構えた。


 そして、まとった紫の光とともに氷の壁を貫通していく。


 驚愕する敵方、顔を綻ばす紫姫。ニヤリと小さく微笑を浮かべると、紫姫は目に捉えた『司令官マスター』であるカロリーネに、一弾の銃弾――名付けるなら『紫電氷弾クーゲル・リヒト』を撃ち放つ。


「撃ち抜けえええええええええええええええええええッ!」


 我渾身の一撃、とでも言おう。まるで自意識過剰から起こる厨二病の典型的なものだが、それは違う。エルジクスの右腕に弾丸を命中させたこともあり、相当な自信があったのである。


 ――が。


「嘘……?」


 目の前に現れたのは――エルジクスだ。


「主人を……守る!」


 利き手を効率的に活用できなくなってしまったエルジクスは、上の歯と下の歯で銃弾の持つ場所を噛んでいる。そこから伝わってくるのは強い意思だ。精霊魂石を壊すなんて言語道断だと紫姫は訴えたが、それは形となって現れたと言っても良い。――が、それはそれで稔サイドにはよろしくないことである。


「……やばい」

「――ど、どうした?」


 ラクトが突然にして口を開いて言うと、稔は彼女の言葉を聞きたそうに耳を傾ける。もちろん、期待されているのに返さないのはダメだと思い、ラクトはこう耳元で言った。


「エルジクスが……『覚醒状態』を使おうとしている」

「そんな――」


 ラクトの説明により、ラクト、紫姫、稔の最前線に立っている三人が全員それを知った。しかし、そんなのは望んでいた話ではない。エルジクスは紫姫に負けず劣ら――少し勝った火力と性能を誇る精霊と言っていい。もちろん紫姫は、まだ奥の手を使っていない。だが、流石に覚醒状態になってしまっては大変だ。太刀打ちがこれまで以上に難しくなる。


 しかし、現実も時間も理不尽だ。


「――自分、いざ、参りますッ――!」


 エルジクスは眼帯を装着したままに言い放ち、一瞬にして髪の毛を濃い水色に染め上げた。光をまとうほどの凄まじいスピードでラクトに近づき、稔の『跳ね返しの透徹鏡盾バウンス・ミラーシールド』の効力が無い場所で拳銃を――否。


「弓……矢……?」


 顔を顰めて対抗心を燃やすラクト。一方、何故ここに来て弓矢を出したのか疑問を持つ稔。そんな中で紫姫は、何故彼女がその行動を取ったのかを察していた。精霊としてそういったところを知っていたからだ。


「ラクト! その弓矢は危険だ、絶対に避けろ! ダメだ、受けたらダメだあああああああ!」

「紫姫、そんなに大声を上げ――」


 交わすそうとするラクト。しかし、それを襲ったのは雷雨の光線だった。


「ああああああああ!」


 自らが痺れさせる魔法を使用してきた仕打ちなのかと心に問うが、ラクトは次第に意識が朦朧としてきた。覚醒状態として魔力や体力を全開していただけあって、突然攻撃を止めてしまえば反動が大きくなるのは無理もなかろう。


 しかしその時だ。


「ラクト様に手を出す輩は……いや、稔様の仲間に危害を加える輩は全員葬ってやる!」

「サタン……?」


 サタンは目を赤くしていた。彼女も彼女で相当怒りを持っているらしい。――そして彼女の罪源は『怒欲』、即ち『憤怒』である。言葉でも伝わってくるだろうが、彼女の動力は怒りと言ってもいい。そして、自分が大切にしているラクトを傷つけられて怒り狂ったために、ラクトを救おうと魔法の威力(火力)も増大する。



「――複製レプリケイション……雷雨光線レインレーザー――!」


 

 直前に使用した魔法を複製していたから間に合わなかったのだろう。だが、サタンはそれに応じた活躍を見せた。エルジクスではない者が放ったとみられる光線を、エルジクスとカロリーネに与えたのだ。


「そういえば、弓矢――」


 稔は、ラクトが光線を撃たれてサタンがそれを跳ね返すような形で相手に撃ったことで、それまで全然気が付かなかった。しかし、ふと目を凝らしてみれば弓矢はラクトからは外れている。光線は相手が行った魔法であると考えられるが、それはエルジクスを怯えさせて集中力を壊す結果になってしまった。


 しかし、そう考察したのは稔たちだけではない。カロリーネサイドもそうだった。


「もう一回だ。――雷雨光線レインレーザー――!」

「カロリーネ……?」


 魔法の使用主がわかったと同時、先程よりも威力をました光線をラクトは受けそうになった。だが今は、多少の負傷者が居るけれど洗脳をされた者は居ない。だから、相手を気にすること無く稔サイドは総動員戦を継続することが可能である。もっとも、正義を貫くからには論を聞く必要もあるのだが。


「カ、カロリーネ、なんでこんな爆弾を仕掛けるなんて真似をしたんだ……?」

「ナイトキャッスルには分からないことだ。加えて、私は話す気なんかない」

「口は堅い、か……」


 言い分を聞きたいだけだったが、戦闘狂にそれは通じないようだ。せめて、エルジクスが戦闘狂で無ければ――と思ったりもするわけだが、精霊が穏やかな者であるなんて非現実的だ。稔サイドの紫姫でさえも、戦いになれば大変な火力を持つ技を次々に繰り出してくれるのだから、完全に穏やかな者が居るわけない。


「エルジクス、カロリーネ。もうこれ以上やっても消耗戦になるだけだ。どちらにもいいことはない」

「そうやって負けを認めるとは、自分が思うに貴方は情けない主人です。ミスター・ナイトキャッスル」

「――」


 その言い方をやめて欲しいと常々思う稔だが、今は敵同士だ。嫌味を何の咎めもなく言ってしまうのが自然の理というものだろう。もちろんそれは、攻撃がまだ止まないということを意味する。



「――西方氷雪の銃弾サウス・アイスブレット――」



 紫姫が構えるのを止めたのは驚いたからだ。けれどエルジクスは違う。驚いたからこそ構えるのだ。先程は主人が『雷雨光線』で派手な攻撃を行ってくれたから驚いてしまったが、今回は何もないから大丈夫だった。――というのは最初だけだった。



「――九つの雪弾アイスボール・オブ・ナイン――」



 カロリーネがそう言うと、エルジクスの拳銃から放たれた銃弾の数々と共に、大きな九つの雪弾が稔たちを襲う。『洗脳の波動ブレイン・ウォッシング』は使用されていなかったから行動に制約は出てこなかったが、合わせ技で来られたら『跳ね返しの透徹鏡盾』無しではどうにもならない。


 ただ、そんなバリアが消えてしまう可能性は否定出来ないから時間の問題といえる。そこで、稔に紫姫はこう話を持ち掛けた。正義だから意見を聞くのは止めないとして、まずは精霊を魂石に戻すことを第一に考えようというものだった。


「提案だ、アメジスト。――精霊魂石を壊さないことを重点として、精霊を魂石に戻すこととする。そうして、貴台がカロリーネの元へ行って魂石を奪ってこい。首に掛けられているからすぐに分かるだろうが」

「でも、エルジクスを気絶させれば無問題じゃ――」

「そうだな。しかし、それをするためには私、サタンの他にもう一人強力な――居たか、スルトが」


 紫姫は思い出した。『大噴火アオス・ブルフ』で、どれだけの功績を彼女が稔サイドに与えたかをだ。氷の壁の一部を破壊したのは事実である。稔にも紫姫にもラクトにも出来なかった事だ。確かにサタンが『複製』をすれば火力は増大していただろうが、その時は治癒を受けていたため除外する。


 だが今、サタンが負った傷はもう治っている。加え、スルトは負傷していない。だから、シアン属性の中でも氷系のエルジクスに対して、カーマイン属性の中でも炎(火)系の魔法で戦えるのは非情に大きい。紫姫よりも稔よりも、負傷したラクトは論外として、今の見せ場はその二人だろう。


「サタン、スルト。作戦を説明するから招集する」

「はい、マスター」

「稔様、なんですか?」


 いつの間にかサタンから呼び方が変わっていることに若干驚きつつも、稔は話を進めていく。


「ラクトは負傷したからヘルの元へと送ることにする――って、もう行っているのか。あと、バリアが無くなった代わりに、防御はレヴィアが行ってくれると思うんだが、まあその方針で」


 稔はヘルが治癒をしているところを見てみて、ラクトが丁度手当を受けているところを確認した。それにレヴィアはもうほぼ回復した模様だったし、ラクトが自分の意思を伝えてくれると人頼みにして、レヴィアに防御を任せることにする。


「おいおい。そんな指令、あっていいのか?」

「責任は俺が取る。お前らは俺に従えばそれでいい」

「了解した。――で、貴台はカロリーネを相手するのか?」

「ああ。それと、お前らが精霊魂石の中にエルジクスを封じ込めた時に何か変化することって有るか?」

「精霊魂石が赤色に光る。どんな属性でも精霊でも、それは同じだ」

「把握した」


 稔はそう言うと、右手をグーにして前に出した。そして何も言わないままに、紫姫もサタンも流れに乗ってスルトも、前方方向へグーを出した。紫姫は即座に何をするのかを心を読んで理解できたが、サタンとスルトはさっぱりだった。しかし成り行きで流れに任せるのも一案だと、稔が口を開いて言葉を発するのを待つ。


「それじゃ、勝戦と神の祝福を――」


 稔が前にグーを出すと、内容を知らされていた紫姫が前に出した。流れに乗ってサタンとスルトも前に出して、目と目を見ながら全員で意思疎通を図る。そののち、稔は三人と別れてカロリーネを相手するために紫色に光を放つ剣を構えると、紫姫が攻撃で作った穴に見向きもせずにテレポートし、『氷結の構え(フリーズ・バリア)』の中へと侵入した。


「遅かれ早かれ、貴方がここに来るとは驚きです。ミスター・ナイトキャッスル」

「厨二病は解けたようだな。……さあ、大人しく爆弾の在処を言え」

「嫌ですよ。言うわけないじゃないですか。――もっとも、もうあの赤髪の召使には知られていると思いますが」

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