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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-21 メイド・クインジーン-Ⅴ

 時間の経過は速い。しかしながら稔は、スマホ等の携帯端末を弄ってまで暇を潰す必要は無いとの判断に至った。一〇分程度会話で乗りきれるだろうと、心内で安易な気持ちが働いたのである。


「(でも、気まずいよな……)」


 しかし。稔が一〇分間の間一切喋らないとすれば、それは稔と召使たちの関係に関わってくる。

 結局、いつの時代でも何かと共存する必要がある。それは人だけじゃなく、動物や植物でもそうだ。太陽にしたって、星々にしたってそうだ。つまり記せば、共存しているものはきりがない。


 そして稔たちに当てはめれば、それは『生きていくため』ではなくて、『円滑にするため』『よりよい関係を築くため』などが大きな理由となる。そしてそのために必要なのが、言わずもがな『コミュニケーション』だ。


「――」


 けれど稔が意識したところで、所詮気づくのはラクト程度だ。けれど彼女は今、そんなことに耳を傾けることが出来るほどの余裕がある訳ではない。寿司は鮮度が命で有る以上、テキパキと捌いて造っていく必要があるのだ。


 もしお持ち帰りするとしても、醤油などの調味料などは保存が効くし何度かに分けられる。けれど刺身や炊いた後の米飯は、一度作れば何度かに分けられると言っても無駄手間が掛かる。その上、保存をするためには常温下に置いておけば大変なことになる。


 しかしながらそんなことを気にしている場合でないし、そもそも本題はそんなところに隠れていない。


「(ラクトが喋らねえと、なかなか会話が……)」


 稔がヘルやスルトや紫姫と話す際、特に支障が出たりするわけではない。けれど彼女らと話す際、どうしても『主人に対する召使』という根強い考えが彼女たちを左右し、彼女らの本当の喜怒哀楽を見ることが不可能になってしまう。そして作り笑いと、冷たい反論だけしか見れなくなっていく。


 けれど、そんなところでバランスを整えてくれているのがラクトだ。『煽りの神』と稔が称して皮肉っているが、本当は好きでやっているわけではないから言われる筋合いは無い。けれど本人も、「改善の兆しがない」と思っているから、皮肉っても皮肉られても悲しみは生まれない。


 煽りが出来るということは、理性を保てればどんな話でも対応出来る人である。だからこそ、ある程度の弄りも対応してくれる。言い換えるなら、『ボケにツッコミを入れてくれる可能性が極めて高い』わけだ。


 いいクッション(胸の話ではない)である上、自分の一番の理解者。そう考えると、稔は自然とラクトを頼りたくなった。暇つぶしに弄れるとも思った。――でも、それは無理だ。だからこそ、話の生まれない状況が生まれてしまう。まだ負の連鎖は始まっていないが、阻止しなければいずれチームワークは崩壊する。


「マスターが髪の毛をクルクルしているのは、考え事をしているって意味っすよね?」

「まあ、そうだが……」

「そんでもってラクトさんの方を向いてるってことで、大体何を考えているか分かるっすよ」

「当てられたら大変だから言うなよ?」

「口封じされちゃいましたか~。仕方ないっすね」


 稔が色々と考えていた訳だが、ラクトと同じようで居るのはヘルもそうだった。心の中でしか『召使と主人』ということを考えていないだろうラクトとは違い、ヘルはその感情を表に出しつつ、内面に閉まっておこうとしている。


 稔はヘルが何を考えているかは分からなかったが、取り敢えずは言わないでくれるヘルを好評価した。


「(一〇分、早く過ぎるんだ……)」


 あっという間に過ぎていくのは確かだ。けれどそれは、何かに酷く集中していたりだとか、寝ていたりだとかしなければダメだ。緊張すれば時間なんて長く感じてしまう。その緊張を忘れ去って解こうとするのだが、それが中々出来ない。そうしてまた、時間を長く感じてしまうという話へと繋がる。


 特に会話が無くとも。ヘルやスルトや紫姫、集中モードのラクトは特に気に留める内容があるわけではなかった。故に「気にし過ぎなんだろうな……」と稔は思うのだが、そう思っても時間が経つのを早く感じることは出来なかった。スローペースという言葉しか当てはまらないくらいの経ち具合だ。


「(この気分を打破する為に、何かいい得策は――)」


 稔はここで一つ、本当にするべきことを思い出した。時間の経過がどうこうとか、そんなのはどうでもいい。一〇分間蓋をしたままで過ごしていいわけがなかったのである。アクが出れば、それを取るのが見ている人のお仕事だから、そんな『するべきこと』を忘れていたということで、稔は少し驚いてしまった。


 そんな中、スルトが稔に問うた。マスターの行動に疑問を抱いたのだ。


「マスター、蓋を開けても大丈夫なんですか?」

「アクが有るかどうかを見るからな。無ければまたすればいいさ」

「そうですか」


 スルトはそう言って参考程度に話を聞くと、まずは味噌汁を定刻通りに作るところから始めようとの思いで、スルトはすぐさま自分の持ち場に戻った。『アク抜き』という動作を自分がこれまでしたことがなかったのだが、ある意味『指導』を稔がしてくれたおかげで、スルトは特に問題なしにそれを進めることが出来た。


 そんな一方で稔は誰かと話したことによって、時間の経過が元に戻ったように思えた。作業を始めたからという理由も最もであるが、それでも時間の経過が戻ったように思えてくるのは、誰かと話したという一つのポイントが生まれたためと考えざるを得ない。


「アク抜きか……」


 カレーだとかは必然的にアク抜きが要るわけだが、稔は「味噌汁ごときでアク抜きが必要だろうか」と思った。もっとも、自分に作るのならその構えでなんら問題はないのだ。日頃、そんなことをすることは滅多に無い。けれど、やはり他人へ出す物。どうしてもピリピリして、神経質になってしまう。


 とはいえ、重い蓋を取らなければアクが有るのか無いのかも分からないわけだ。いくら透明な蓋だとはいえ、肉眼で曇った蓋の下の液体を確認できるかと言われれば、それは首を横に振らざるをえないだろう。


「ねーじゃん……」


 ただその蓋を取って確認した結果、アク抜きは必要ないとの判断に至った。けれどまだ時間は一〇分以上経過した訳ではない。見積もって一五分、まだまだ時間は掛かるから、いつアクが生まれるか分からない。


「(目の保養にラクトでも見てるか……)」


 またラクトである。接している時間が長いため、どうしても稔は頼ろうとしてしまっている。だが彼女は依然として、寿司を真剣に作る表情を変えたりしない。悶えるほどの量のわさびをシャリの上に乗せたりはしていない彼女だが、やらかしそうで、稔はそれを見ていることで暇をつぶせそうだった。


「(てか、結構でかくないか?)」


 稔はそう思った。作られている寿司は、どれも日本でよく見かけるような『にぎり』と言われる種類のそれである。シャリは酢飯を節約したいのだろうか、少し少なめである。だが対照的に、寿司ダネとなる『刺し身』部分は非常にでかい。日頃から見慣れているものよりかは全然でかい。


 外見からは全くと言っていいほど漂ってこないラクトの『親切心』だが、それは主人への奉公の心情から来るものではないらしい。主人だけではなくて、色々な人へ注ごうとすれば注げるもののようだ。


「(なんて完璧超人なんだ……。つかそんなに超人レベルだったら、日頃からそれで居ればいいのに)」


 もっとも、人がどうその時を過ごすかなんてその人の勝手だ。寿司を真剣に握っている人が今居れば、味噌汁を作っている人もいる。設営準備に追われている人達もいれば、敷設作業に追われている人も居るのだ。『Some』と『Other』を用いた、そういう話があちこちにあるのである。




 そんなこんなで、時間は流れていった。ヘル、スルト、紫姫から稔は特に疑われること無く、ラクトも真剣に寿司を作っていたから同様に、目の保養にラクトを見るというミッションをクリアできた。特に胸が揺れるといったこともなくて、それといった『イベント』は発生しなかったが。


「マスター。一〇分以上経過してるっすよ」

「そっすね。んじゃまあ、こっから残りの材料を放おってくださいな」

「……適当っすか?」

「なわけないだろ。経験からだ」


 経験――というよりかは、「味噌汁ごときで神経質になるな」という思いが強かっただけだった。「他人へ出す物」だから、当然最低限の配慮は必要だし、味もその一つだ。けれどそうもいかない。仮に調味料が有ったりすると、それを味噌汁の中にぶちこんでしまう輩が少なからず居るのだ。


 何も味噌汁だけじゃない。カロリーや塩分を増やすだけなのに、醤油やソース、ケチャップやマヨネーズをトッピングしようとする哀れな奴らが居るのである。もちろん寿司に醤油、目玉焼きにソースだとかなら話はわかる。だが、「なんでもかんでも調味料を」とは如何なものだろう。


 ――しかしそれは、経験談だ。そういう祖父と父親を持っていたため、半ば反面教師、稔は調味料なんて適当でいいとの考えに染まっていった。味なんか食べる人に変えられる可能性もあるのだから、最低限の配慮があればそれでいい。それが今の彼の考えだ。


「加減適当主義でいくなら、味噌の量はどうするんすか?」

「別になんでも『適当にしろ』なんて言ってないんだが……。まあ、最低限の配慮だけしてくれればそれでいいだろ。味が予想以上に良かったり酷かったりしない限り、食べた人はそう気に留めないんだし」


 ヘルの質問に稔が答えると、横からスルトが割って入ってきた。


「マスターが考えているほど、そう簡単にいかないと思いますが……」

「スルトはそう思うのか」

「はい。やはりホテルなので、そこら辺はチェックされるんじゃないですかね?」

「確かに、料理人が煩く言わない訳がないか……」


 一応は厨房と厨房に置かれている食材を借用している。そんなふうに考えれば、貸し出していると言えなくもない料理人たちが文句を言う権利が無いわけない。


 ありそうな実例を考えると以下の感じだ。


 美味しい料理を出さないでクレームを付けられた時に料理人達に非難が飛ぶ可能性があるから、そうなれば「貸し出していた」「稔たちが作った」という事実を述べたとしても、「なぜ貸したのか」となって、ホテルに悪影響に成りかねないし、ひいては、自分たちが職を失う原因になるかもしれない――。


 だからこそ、それを心配して料理人達が文句を言うのは考えられる。


「取り敢えず、味噌の加減はマスターがするといいっすね。責任転嫁出来る訳っす――」

「ちょっと待て。責任転嫁できるからってのはあれか? 押し付けか?」

「簡単にいえばそうっすね。私召使なんで、そういう責任を取らなくちゃいけない感じは嫌っすから」

「……」


 実際ヘルは逃げることが出来る。サモン系であるから、治癒するのも魔法陣の中だ。そのため「責任を取る必要がある」という話は、稔も聞き逃すことは出来なかった。自分が責任を取らなければいけないような話が乱立して羅列してくれば、稔も憤慨することになってしまうのはすぐに見える話である。


「いやいや、ヘルこそするべきじゃないのか? ……そうか、分かった。主人命令にするか」

「なっ――」


 稔は『主人命令』ということにして、逆らえないようにしようかと企んだ。主人と召使という立場を強く理解しているからこそ、ヘルも驚きを隠せない。『主人命令』と呼ばれる命令は言わば『絶対命令』だから、本来は悪用するべきではない。もちろんそんな決まりはないけれど。


「嫌っすよ! なんで主人命令にするんすか!」

「でもヘルって、結構料理得意じゃないのか?」

「そうっすけど、やっぱり責任者はマスターがなるべきっすよ」

「そうか? もし、『主人が召使に負けたような風に見えるのは――』とか思ってのことだったら、俺はその意見を受け入れんが」

「いっ、いや、そんなことは――」


 ヘルはとても驚いた様子を見せた。主人だからとか召使だからとか、そういうことを考えない方が稔は良かった。だからこそそう言い、自分の意志を強く持とうとした。けれど、そんな討論で一人大きく出た者が居た。


「アメジストがそういうなら、我からも一言言わせて欲しい」

「なんだ?」


 紫姫はパッケージに入った豆腐と乾燥わかめと油揚げを手に取ると、唾を呑んでから稔に言った。


「我は、責任を取るのは主人が好ましいと考えている。それは、召使から下に見られるからとかではない。ただ単に、そのほうが好都合なのだ。召使と一般の人間が仮に裁判を行うとして、公平な裁きが受けられると思うか?」

「それは――」

「召使も精霊も罪源と同じ、主人の貯蓄を食う悪奴あくどだ。基本的にはお金を生み出すことが出来ない、稼ぐこともそう簡単ではないのだから、結局主人を頼るハメになる。そう考えれば普通、主人が責任を取るべきだという結論に至るだろう?」


 稔は口籠った。紫姫が言っていることが最もなことだったためだ。召使が職に就くことは、何も禁止されていることではない。けれども稔の周囲に居る召使は働いているわけではないし、もちろん貯蓄もない。そんな中で、本当に公平な裁きなんて受けられるはずがない。


「まあ、あまり難しいことで説得するのは我も得意ではない。ここで折れてくれると有難いのだが……」

「仕方ないな」


 稔はそう言うと、特に反論を述べること無しに折れた。


「そうか。では我はこれらの食材を投入することするから、貴台も貴台で調理を進めてくれ」

「分かった」


 稔は紫姫とそう話を進め、彼も同じように食材を持ってきてそれを入れていく。味噌も入れることになったけれど、いついれるかは召使たちに決めさせることにした。


「――でも、味噌をいついれるかはお前らが判断しろよ」

「理解したっす」

「把握致しました」

「了解」


 召使三人からの回答を貰うと、稔は「うむ」と言って唾を呑んだ。

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