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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-9 スディーラとアイス

 そもそも、ラクトの名前の由来は『ラクトアイスが好きだから』というところからきている。つまり、彼女はアイス類に関してがっつきやすい、という性質のようなものが有るわけだ。


 一方で、稔はそこまでアイスが嫌いなわけではなかったが、あまりがっつくような性格ではなかった。あったら食べる程度――でもなかったけれど、「どうせアイスは腹の足しになんねえよ」と思っていたため、がっつくことがなかったのだ。


「このお店です」


 アイス販売店は、集落に入って少々狭い道を進んだ先に有った。ただ、本当にそこまでの道が凄く狭かったので、何も知らないで案内された人は驚きを隠し得ないはずだ。「この先に、本当にあるのか?」と聞いたりしそうだ。


 集落に入り、僅か二〇秒程度。それぐらいでアイス販売店まで辿り着いた。


「久しぶり、リートちゃん――と、そこの二人は?」

「ああ、彼らはこちらが稔様、こちらが彼の召使ラクト様です」

「へぇ。リートちゃんのお友達かい?」

「友達であって、この国を変えてくれる方であると思います。この国を変えるために、私が彼に『当国民全権利譲渡』をしたわけですから、友達というよりも、主人というべき立ち位置ですし」


 笑顔を浮かべて言うリートに、王女と親しい関係らしい男が言った。


「王女がそんなことを言うだなんて――」

「いや、寧ろいいんですよ、これで。私たち『王族』は、『象徴』であるべきなんですよ。理想を掲げ、そのためにありとあらゆる事をしていくのは王族の仕事であると思います。しかしながら、指揮するのは才能のある者に頼むべきだと私は考えます」

「指揮するのは才能のある者――。まあ、それでこの男に権利を譲渡したのか」

「ええ」


 話の中、「『友達』ではなく『主人』」と言っていたリートだったが、本心ではそんなこと思っていなかった。国を変えてくれる方、という言い方も本心で思っていることではなかった。


「おら、折角リートちゃんに友達出来たんかと思たけど、そういうわけでもないんやね」

「それは――」

「まあ、立ち話もなんだい。ほら、店に入った入った」

「あ、有難うございます――」


 言われて、リートが半ば強引に店内へと入らされた。でも、そもそもアイスを食べに来た訳であるし、そもそもリートだって何処で食べるのかだとかは言っていなかった。だから強引に入れられても、稔とラクトはリートを追うようにして、ため息を付いて店内へと入っていった。




 店内の奥の方の座席が開いているということで、スディーラがそこに三人を案内した。だが、そこはアイスを売っている小さな店とは思えないほどの部屋だった。軽く、6畳くらいは有る。旅館くらいの大きさまではいかないが、三人が寝るには十分なスペースと言えた。


 そして中央のテーブルにメニューが出されると、会話が始まった。


「それで。稔くんだったけ?」

「あ、はい」

「僕、スディーラと言うんさ。リートちゃんとは、幼なじみみたいなもんやな」

「そうなんですか」

「ああ。まあ、年齢はそこまで違うわけではないし、馴れ馴れしくしていいよ」

「わかった」


 スディーラ、と名乗る男の人は稔と同年代だとか言っていた。ただ、稔がスディーラに年齢を話した覚えはなく、それは『見た目』で判断したものであるということがすぐに分かった。


「ああ。んじゃアイス、どれ食べる?」

「そ、それじゃ、俺はこのチョコチップアイスを――」

「ラクトさんは?」

「抹茶で」

「リートは?」

「無難にバニラでお願いします」

「かしこまりました。それじゃ、少し待ってな」


 言って、スディーラは笑顔でリートらの座る座席を後にした。営業スマイル、というわけだ。


「それで、リート。幼なじみという事らしいが、昔のリートってどんな感じだったんだ?」

「女性らしさも欠片もない、少年のようだったと思います」


 過去の自分を頭に思い描きながらリートは言う。そして、続く。


「なにせ、昔は本当に『超』が付くほど男尊女卑の国でしたからね。エルフィリアがマドーロム最強だった頃は、多くのカップルは女子ではなく男子を産んでいたそうです。『帝国のために』です。その頃は、『男二人、女一人』を産むのがスタンダードだったようで、今とは逆なんですよね」


 最後に息を吐き捨てた後、リートに稔が質問をする。


「逆?」

「はい。今は、エルフィートは『隷族』と言われていることもあるので――」

「奴隷として扱いやすい女を多く産むってか?」

「そういうことです……」


 悲しそうな表情で言うリートを見て、稔は良い気分はしなかった。だが、まだ過去の話が知りたい気分だった稔は、更にリートに過去のことを聞いていく。


「酷い話だということは分かっています。でも、そういう流れになったのはつい最近なんです」

「最近……?」

「はい。私が第一王女になってから、つまり、兄がこの国を総統するようになってからなんです」

「――それって、兄が何かやらかしたからなんじゃないのか?」


 稔がそう言うと、リートは首を左右に振った。


「いえ、違うと思います。そもそも、昔は今よりももっと他国からエルフィリアへ来る人が大勢居ました。ですが、今のような奴隷みたいな扱いをされるエルフィートは居ませんでした」

「そうなのか」

「はい。ですが兄が王となってから、エルフィリアに来る人がエルフィートを奴隷のように扱いだしたんです。それから、兄はエルフィートを保護するための法律みたいなものを整備していきました」


 リートは兄が行った偉業のような事を述べていく。


「普通であれば、自国民が貶されて喜ぶ王なんて居ません。――でも、事態は収まることを知らなかったんです。なので、兄はやらかしたわけではないと思います」

「『突然』というところが、凄く謎を呼ぶ箇所では有るな――」

「そうなんですよ……」


 しかし悩むだけで、稔もリートも、ラクトも。解決する方法を模索して、全然見つからなかった。


 そして、そんな悩んでいる三人にスディーラがアイスを持って登場する。かつ、有難いことにそのアイスにはスプーンが付いていた。プラスチック製のスプーンだ。


「はい、お待ちどう様」


 言って、三人が注文したアイスをそれぞれに配っていった。ただ、アイスと言ってもそれは柔らかいもの、つまりソフトクリームだった。しかし、この世界には『ソフトクリーム』等という言葉は存在しなかったため、『アイス』で括っていたようだ。


 現実世界でもそうだが、『アイス』と一括りにしたほうが分かりやすいのは確かだ。でも、『アイス』と言われているのに『ソフトクリーム』が出てくると、なんだか騙されたような気分がしてならない。


「それで、リート」

「なんですか?」

「なんで、ここに来たの? 墓参りの時期はまだだけど――」

「それは、ボン・クローネに向かってて、その途中でタワーに行きたいって二人が言うものだから――」

「そんな理由か。……まあ、この国で生きるのなら礼儀を学んでおいて損はないしな」

「そうですね」


 そんなことを言いながら、皆アイスを食べていく。美味しそうに食べる者も入れば、がっついて食べていく者も入る。――いや、伏せなくても分かるか。前者がリートで後者がラクトであるのは言うまでもないか。


「んで、リートたちはこれからボン・クローネに行くのか?」

「は、はい……」

「んじゃ、付いて行っていい?」

「えっ――」

「いや、今の時期ってそんなにアイス売れる時期じゃないからさ。それに、もう――」

「もう?」


 間を取ろうとしたスディーラに、リートは聞いた。一体何で間を取っているのか。「そういう人じゃないだろ、お前は――」ということをリートは感じていたため、そう聞いたのだ。


「もう、おら――僕の親居ないし」

「えっ……」


 その話を聞いて、リートは驚愕した。だが、その裏で声には出さなかったが、稔はスディーラの一人称が何時の間にか変化していたことに驚いていた。 


「それにさ、電気代とかが生活費を食っていくのもどうかと思うんだよね」

「でもそれは――」

「僕の食費も、娯楽費も、全て消えるんだよ。働いたら消えるって、本当にどう思うかって話」


 さり気ない政府への反発。でも、スディーラの言い分にリートは変に反抗することなく、すんなりと聞き入れた。そして、謝罪する。


「ごめんなさい。幼なじみ一人救えない王女で――」

「別にいいんだ。……それで、駄目かな?」

「いえ、全然大丈夫です」

「それじゃ、この店閉めるわ」

「行動が早いですね……」

「そりゃ、仲間に迷惑かけちゃアカンってば」


 はは、と笑みを浮かべると、スディーラは一旦背を伸ばした。そして、ある提案をする。


「――それでアイスがまだ残っているわけなんだけど、食べる人いないかな?」

「はいはいはーい!」

「ラクトちゃん、幾ついく?」

「『全て(オール)』で!」

「本気で食べれるのなら、凄く嬉しいけど一旦他の人にも聞いてみていいかな?」

「うん」


 スディーラは言ったとおりに行動をとった。


「リートは食べない?」

「はい、食べません」

「稔は?」

「俺も要らないっす」

「んじゃ、決定か」


 トントン、とラクトの背中を叩くスディーラ。そして、ラクトは満面の笑みを浮かべてスディーラと共に、アイスが入っているショーケースの方向へと歩いて行った。だが、稔は有ることに気付いた。


 そして、ショーケースへと歩いて行くスディーラを一旦ストップさせて言う。


「なあ、スディーラ」

「なんだ?」

「思ったんだが、さっきソフトクリーム出したよな?」

「アイスのことか?」


 稔は『ソフトクリーム』と『アイス』の違いがエルフィリアには無いのか、と新たな発見をしたから少し間を置いた。理解するためには時間が必要なのは、何処でも何時でも同じだったのだ。


「気になったんだが、あれの原材料って尽きたのか?」

「尽きてないよ。でも、どうせあと一人分しか作れないから、ラストは僕自身への褒美ってことにする」

「理解した」

「んじゃ、取り敢えず僕も全速力でアイス作るから、リートと稔はそこで待機してて欲しい」

「いや、そもそも待機しなきゃいけねえっつの。ラクト待たなきゃいけないし」


 ラクトの事だ。何か、変な力を使って一瞬で食べ終わってしまいそうな感じもするが、期待しすぎて変に公開するのもどうかと思う。稔はそういった背景を踏まえ、変に深くは考えないことにした。


「つうわけで、これから僕はアイスを作るから」


 言って、スディーラはやっぱり笑みを見せてアイスを作りに向かう。


「待機、ということか。――って、もうラクト持ってるし。……ショーケースを魔力で開けたのか?」

「大正解。そゆことよ」


 ため息をつく稔。


「所詮、犯罪も何もバレなきゃOKってことなんで――」

「その台詞、どっかで聞いたこと有るんだが……」

「まあ、そういうことをするために使った訳じゃないんだ」

「うん。犯罪者じみたこと言っている人が言ってることに同感なんて出来ないね」

「ちっ――」


 ラクトは舌打ちした。だが、すぐに笑顔を見せる。


「どうした?」

「いや、やっぱりご主人様って変なこという人だなって」

「そっくりお前に返してやるよ、その台詞」

「なんだと!」


 言い合いに発展しそうだったが、そこで静止が入った。スディーラ……ではなく、リートの声だ。


「全く。よしてくださいよ、仲間割れなんて。私、仲間割れなんて起きても止めるのは不可能に近いんですからね? 今じゃこうやって色んな人とお話していますけど、昔は独りぼっちでしたから」

「そうなのか」

「そうです。ほら、さっき言った――」


 と、そんな時。スディーラが途中で口を挟んだ。右手にアイスを持ち、左手にスプーンを持って少し救って口へと入れる。そして冷たいアイス特有の温度を歯に感じた後、リートに言った。


「リート、昔は男子みたいに振る舞えって親に言われてたもんね。それで、僕と親しくなってから親が亡くなってお兄さんが王になるまでの間、僕ぐらいしか友達居なかったんだっけ?」

「言わないでください!」

「黒歴史なんて人は皆持ってるっての。だから、気にするな」

「慰めているんですか?」


 スディーラは「うん」と頷くが、リートにはそんな風に聞こえなかった――ように振る舞った。でも、一国の王女は純粋さと悪い一面を持ち合わせているらしく、比率が違えど見えるときは見えるもののようだ。


「すいません、慰めに聞こえませんでした……」

「なんだって!」


 あからさまな驚きようを見せるスディーラ。一方でリートは嘘だと告げる。


「冗談、です」

「なんだ、冗談か」


 言った後、リートとスディーラが爆笑した。一方の稔は、後ろでラクトを見ていた。スディーラが少しずつ口へとアイスを運んでいる一方、こちらの女性は凄く速いスピードで平らげていった。また、カップに入ったアイスだけあって、減り方も凄かった。


「――美味しいか?」

「うん」

「そっか」


 大体であるが、カップの合計の半分くらいのアイスクリームの量を彼女は平らげたと思われる。虫歯とかがある人にこれをさせたのなら、大変なことが起こる。


「んじゃ、食べ終わったらタワーな?」

「了解した」

「わかりましたっ!」


 そんな会話をしながら、リートと稔とスディーラがラクトの完食を待った。

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