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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-12 会場設営-Ⅱ

 晩餐会の会場となるその部屋に稔とスディーラ、そしてラクトは到着した。テレポートして居る最中に違う場所へと飛ばされて待たされたりということはなく、時間もそう気にすること無しに会場へと辿り着く。だがしかし、着いた刹那。目の前にした会場内の準備の光景に稔は言葉を失った。


「嘘……だろ……?」


 言葉を失ってはいなかったラクトが言った。なにしろ、目の前にした光景は積極的に働いているものが誰一人として居ない光景だったのだ。まるで目の前に居るのが全員ニートかのような、そんな印象を受けてしまう。


「質問なんだけど、この会場の設営準備の指揮は誰が執ってるいるの?」

「それは――」


 口籠ってしまうスディーラ。何となく予想ができてしまう感じが否めないわけだが、敢えてラクトは心を読むことをしなかった。唐突に聞いた感じも否定できなかったが故、考える――もとい、答えを考える時間を与えようと考えたのである。


「現場指揮官的なのは僕ではない。――が、全体的な指揮官は僕だ」

「要するに、本社のトップがスディーラってこと?」

「言うなればそうだね」


 本社のトップという言葉が妥当という訳ではないが、大体合っているといえば合っている。現場主義を掲げるような現場のトップと、それをまとめあげる本部の最上層部。形は違えど、まるでニートのように働かぬ者も居るということを踏まえれば、現場と本部という関係が考えられなくはない。


 もっともスディーラだって手伝いを行うわけだから、本部サイドよりかは現場サイドと言えよう。本部サイドに存在するのはリートなどの王族や、働いていない執事やメイドたちを雇っている主だと考えられるからだ。


「全く、指揮する人がしっかりしないで誰がまとめあげるのかって話だ。遅刻もして、それでもトップか」

「返す言葉が見つからない……。だが、これを反省として僕は今後に活か――」

「口頭でそんなことを言える余力が有るなら、早く指揮したらどうだ?」

「はっ、はい!」


 ラクトに怯えていると見て取れるようだが、彼女が言っていることは間違っていることではない。稔には出来ないような言い方では有ったが、少々強めな口調のほうが指揮をする時はいい。反感を買うのを恐れていては、そのうち「それでもお前はリーダーか」と問われてしまうだろう。


「……お前ら起きろ! 作業は止めたのか!」


 ラクトに指示された通り、スディーラは作業中に休憩を取っていた執事やメイドに怒鳴りつけた。持っていたペットボトル内の水を飲むものから、果ては寝て寝言まで言う者まで。それはもう多様であったが、指揮するスディーラの言葉に逆らう者は居なかった。


 運び込まれたテーブルクロスや花瓶、その他晩餐会で使うであろう飲み物が入ったダンボールの箱が軽く一〇個を超す。運ぶ為の労力があまり要らないのはスディーラから聞いていたため、「疲れた」原因は運ぶ事が原因ではない。もっと言えば、執事やメイドが仕えている主人の仕業という訳だ。


「すいませ――」


 稔が深く考えていた時だ。隣でスディーラに指示を出したラクトに声を掛ける男が一人居た。しかし刹那、稔にあたかも風邪を引いたかのような悪寒が訪れる。もちろんその理由は単純で、言うまでもなく。


「Y遺伝子を持つ劣等奴れっとうどが私に近寄るな。汚らわしい」


 言い放つラクト。


「あちゃー……」


 そして、頭を抱える稔。インキュバスのせいで男を毛嫌いしていたラクトの本性がそこで露わとなってしまった。話しかけただけで会話拒否されてしまい、完膚なきまでに言われる可能性すら孕んでいる。そんな事を思えば稔は、同性として男の気持ちに同情せざるを得なくなる。


「ラクト? 男が全員悪い奴だとは思わないんだが……」

「私の胸をじろじろ見ようとしたからね」

「――」


 稔は「ダメだ、言い返せねえ……」と、心内で自分の無力さを痛感した。そんな時、ラクトに会話拒否をされた男が稔に助けを求めてきた。しかし見た刹那、稔は更に無力さを痛感した。否、それだけにすぎない。


「(ラクトのこれまでを知っているものとしては、声を掛ける前に止めておきたいものだったな――)」


 話しかけられたと同時に強い自責の念に駆られ、稔はため息を着いた。しかしながら、それでは回答を自分が拒んでいるかのように思われてしまうことを考慮し、稔は再度聞いてきた為に会話のボールに乗る。


「――この召使の主人さんですか?」

「そ、そうですが……」

「会場設営の担当者かと思ったんですが、違いましたか?」

「た、担当者は俺じゃなくて彼女――」

「すいません。ありがとうございます。あ、良ければこれをどうぞ」


 会場設営に携わっているというのにスディーラが担当者で有ることを知らないその男へ、稔は教えてやる。ただ、同時にその男から名刺を貰った。名前こそ名乗って行かなかったものの、名刺を見れば一目瞭然だ。けれど名刺なんざ見る間もなく、ラクトの人差し指が鼻の頂点に当たる。


「稔に一つ、言っておかなければいけないことが有る」

「な、なんだ……?」


 唐突に話をし始めて進めていくラクト。強く出る姿勢はこういうことを表すのだろうが、稔は「俺には到底真似できん」と決めつけた。そこは臆病者、仕方があるまい。


「非漢三原則って知ってる?」

「……は、はて?」

「要するに、『男と【話すな、関わるな、楽しむな】』っていう私なりの原則なわけよ」

「インキュバスのせいで、そんな原則まで作ってしまったのか……」

「別に私、前世で性交渉は楽しんだから処女のまま死んでいいし」

「こういう公の場所でそういうこと言うな!」


 ラクトの恥ずかしさの無さには呆れる程だ。パンチラ程度では普段じゃ絶対に動揺しない彼女だから、公の場所で話す内容も非常にオープン。それは良いことでも有り、悪いことでも有る。加減を効かせてほしい稔ではあったが、それまでの加減なしでの会話を楽しんでいたラクトには苦痛に他ならない。


「まあ、主人と召使だから稔は特別として。それでも、成果上げれば別だけどね」

「じゃ、成果上げる前から否定すんなよ」

「それは無理だよ。否定しないが故に変態行為に合うんじゃん」

「まあ、それは……」


 稔は言い返そうと必死になる一方で、ラクトがある提案をした。自ら提案をしてしまうところからは頭の回転の早さが窺えるわけだが、それは外見とのギャップが有り過ぎるとしか言えない。


「でさ、一つ提案。心を読んでみればいいって話」

「視線を感じ取る以外に、か?」

「そういうことだね」


 小さく頷くと、ラクトはこう続けた。


「『見てしまうもの』って意見には、『見るな』と回答しても平行線のままだしね。それに、なにしろ私のチャームポイントだし。稔がエルフィリアで国家元首になるのであれば、ある程度の人気度を保つためには必要かなって思って」

「ラクトって良い奴だな。――まあ、今の男の人には謝る気は無いんだろうけど」

「最後のところでぶち壊しだけど、間違ってないから否定出来ないっすわ」


 言いつつラクトは笑みを浮かべた。先程の驚いたあの男の人の気持ちになってみれば、ここまで笑顔になってもらっては、堪忍袋の緒が切れたかは別として、怒りを抑えるのも忍耐の限界といったところだろう。


「……言葉じゃ表せねえだろうが、みっちり働けばいい」

「それ主人命令?」


 鼻の頂点に当てていた人差し指を離すと同時に、稔はラクトに微笑を浮かべて言う。


「心を読むといい」

「んじゃ読むよ」


 ラクトは言い、即座に能力を使う。そして、結果が出ると言った。


「違うんだね」

「そりゃ、極力は主人命令とかは避けたいところだし。召使が嫌がっているのを平気で推し進めるような主人にはなりたくないしな。だからこそ、臆病者チキンとか揶揄されるんだろうけど」

「解ってるじゃん」

「お前が言ってんだろ!」


 稔を褒めたはずだったラクト。だが結果として、それが馬鹿にしているように聞こえた稔から怒りをもらう形となった。特に苛立ったりすることもなくて稔に怒ったりすることもなく、ラクトは即座に「ごめんごめん」と軽い平謝りを行う。


「ここまでの俺の話を整理すると、『ラクトが望むのならしっかりと働け』って話だ」

「ニートじゃあるまいし、仕事をサボる女って見ないほうがいいよ。てか、稔こそ働いた経験ないじゃん」

「べっ、別に俺は職場体験でだな、色々と学ん――」

「体験社員と正社員は違うよ。……まあ、会場設営はどちらかといえば前者だろうけど」

「じゃあ、経験無くても問題ないな。やったぜ」


 稔は別に完全勝利した訳ではないが、ラクトの理論が崩れたような気がして嬉しさを表情で見せる。見ていたラクトからすれば、「この主人は私に勝っただけで喜ぶ馬鹿なのか……」と思ってしまう訳だが、これでいて自分を助けてくれた張本人であったこともあり、言うのを躊躇った。


 そうやり取りをしていると丁度先程の男からの話が終わって、スディーラが稔とラクトに話かけた。


「さあ、ここからが君たちの真骨頂だ。ここからは必死こいて頑張ってもらわないと困る」

「分かった。――で、早速何から手を付けていく気なんだ?」

「まずはテーブル配置だろう――と思ったんだが、運び込んだ時に固定したようだ」

「じゃ、何からするつもりなんだ?」

「話から察しないと分からないのか、全く。テーブルクロスを敷くことに決まっているだろう。それと、出来れば二人一組が望ましいかな。片方が几帳面であるとなお良いと言えると思うし」


 テーブルの話をしていたのはそれの伏線だったようだ。だが、稔もラクトもそんなことを気にしていたわけない。自分に不利益なわけでもなかったからラクトは能力を使わずして聞いていたし、稔からすれば察する力は一時的に上がることはあっても全体的には壊滅的。故に、二人とも言うまで知ることはなかった。


「几帳面な性格を考えれば、俺よりラクトが指示を取るべきだな、そうなると」

「私が稔と強力すること前提なの?」

「命令にしようか?」

「さっきしないとかほざいていたくせに、よく言うよ」


 ラクトは協力しないような素振りを見せているが、注訳を加えよう。これは演技である。


「終わったら花瓶をテーブルの上に置いていく。僕はその作業をしているから、終わったら取りに来るといい」

「分かった」

「テーブルクロスも花瓶が置いてあるところに――」


 場所を言わないままでは円滑な作業も進められないと思って、スディーラは説明を加えようとした。しかしながら、そんな善意を大いに裏切るメイドがそこに現れた。ピンク色の髪の色に染めた女性だ。


「テーブルクロスでしたら、丁度これ残り二つ有るのでお使いください」

「二つか……」

「いえ、無理に二つともしろとは言っておりません。貴方様がお好きな様にお願い致します」

「そう言われると二つという選択肢以外浮かばないんだが……」

「そっ、そうなんですか!」


 メイドは驚いたようで、顔にもそれを肯定するような驚愕の表情が浮かぶ。


「ラクト。二つでもいいか?」

「召使は機械であって機械じゃないって、さっきレヴィアが言ってたじゃんか。忘れたの?」

「おいおい、さっきの俺の言った『極力は主人命令を避けたい』ってのは忘れたのか?」


 互いに平行線をたどる会話をしてくれるが、二人とも意見は一致していた。けれど、あまりにも貴重過ぎる時間を取っていってくれる稔とラクトの姿勢は辛抱たまらなく、メイドは冷淡に構えて言った。


「――すいません。やってくれるかやってくれないのか、即答で答えていただけると有難いです」


 二人とも意見が一致していたので回答には困らなかったが、ここでもまた貴重な時間を取ってくれる稔とラクト。メイドだからと見下していたわけではなかったのだが、メイドは誤解しそうになる。


「やらせてください」「やります」


 声を合わせようとしたのだがラクトが「やめよう」と思いに至り、結局実現しなかった。一方でそんなことに時間を取られたメイドは頭に血が上りそうになるくらいだ。折角のやる気を踏み躙るような彼らの姿勢には、到底理解が及ばなかったのである。


「では、これをお使いください」


 口頭では敬語を用いているメイドであるが、内心では敬語なんてものを使う気にはなっていなかった。あくまでメイドとして見せるべき立ち振舞いを見せただけであって、彼女の内心は汚い言葉に埋め尽くされている。


「それでは」


 営業スマイ――作り笑顔を浮かべると、そう言ってメイドは立ち去った。名刺であったりを渡すことはなかったけれど、そう至った理由は単純だ。稔とラクトの行動が彼女を怒らせたのである。でも、二人は反省の弁を述べない。そういう感情が彼女に有ることを知らないため、反省する気は端から無いのだ。


「ところでさ、さっきの稔の言ったのって意味深な言葉だよね」

「何て言ったっけ?」

「言葉責めは嫌だな。言ったじゃんか、『やらせてください』って。馬鹿なの?」

「馬鹿だとは思いたくないけどさ、お前こそなんで意味深な言葉で受け取ってしまうんだ……」

「稔がそういうお年頃だからね」

「余計なお節介だわ!」


 稔がツッコむと、自然とラクトの表情も綻んで彼女の顔にも笑みが浮かんだ。

 ただ、彼女の表情を見ていた稔はふと思った。自分とラクト以外にこの場所に居たメイド以外のもう一人が居ないことに気が付いたのだ。だが、それはすぐに解決した。その者が言っていたことを思い出した為だ。


「(ビンゴ……)」


 スディーラが何処に行ったのか分からなくて色々と考えた稔だったが、結局花瓶やダンボールが置いてある場所に居た。自らの仕事を全うしようとしているだけであろう。


「――どうかした?」

「いや、なんでもない。んじゃ、敷きますかね」

「作業開始ってことだね。了解」


 そんなやり取りをして、稔とラクトは作業を開始した。二枚のうちの一枚を手に取って、両端に二人が行って掴む。そしてそれをテーブル上に敷く。

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