プロローグ
「アトナ……俺はもう、駄目だ。こうなっちゃあ、一生、剣を作ることが、出来ない……」
雨の降る夜、男はー戦場の地 華の楽園ーに血を流し倒れていた。
その脇に、大粒の涙を零しながら少女が座り込んでいた。
「お父さん、行かないで! ねえ、私をおいて行かないでよ!」
「……」
泣き叫びながら男の体を揺さぶる少女。そして男は我が娘の手をそっと握り、一言告げた。
「俺の店を……ラージス工房を……アトナが継いでくれっ!」
苦しそうに話す父をみていると胸がズキズキ痛み頭は現状を理解するのが精一杯だった。
「うん、分かったから喋らなくていいよ。いま治癒隊を呼んだから、だから、死なないで!」
必死で意識が消えないように話しかけるが、死は待ってくれない。
すると男は頑張って口を開けゆっくりと喋った。
「それは、出来ない……せめて俺の最期の言葉を聞いて……くれ」
「なんでよ! お父さんってば!」
悲しみが堪えきれなくて、父の力強かった胸板に覆いかぶさった。
「一つ忘れちゃいけねえことがある。鍛冶屋が一番大切にするものは……インゴットでも剣でもない。大切なものは……人を愛し愛される心だ!」
「うん、うん……」
少女は父の手を強く握りしめた。
「私、大きくなったら人から愛される鍛冶屋になる……お父さん、かならず見守っていてね……」
「ああ、天で見守っていてやる。いい嫁になれよ」
「分かった。いいお嫁さんになる」
当たり前のように話していた日常が、とても懐かしく思えた。
男は我が娘を見つめて……
"愛しているよ。今まで、ありがとう"
こうしてアトナは父の教えを守り、強くたくましく育っていった。
"お父さん、お疲れさま"