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塩と果実のカクテル

[伯爵の手記]あやつも大人になったもんだ…吾輩も覚悟していることが起こった様じゃのう…

「えっ…」

彼女は予測して居なかった彼の告白に黒目勝ちの大きな目をもっと大きくさせた、彼女は顔を背けて彼にこう言った。

「あたしは女らしくないし全然上品じゃない…それに父も母も居ないから一人暮らしの身だよ…」


彼はそれも関係なく彼女に惹かれていた、そして彼女に今までの美味しい物よりも素敵な服よりもずっと彼女が欲しかった事を伝え、語り合う内に二人は惹かれあい、何時しか海の色が橙に染まる頃になっていたのだ。

しかしそれには今まで一緒に居てくれた伯爵と別れると言う事を決断しなければならなかった。

彼はそれをどう切り出せばいいか解らないまま宿屋に戻ると、部屋では仁王立ちの伯爵が今までに無い面持で彼を待っていた。


優しくてたっぷりした頬肉を揺らしている伯爵ではなく、何時に無く鋭く厳しい視線を向けていた、そしてゆっくりと「今まで何処に行っていたんだね?」と問いかけた。

答えるまで伯爵は彼を許す気は微塵も無いようだった、彼はそれを悟ったのか諦めて伯爵に白状した。


「伯爵様…」

「なんだね…」

「俺、好きな人が出来たんだ!」


たった短い時間だった、しかしその短い静寂も彼にとっては永遠の様に長く感じた。すると伯爵はため息を吐いて「好きにしろ」と一言彼に言った、そして付け加えるように「もうお前も子供じゃないのだ、吾輩に付き添うか自分で生きるか好きにするが良い。」そう言ってベッドに戻った。


そして彼は荷物をまとめ終えた後に拙い文字で伯爵に手紙を宛てた、つい最近覚えた字が多く子爵や侯爵など爵位の持つ人から見たら余りにもお粗末な手紙だが、伯爵にとっては最期まで持つだろう宝として残された短い手紙だった。


「はくしゃく様 ぼくはおいしいごはんと、知らない町を今までいっしょにたびをして楽しかったです。ぼくをひろって下さって、こんな風にいなくなる僕をゆるして下さるほどやさしい人は、はくしゃく様いがいだれもいません。本当に今までありがとうございました」


彼が眠りに付いて少ししたら伯爵は目を覚まし、下の酒場で買った瓶の果実酒を飲んでいた、そしてその頬には雫が静かに流れていた、伯爵の見栄っ張りな性格なのか、寂しい事を素直に言えず、只々「まったく、勝手な奴だ」と虚しく月夜に呟いてその言葉は闇に消えて行った。


そして次の朝には彼は彼女の元へ行き、その手紙を手に伯爵はまたこの旅を進める為に新しい土地を目指し、船に乗り込んだ。

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