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南の島の甘い料理

[伯爵の手記]…あやつも年相応の少年の笑顔をするようになった、我輩もとてもよく思えたのだが…もう少し大人になったらどんな人生を歩むのか、もしそれであやつが決められるようになったら覚悟をしなければならんのだろうな

とうとう漁から戻ってきた船が港にぞろぞろと着き始めた、勿論船旅用の船も例外ではない。

伯爵が書いたノートも最初の旅よりも増えていき、最初のノートは少し黄ばんでいたのだった。

少年は少し泣きそうな顔をしていた、何故ならこの旅で始めてできた友達と別れの時がやって来たからだ。


「そんな顔をするな、もしも彼らが心配なら早く字を覚えて手紙のひとつでも書くんだな…」

そう言って伯爵は少年をなだめ、やっと泣き止んだ頃には太陽が高く上がり、カモメやウミネコが軽快な鳴き声を上げている頃になっていた。


白い港には日に焼けて如何にも強そうな船乗りたちが次の旅の準備をしていた、今回は「南の島国」が目的地だった。

そこは一年中花が咲き乱れ、夏の様に太陽が照り返す豊かな国で、その町並みは葦や藤のツルで家が出来ていて、甘い果物や様々な魚と香り高い香草を使った料理の匂いで一杯になっている。


今回伯爵たちが乗る船は「海神号」と言う立派な名前の船だが、問題の船は古びていて海神と言うには少しばかり老いて見えた。

そこに乗る船乗りも白髪に白髭の厳つい船乗りで、如何にも無口で頑固な風貌だった。


「そなたが海神号の船長かね?」

「そうだよ…」

「券なら有る、我輩たちを南の島国まで乗せていってくれないかね」

「確かに券は受け取った、早く乗りな…出航する」


しわがれていて威厳の有る声で船長は伯爵達を乗せて錨を上げた、彼を含めて5人程度の船員に怒鳴り声で「目的地は南の島国だ、出航しろ!」と叫び、舵を取った。

船の中は揺れて少しばかり塩と湿気の匂いのする所だった、しかし伯爵は壺から離れようとはしない、どうやら船に酔ったようである。

それから3日間青い海に揺られ、4回目の朝を迎えたときには町の風景を目の前で見ることが出来た。


降りる時には一回り痩せた伯爵とこんがり日に焼けた少年が町に降り立つ事になった、市場の甘い匂いと町の活気に体中を浴びるような感覚を味わうことになった。

今回の宿は木の骨組みに植物のツタで出来た大きな酒場兼宿屋に留まる事になった、そこは艶やかな織物を身に包んだ人々が甘ったるい果実酒や魚料理、瑞々しい果物を食べているのだったが伯爵は船酔いが続くせいか、今日一日は何も口に出来なかった。


そして少年の方は自分の事で悩んでいた、それは自分の声がしゃがれてしまっていて悩んでいる。

この旅を始めてから最初の頃とは比べ物にならない程逞しくなっている事に気付いていないのだ。

彼は意を決して伯爵にその事を言うと、伯爵は声を聞きながら少し微笑みながらこう彼に言った。

「お前は大人に近づいているからこんな声になっているんだ、だから病気ではないのだぞ」と青白い顔が少し赤に染めながら微笑み、彼の頭を撫でていた。


ボロボロになった手帳を見ると、もう3年近く経っていた。あんなに貧弱で青白い頃の彼は今の彼にはもうないのだ。

少年は自分の悩みが大した事でない事に安心して今日は安心して床につく事が出来た、そして次の日もまた太陽の強い光で目が覚めた。


彼は伯爵の許しを得て、町に赴いた。何故なら今日はこの国の特別な日だった、そう…建国祭だった、その中で誰も彼も踊り合い、果実酒を飲んで笑顔で居たからなのだった。彼は祭りと言うもの事態に来るのは初めてで、とても浮かれていたのだが…


彼の肩を強くぶつけ、泥酔している男に「おいこら!てめぇ!気をつけろ!」と怒号を掛けられた。

彼は一瞬頭の中が真っ白になり何時か自分を殴ったパン屋の親方を思い返してしまい、竦んでしまった。


(殺される!)


彼が目を閉じて震えていると「いでででで!!!」と男の悲鳴を上げているのを聞いて、目を開けると一人の女性が男の腕を捻り上げて「祭りは楽しむ物だよ、喧嘩を吹っかける所じゃあない」と目を据わらせて有無も言わさないように言っていた。


「覚えてろよ!」


彼は逃げ去り、少年は「有難う…助けてくれて」と言うと女性から「あんたも気をつけな、祭りになると気が大きくなるものだから」と言って手を差し伸べて「お礼にアタシと踊ってよ」と褐色の細い腕で彼に引き寄せて踊った。

彼女は黒い髪に茶色い目の整った女で彼はいつしか彼女に惹かれて行くようだった。


宴も終わりを迎える頃には「僕…また貴女と会いたいんだ」と思いを伝えたら「じゃあアタシは昼間はこの海岸に居るから、会いたくなったら来な?待ってるから」とキスをしてその日は別れた。


宿に着くと酒場で伯爵が果実酒を飲みながらピスタチオや甘いフルーツのシロップ煮を摘みながら優雅に振舞っていた、そして彼は胸も一杯で今日の夕飯も喉を通さなかったのだ。

伯爵は「お前今日は何も食わなくてもいいのかね?」と尋ねるが、彼は「僕はいいよ…伯爵様」と言って部屋に戻っていくだけだった。


「ふむ…あやつは町で何があったのやら…」


夜風が潮の匂いを運ぶ中彼は彼女を思い返していた、褐色の健康的な肢体を持った若いあの彼女の事だった。もし思いの丈を伝えてずっと一緒に居れたら…と思って居た。

そしてこの夜は彼は寝たり起きたりを繰り返していたのだった…


昼前に伯爵が昼寝をしている時に彼はこっそり抜け出していた、勿論目的は昨日のあの女性だった。

青と緑のコントラストの美しいシンプルなワンピースに今日は癖の有る美しい黒髪を下ろしていた、彼はその横顔に吸い込まれそうだった。


「なんだい?そんな神妙な面持ちをして?」

彼女はキョトンとして彼の顔を覗き込んで様子を伺った、彼はその仕草にとまどうも呼吸を整えて彼女に言った


「僕と一緒に居てください!」

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