表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

少年

伯爵の手記…[全く、少しのお節介のつもりがとんでもない拾い物をしたようだ。あの少年は美味い物はおろか腹一杯に物を食べたことない、これから吾輩が少年に教える事は沢山有りそうじゃ…]

革袋の財布から銀貨3枚を親方に渡し、親方は驚いた顔で叫びながら言った。

「おい、旦那!このパンに銀貨3枚は勿体ねえぜ!?」

「ならばこの少年が盗んだ分のお詫びの迷惑料も入れたら別段高くもないだろう?吾輩はこのパンの金と少年の悪さを許すことを乞うたんだ、何も悪い話はあるまい。」


そう言うと親方は少年に「もうするんじゃねえぞ!」と言って店に消えた、それを見届けた後に少年は「おっさん、助けてくれて有難う!」と深々と泣きながら言っていた。持っていたパンは少し砂をかぶってしまって涙でふにゃふにゃに柔らかくなっていたが彼にとっては御馳走だったのだ


そんな彼を見て伯爵は少し戸惑うも、何時もの様に丸い腹を揺らし少し気取ったようにこう言った。


「お礼を言う礼儀は成っているようだがの、だがしかしおっさんと呼ぶでない!吾輩の事は伯爵様と呼ぶように!」


少年は涙でぐちゃぐちゃになった顔を笑顔にしながら「うん、解ったよ伯爵様」と言う、そしてその後にパンをがっついて食べる様を見ていたら伯爵はふと思う事が有った。そもそも彼は何故こんな破れたシャツとズボンを身にまとい、靴もろくに履いていないのか…彼は憶測をするも、言葉を飲み込んで意を決して少年に聞いた


「お前は何故こんな風に盗んだりする?家族もろくに食わせてもくれぬのか?」


少年はパンを詰まらせて咽た後に「うーん」と言いながらどうやって話を切り出そうか考えているようだった、そして顔を上げて少年は伯爵に話し始めた。


「俺、気が付いたら街の中に居て父さんの顔も母さんの顔も知らないんだ。何時もは食堂の裏の残飯を探しているんだけど、本当に腹が減って仕方ない時はこうやって盗ってでもして食べないと生きていけないんだ…家も無いから裏路地にある地下水道に住んでいるんだ」


最初こそは明るく振る舞っていた少年だったが、話している内に涙が溢れて嗚咽交じりになっていた。まだ声が変わり始めて間もない声だったので少年の年齢は大体13歳~14歳位なのだろうが痩せ細り体が小さいので幼く見えた。


この時分の少年はのびのびと遊び、腹一杯に飯を食べて何の恐怖も感じないでぐっすり眠りたい盛りだ。しかし彼はそれを何一つ満たされてない、この大きな街では痩せ細った浮浪児を雇ってくれる場所は無いのだ


少しばかり眉間に皺を寄らせ、伯爵は一通り唸った後に少年の手を引いた。

すると、少年は面食らった顔をして「えっ?」と言って小太りの伯爵に引っ張られるがままだった。

「なんだよ、伯爵様…?」細い体をよろめかせながら少年は訪ねて言うと伯爵は腹を揺らしながら「吾輩の自己満足が嫌であるなら手を振り払うが良い、今から吾輩は身寄りの無いお前を引き取る」


そう言うと少年は弱い力を力一杯握りしめて、鳴き声で「うん!」と伯爵の手を握り返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ