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7  寝付かせ師と仕事中の騎士様

なぜだか急に周りの喧騒が増した。


エルクスがオフィーリアに何か言ったようだが、女性の立てる甲高い声に、彼の言葉がかき消される。

口の動きでは喋りかけているらしいことがうかがえるが、肝心の音が聞き取れない。

思わず「え?」と少し身を乗り出すとエルクスが耳もとに顔を寄せた。

耳を唇がかすめるような近さに驚いて身を引きそうになるが、引き留めるように肩に大きな手が置かれた。


女性の物とは違う重量感にほんの僅かに身が沈む。


「サティ嬢との約束、守れないな」


怪訝な面持で顔でを上げると、にこりと隙のない笑みを浮かべるエルクスの顔があった。



「オフィーリア!」



突然名を呼ばれたことに何か思う前に体がさっと反応する。

小鹿のように声に身を向けると、絹のような銀糸の髪が煌めくのが目に映った。


珍しく不機嫌そうな、黒にも見える深い瞳が控えめな明かりで緑に色づく。


なぜ、こんなにも周囲が煩いのにはっきりと自分の耳に届くのか。

あたりまえだ。彼の声を何よりも優先してこの耳は拾うのだから。


アルフォースはずんずんと近づいてきてオフィーリアの横に中腰になっているエルクスの両肩をつかんでがばっとまっすぐに立たせると、彼の間近に顔を寄せて話しはじめた。


「突然いなくなったと思ったらあなたは…!」


「おいおい。俺のお蔭でお前のとこの大事な(・・・)侍女さんに何も寄ってきてないだろう。怒る前に感謝しろよ」


アルフォースがちらりとオフィーリアを見た。


「…あなたが何より有害だ。僕の家人なんですが。気が付いたなら僕に知らせるのが普通でしょう?」


「オフィーリア嬢には連れがいたんだからわざわざお前に保護させる理由もないだろう。それともアル、お前は彼女の休日にまで首を突っ込むのか?」


アルフォースはエルクスをそこに固定したままオフィーリアを振り返った。


「・・・・連れ?」


既に傍観者の気持ちで聞いていたオフィーリアは突然話を振られて慌てて居住まいを正した。

なんだか、地味にギャラリーがいるのでいつもより心なし背筋が伸びる。


「あ、はい。実はサティに誘われて来まして」


アルフォースは素早く周囲に目を走らせた。


「見当たらないようだけど?」


それはそうだとオフィーリアは首を縦に振る。


「アルフォース様が来られる少し前に---彼女の知り合いが来たので別れました」


なんとなく、恋人だと言い辛くて濁したのだが、アルフォースは理解したらしく、「ああ」と言って微妙な顔で額に手を置いた。


「でも、オフィーリアは人ごみが苦手だったろ?星譚祭には行かないって言ってなかったかな…」


サティの名を怪訝出しても尚納得いかなそうな様子に、オフィーリアは苦笑を浮かべて答えた


「まあ、屋敷から出ないつもりだったんですけど。サティに、お花を貰いに行こうと誘われまして」


「花?」


怪訝そうに、オフィーリアの言葉を聞き返す。

その様子に、オフィーリアも首を傾げた。

認識に違いがあったのだろうか。


「ええ、今日はたくさんお花が貰える日だと教えてもらったので」


途端にエルクスが盛大に吹き出し、アルフォースがさらに下をむいてため息をもらす。


「え、あれ、はい?」


2人の反応に、オフィーリアは狼狽して、とっさに言葉が出なかった。

それを助けるように、エルクスが笑いながら言葉を紡ぐ。


「いや、しかし、ま、間違っちゃいないね。でも、こうも明け透けに花以外は用無しって言われたら俺らの立場が無いな!!」


「オフィーリア、むやみに---」

オフィーリアに言い聞かせるためにしっかりと彼女を見た刹那、言葉を止めたアルフォースに、どうしたのかと目をむけると、彼はまたもやエルクスに向き直った。

今日のアルフォースは非常に忙しない。


「……隊長。遊ぶ女性は余所で探してくれますか…?」


温度の低い声に、オフィーリアは慄いた。


「は?」

突然何を言われたのか、計りかねる顔をしたエルクスだが、オフィーリアに目を向けた途端に、合点がいったようで、アルフォースに言い聞かせるように言葉をついだ。

「いや、違うぞ、誤解だ。その花は俺じゃない」


ね?とオフィーリアに同意を求める声に、いったい何の話だろう、と一拍反応が遅れたが、まだ黄色の花を手にしていることを思い出し、若干しな垂れてきたそれを慌てて籠に入れた。


「もちろんです!エルクス様に頂いたものは綺麗な赤色の花です」


「赤ね、なるほど…」


アルフォースは半眼でエルクスを見やると、おざなりに敬礼した。


「じゃ、僕はここで失礼しますので。隊長、後は頼みます」


ははは、とエルクスは笑った。


「いやいや、アル。いったい何を言い出す。俺達は巡回中…」


エルクスの笑顔に、アルフォースは見事なほどのさわやかな笑みを返した。


「職務放棄だなんて言いませんよね?昨日あなたがどこかのブロンド美女と消えた後も何も言わずにきちんと仕事した部下に、まさかそんなこと」


正直、オフィーリアもエルクスの『巡回中』発言に、どの口がそんな言葉を…!と思ったが、心の中に留めた。

『口は災いの元』これは使用人が骨の髄まで叩き込む諺である。

むしろ信奉しているといっても過言ではない。

例に漏れず、オフィーリアもこれに従っているのであって、右手にある飴細工の存在が、エルクスの行いを暴き立てるのを阻んでいるのではない…といえなくもないような。


「もちろん僕は隊の皆に言ったりしませんよ。」


さらに笑顔を深めるアルフォースに、エルクスは諦めたように頷いた。


「…アルも他の奴らに性格似てきたな。わかった、彼女を安全な場所に送り届けることを命ずる。行きたまえ」


「え、わたしをですか?」


慌てて、抗議をしようとした。アルフォースの手を煩わす気はない。

しかしその言葉に、アルフォースは逆に驚いた顔をした。


「当り前だろう。君はよく迷うし、方向音痴だ。」


…少し落ち込んだ。


しかしアルフォースの引く気がない様子に、エルクスと離れてから断ってもいいか、と思い直した。

思い出してみれば、星譚祭のことを聞いたとき、アルフォースは『気になることがあるから行く予定だ』と言ったのだ。しかし、仕事が入ってしまったのなら、その『気になる予定』は果たせていないに違いない。

ここで監視役(エルクス)と離して時間をつくれるようにしてあげよう、と考えたのである

納得したところで、オフィーリアはエルクスに向き直った。


「エルクス様、今日のお礼はまた別の機会にさせて頂きたく思います。」


そう言って礼をすると、エルクスがひらりと手をあげた。


「楽しみにしているよ。--アル、オフィーリア嬢の門限は12時だそうだ」


「承りました」


アルフォースの返事を合図に、二人はその場から離れた。

エルクスは態度が軽いので、サティはまさか上司だとは思ってません 笑


アルフォースの性格が若干黒く・・?

…仕方ないんです。

あんな上司がいるんだからそうならないと生き延びれなかったんです…


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