4 寝付かせ師の平穏
前話からちょっと時間がとびます
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星譚祭も2日目が過ぎた。
街は昼も夜も露店が驚きのにぎわいを見せている。
あまり人の多い場所に慣れていないオフィーリアは、祭りに行くとすぐに目を回してしまうだろうことを予想し、屋敷のなかから様子を眺めるにとどめている。
しかしそれはオフィーリアに限ったことで、この7日は、使用人も休みをとることが許されており、入れ替わり立ち代わり息抜きをしているようだ。
のんびり過ごすのがなにより息抜きになるオフィーリアは屋敷から一歩も出ないことをはなから決めていた。
--ついでに言うと、『幼馴染に知られたら困るようなこと』をするっぽいアルフォースに出くわすことも、考えただけで気まずく、何があっても避けたいことである。
そんなこんなで、いつもより人の少ない邸内でのんびり仕事をして過ごすオフィーリアに、つかつかと、心なしか早足で近づいてきた人影があった。
「オーリア、最終日のご予定は?」
目をむけると、サティが、なぜか少々機嫌悪げに見下ろしているのが目に入った。
様子が少しおかしいことに首をかしげるが、オフィーリアはとりあえず聞かれたことに答えることにした。
「何も?ああ、アルフォース様から仕事を頼まれているから、それをしていると思うけど」
サティはくわっと目を剥いた。
「アルフォース様ったらなんて人なの!年頃の女の子に、よりにもよって星譚祭の日に
仕事を押し付けるなんて!自分は遊びほうける癖に納得いかないわ!!!
いいこと、仕事なんて、ほっといて私と一緒に夜の街に繰り出すわよ!!!」
いやいやいや。
なぜかひどい剣幕のサティにオフィーリアは多少引いたものの、サティの左手を握り、ゆっくりと揺らして落ち着くように促した。
「アルフォース様にはわたしがその日は予定がないとお伝えしたのよ。だからわたしに頼まれたの。それに、ロベルトは?一緒に回るのではないの?」
今思えば、アルフォースに星譚祭に行くかどうか聞かれたのは、仕事を頼みたかったからに違いない。
-----見られたくないことがあるからという理由も含まれているのかもしれないが。
幾分かおちついたサティは拗ねるように唇をとがらせてそっぽを向いた。
「知らない、あんな奴。予定があるから一緒にはいられないのですって。あの仕事ばか、馬に蹴られてしまえばいい」
サティ…馬に蹴られるのは恋路を邪魔した人よ…と思ったが、とりあえず口には出さない。
でも、なぜこんなにサティが荒れているのかも理解した。
彼女の恋人も感覚がずれているというか、乙女心がわからない人だ。
オフィーリアはそっと息を吐いた。
「だから、いーーーっぱ花をもらって、やきもち焼かせてやるんだから!」
そこでオフィーリアは首をかしげた。
「花?もらえるの?」
その発言に、サティは眉をよせた。
「もらえるじゃない。男の人から」
男の人から花?
考え込んで、ああ、と納得した。
そういえば毎年アルフォースや男性の使用人から花をもらっていた気がするが、
星譚祭と関係していたのか。自分が星譚祭に注意を払っていなかったから気が
つかなかった。
オフィーリアの星譚祭の認識に、とにかく騒がしくなることと、
恋人と過ごすのが一般的らしいという情報の他に、
男の人からとりあえず花がいただける日だというものが書き加えられた。
「そういえば」
と納得したのだが、サティは聞いていないようで、鼻息も荒く、「花、荒稼ぎ!」と決意をみなぎらせ、拳を作って宣言していた。
「でも、わたしは行かないよ?仕事は仕事だし」
「そうやってオーリアもあたしより仕事を優先するの?」
サティは非難めいた目をオフィーリアに向けた。
オフィーリアが困った末に曖昧な笑みを向けると、また怒りが再燃してきたのかいつもより荒い動作でオフィーリアにせまってきた。
「なんの仕事か知らないけど、あたしが手伝ってあげるからさっさと終わらせて一緒に行こう!」
実は仕事はきっちり素早く丁寧にこなす、侍女の中でも指折りの出来る女なサティ。
暴走気味な感情が少々欠点ではあるが、彼女が宣言したからには、オフィーリアの仕事は絶対に最終日までには終わるだろう。
オフィーリアは、お祭り最終日、最高潮のあの人ごみのなかに連れ出されることを予想して、早くも腹をくくった。
諦めが良いのは自負するところだ。
でも少し、その日までにロベルトと仲直りしないかなぁ…と思ってしまうのは、仕方のないことだろうと思う。
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ちょっと心なし一話分が短くなりつつあるのは…別にびびってるわけじゃないんだからねっ!!←