1 寝付かせ師の仕事風景
カーテンの乱れを整え寝所を整える。
全てを終えたときに丁度部屋の取っ手が回る音が聞こえ、オフィーリアは頭を下げて、部屋の主の入室を待った。
部屋の主はオフィーリアを認めると、柔らかく微笑んで手を広げた。
「オフィーリア」
オフィーリアが近寄ると、彼はその身を腕に抱き寄せ、高い身長をかがめ、
彼女の肩に頭を寄せると、ゆっくりと、
深く
深く息を吐いた。
オフィーリアはなんの疑問もなくそれを受け入れる。
二人にとってはそれはほぼ日課である。
お互い確認し合ったわけではないが、オフィーリアはそれがため息ではなく、
いうなれば彼が一日張っていた気を抜いているようなものであることを察していたし、彼もオフィーリアがきちんとそう受け取っていることを知っていた。
そうでなければ、会って突然ため息をつくなど非常に不愉快なしうちだ。
「アルフォース様、何か飲み物でもお持ちしましょうか」
腕から離れたオフィーリアは主人に尋ねた。
「いや、必要無い。もう眠ることにする」
アルフォースはオフィーリアがきれいに整えたベッドのなかに入ると、オフィーリアを見つめた。
「歌を、歌ってくれ」
「はい」
にこりと笑って返事をすると、部屋の明かりを小さくし、ベッドから少し離れた場所にある窓際の椅子に腰かけ、静かにうたを口ずさんだ。
カーテンの隙間から今夜の満月を見つめながら囁くように紡がれるそれは、暗い部屋に染みるように、漂っては余韻を残して消えていく。
その声に引きずられるように、いくらもしないうちに、アルフォースからは規則正しい寝息が聞こえてきた。
その寝息を聞きながら、オフィーリアはゆっくりと、歌い続ける。
やがて、口をとじ、視線を今はもう身じろぎもしなくなったアルフォースに向けた。
「おやすみなさいませ」
そう小さくつぶやくと、音をたてないように、丁寧に扉をひらき、部屋を出る。
それが、寝付かせ師の少女と、元・不眠症の少年だった騎士様の現在の一日の締めくくり方である。