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11 前当主の帰郷

翌日、まず最初に出くわしたのはサティの夢見心地にも見える幸せそうな笑顔だった。


「・・・おはよう、サティ。良いことでもあった・・・?」


「おはよう!もちろんよ!!聞いてくれる?昨日ね、わたし・・・」


そして内緒話でもするように声を潜めた。


「プロポーズ、されちゃった」


「ええっ!?よかったわね!!おめでとう」


オフィーリアのお祝いの言葉に、サティはかわいらしく頬を染めた。


「うん。ありがとう。でも星譚祭でのプロポーズってさ、ほら、正式なものじゃないから。まだあまり公表はできないんだけどね。」


「そうなの?どうして?」


「そうよー。星譚祭って一夜限りの火遊びを求めてやってくる男の人がいっぱいいるでしょ。その人たちにとっては星譚祭の夜に交わす結婚の約束なんて戯れ言のうち。そんなとこで言われた言葉を吹聴してたら、男の甘言に乗せられた馬鹿な女扱いされちゃうのよ」


ロベルトの人柄を多少なりとも知っているオフィーリアは、その説明に納得いかなかった。


「でも、ロベルトはそんな人じゃ・・・」


「ええ、わかってる。正式なプロポーズはまた今度してくれるはずよ。だけど、世間的にはまだ婚約してないことになるし、それより先に結婚話が広がってるなんて馬鹿な話ないじゃない?だから、一応まだ内緒ね?」


そういうものか、とオフィーリアは頷いた。


「わかったわ」


***


慌ただしくレスターを出迎える準備が行われた。

思っていたよりもはかどらず、使用人にとっては星譚祭に浮かれていたことを嫌でも痛感させられる結果になってしまった。

しかし、それもなんとか終わらせることができ、じきにレスターが屋敷に到着した。


よくこちらに顔をみせるといっても頻度はたかが知れている。

久しぶりの前当主の帰還に、屋敷の者は心なし緊張した面持ちで出迎えた。


オフィーリアとしては屋敷に居着いた時から、とても可愛がって貰っている相手である。

その以前と変わらず元気そうな様子を目にし、ほっとして皆と同じように頭を垂れた。



***



そんな中、オフィーリアが浮かない顔のサティを見つけたのは、前当主の出迎えもなんの滞りもなく終わり、邸内も普段の落ち着きを取り戻してきたときだった。

朝とのあまりの変わりようにぎょっとしてすぐに捕まえて声をかけた。


「どうかしたの?元気がないみたいだけど・・・?」


サティはそうなの、と暗い顔で頷いた。


「大旦那様に仕事を頼まれたんだけど」


そこで、はあっと深いため息をつく。


「どうしよう、オフィーリア・・・。」


大旦那様の屋敷のほうにしばらくの間、移動してくれって言われちゃった・・・とサティに涙目で言われた瞬間、優先すべき事柄のトップに堂々と輝いた。つまりは、オフィーリアはその足でレスターの部屋に直行した。


ノックをすると、すぐに返事が返り、扉を開く。


「失礼いたします」


そう言いながら、深く頭を垂れた。


「お疲れのところを突然押しかけてしまい、申し訳ありません」


「お前ならいつでも大歓迎だよ。頭を上げなさい。で、どうした?」


レスターの穏やかな笑顔を見て、オフィーリアはすぐに本題を切り出した。


「サティに移動を命じたと聞きましたが」


ああ、とレスターは首を縦に振った。


「私の屋敷で偶然にも数人の侍女の休暇の申し出が重なってしまい、人手が足りなくなってしまったんだ。二、三ヶ月程来て貰いたいとサティに言ったんだが・・・」


レスターは眉毛を下げて微笑んだ。


ハインセウム家はあくまでも騎士の家系であるため、使用人もそんなに多くはない。

厨房の女中を削くことはできないし、侍女の数も限られている。

侍女頭は動かせない。様々なことを鑑みた上で、数人連れて行くよりも仕事の早い者一人が出向くのが最も効率がいいのだろう。


そこで、サティに白羽の矢がたったのだ。

しかし、なんで今?と思わずにはいられない。

結婚が決まるまで秒読みのタイミングで突き刺さったその矢の破壊力は凄まじく、容易くサティの夢見心地を地の底までたたき落とした。



でも、オフィーリアは密かに思う。


これは、昨日の夜を徹して下した決意を後押しするものに違いない。




この話を利用してしまえと急かす声が頭をよぎる。



オフィーリアはごくりと唾を飲み下した。



「サティは最近調子が良くないんです。ですから---ですから、私が代わりに行くことはできないでしょうか?」


レスターはううむ、と難しそうな顔をして考え込んだ。


--まあ、オフィーリアは客観的に見ても自分はサティのように仕事をこなせていないことは十分わかっていたため、渋られることは当然だろうと身構えたが、レスターの返した反応は少々予想と違った。


レスターは内緒話を打ち明けるように、心持ち身を乗り出した。


「実は、おまえに来て貰えると助かる用件があるんだが、アルフォースが何というか。」


オフィーリアは首を傾げた。

そう言われるほど、オフィーリアはアルフォースの役に立つ仕事を担っていないことは自負している。・・・非常に悲しい自負ではあるが。


「アルフォース様には、わたしはもう必要ないでしょう。それに、わたしは12の歳からここを出たことがほとんどありません。他の場所でも経験を積んでみたいと前々から思っておりました」


レスターはさらに考え込む姿勢を見せた。


「・・・確かにここに居るとお前の可能性は限られるばかりだ。・・・そうだな・・・お前にとって良い経験になるというなら・・・うむ。来て貰いたい」


そこでレスターは真面目な顔で咳払いをし、こそっと付け加えた。


「・・・とりあえず、アルには一ヶ月程度と言っておく。絶対に二、三ヶ月かかるなんて言わないように」




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