〈ショートショート〉手裏剣とネクタイ
ハンドメイドおもちゃ
少年は手先が器用だった。凝り性でもあった。
小学生の時、ゴム銃を作った。たいていの子どもたちには経験があった。多くは、木の枝のY字になった部分を伐り、ゴムを結んだ。
少年の場合、竹を用いた。竹は節の部分から枝が出る。枝の先は切って捨て、V字の部分にゴムを結んだ。竹本体の長さはお好みだった。長くすればするほど、命中率は高くなった。木のゴム銃がピストルとすれば、竹のゴム銃はライフルのようなものだ。
竹のゴム銃で雀を獲ったことがあった。
自慢の獲物を見せに行くと
「まぐれ当たりだな。それにしても、うまく頭に当たってるな」
と、大人たちは少年の腕前を認めなかった。
狙撃手
少年には、まぐれではないという自信があった。
野山を歩くときはいつも手にゴム銃を携えていた。まるで猟師だった。
ある時、となりのお兄さんが山道にしゃがみこみ、水道のホースの手入れをしていた。三〇メートルは優に離れていた。安全圏だった。
少年は深く考えもせず、後頭部に狙いを定めて弾を放った。お兄さんはとっさに首の後ろを押さえた。命中したのだ。少年は夢中で駆け寄った。
「どうかしたの?」
と声はかけたものの、自分が撃ったとは言えなかった。
以来、ゴム銃を手にすることはなかった。
コマ作り名人
コマは自慢のおもちゃだった。
兄たちが小さいころに遊んだのか、いらなくなった戸車に竹を通して心棒を入れたものがあった。
心棒を持ち、竹の部分に紐を巻いて勢いよく引くと回転し始める。戸車が鉄製のために適度な重さがあり、けっこう長時間、廻った。
少年は折り畳み式の小刀・肥後守を使って、心棒の試作品をいくつか作った。廻してみて、改良を加えた。その中に五分近く廻るものがあった。
粉ミルクの缶をうつ伏せにし、勢いよく廻り始めたコマを置く。コマは動きが止まったみたいに、すくむ。時計を見て、信じられなかった。
よほどコマに入れ込んだのか、家じゅうの話題になっていたらしい。挙句の果てに、現役で活躍している戸車を外してコマを作ったということにされた。兄たちの犯罪を少年がかぶったようなものだった。
熱血教師
世をあげての忍者ブームだった。
少年たちは忍者がピシピシと手裏剣を投げるシーンに痺れた。厚紙製の手裏剣が売られていたほどだ。
そんなおもちゃでは少年を満足させなかった。あれは中学二年の時だった。家にあった薄い鉄板を金切りノコを使って挽き、細長い手裏剣を作った。両端が尖っていて、うまく投げると刺さった。もはや武器だった。
少年は手裏剣をカバンの底に忍ばせ、学校に持って行った。遠縁にあたる級友に、自慢げに見せた。早朝の教室には二人だけだった。二人は衝動を抑えられなくなっていた。教室の後ろの板壁に投げてみた。音を立てて弾ける。
そこへ、学校の裏の村に住む女性教師が通りかかった。その教師は山道を下り、校舎の裏から廊下を通って職員室に出勤していた。二人は慌てて手裏剣を隠した。しかし、目撃されていた。
放課後、少年たちは職員室に呼ばれた。おそらく学級担任は女性だったのだろう。男性の教頭の出番だった。泣く子も黙る強面だった。もはや言い逃れのしようもなかった。
体罰はほぼ公認されていた。そればかりか、田舎では、暴力を振るう教師ほど教育熱心という風潮さえあった。首謀者の少年は覚悟を決めた。
まず、教頭に一発ずつ、ビンタを喰らった。
教頭の説教が始まる。二人の顔を交互に見ながら、ネチネチと続ける。
オシャレ中学生
教頭が何かに気付き、級友の胸倉をつかんで、学生服の詰襟を乱暴に開いた。教頭が引っ張り出したのは、ネクタイだった。
級友は往復ビンタを喰らった。級友はシブシブとネクタイを外してポケットに入れた。まさか、そんなことで殴られるとは思ってもいなかったようだった。
少年の関心はもっぱらゴム銃やコマ、手裏剣にあったのに対し、級友はオシャレに興じていたのだった。まったくの未知の世界だった。少年には級友が異星人に見えた。
手裏剣にネクタイ――。学校側からすれば、非行のサインだったのかも知れない。ともあれ、あの頃は各自が自分に合ったものを見つけて、ドーパミンを出していた。
(悪ガキばかりで、教師も大変だっただろな)
少年は今でも申し訳ない気持ちになる。狙撃手はもとより、忍者にもプレイボーイにもならなかったのは、指導よろしきを得たということか。




