↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

種をひとつ

月が、少しずつ輪郭を失っていた。


溶けているのかもしれない、

と彼は思った。


夜という器のなかで

白っぽいものが

ゆっくり甘くなっていく。


彼は本を閉じた。


物語は終わっていた。

けれど、終わった感じがしなかった。


終わりというのは

たいてい紙の都合である。


人間のほうは

そんなにきれいに閉じない。


翌朝、彼は種を買った。


理由を聞かれれば困る。


花が見たいわけでもない。

実が欲しいわけでもない。


ただ

昨夜まで紙の上にあったものを

土の中へ移してみたくなった。


数日後

友人から連絡が来た。


「次は何を読むの?」


彼は少し考えて、


「まだ決めてない」


と返した。


机の上には

もう次の本が置いてあった。


嘘ではない。


読む本は決まっていたが

次に何が始まるかまでは

まだ決まっていなかった。


夕方、畑へ行く。


何も変わっていない土を見て

彼はしゃがんだ。


種は見えない。


けれど

見えないということと

何も起きていないということは

同じではない。


そのことだけは

先に土が知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。