9 新たな問題発生
「昨日、セラフィーナ様をお茶会に招いたのだけれど」
いつものルネと幼なじみ4人が集まって話していると、困惑した顔でイネスが切り出した。
「あの王太子妃の?わざわざ招いたやるなんて、イネスは優しいな」
ステファンが感嘆しながら言う。それにイネスは眉を下げて答えた。
「他国から一人で来たばかりだから、寂しくされているかなと思って……でも、余計な心配だったみたい」
「というと?」
クレマンが眼鏡を上げながら聞く。
「セラフィーナ様にドレスの購入先を紹介しようと思い、洋裁店とつながりを持つ令嬢を招いていたのだけれど、過去の王太子妃のドレスを着て現れたの」
それに、ルネが反応する。
「過去の王太子妃のもの?貴重なものも多いのに、勝手に着るなど……」
「……問題なのはそれ以外にもあるわ。参加者のみなさんの家の歴史まで細かに知っていて、その中には良くない話も含まれていたものだから、お茶会はめちゃくちゃになってしまって」
そう言って、悲しそうに目を伏せる。
それが悲壮感が漂い、今にもあふれてしまいそうな涙がイネスの瞳を煌めかせる。
庇護欲をそそる姿に、ステファンやクレマンは胸を痛めた。
ルネはそんなイネスを抱きしめて慰める。
「辛い思いをしたな」
「いいんです。私が出しゃばってしまったから……」
イネスの頭をなでながら、ルネはためらいながらも口を開く。
「彼女は王族の非常時に鳴らす鐘の存在を知っていた。後で確認したが、誰も彼女に教えていないにも関わらず、だ」
「あぁ、あの鐘が鳴った時は驚いた。俺は騎士団長の息子という立場から話には聞いていたが、同い年の騎士たちはすぐに動けず、熟練騎士だけが王城に向かっていたな」
「それほど、あの鐘が鳴らされることは無いものだったし、情報も限られている」
イネスは怯えた目で周りに言った。
「……なんだか気味が悪いわ」
ルネとイネスの不安が大きく膨れ上がっていくのが、他の二人にもわかった。
子供の頃から愛し合っていたルネとイネスが脅威にさらされようとしている。
友人として見過ごせない。
そして、ステファンとクレマンはほのかにイネスに恋心も持っていた。
イネスは美しく、愛らしい存在だった。彼女に恋に落ちながらも、いちばん幸せにする事ができるのは王太子であるルネだと思ったからそばで見守ることにしたのだ。
そのためには、何だってしようと心に決めていた。
自分の決意を翻さないためにも、自分たちのこれから変わらない友情を守るためにも……セラフィーナの存在は排除しなければならない敵になった。
クレマンが口を開く。
「まずは私が彼女を探りましょう。王城の中に脅威があるのでは、自分としても見過ごせない」
イネスはルネの胸から顔を上げて、クレマンに微笑みかけた。その拍子にたまった涙が落ちる。
それは宝石のようで、クレマンの胸にまた一つ美しい思い出として大切にされることになるだろう。
クレマンはさっそく、セラフィーナについて調べるべく動き出す。
自分たちの暖かく完成された仲に、冷たい空気が忍び寄るのが許せない。
……障害は早めに取り除かなければ。
「セラフィーナ様、王太子妃の予算の申請が降りませんでした……」
メイドが申し訳なさそうに頭を下げた。セラフィーナは問いかける。
「把握できていないのだけれど、王太子妃の予算の申請って?」
メイドは困惑しながら答えた。
「頼まれていた本や日用品などを購入しようと業者へ連絡をとろうとしたところ、予算が無いのでそれを受理することはできないと宰相のご子息様に言われ……」
それを聞いて、側で仕えていた死者のソニアが顔をしかめる。
「こざかしい真似を」
悪態をつきながらも、状況をセラフィーナに説明する。
王族にはそれぞれ予算が割り振られる。
毎年同じ金額が振られるが、形式的なものだがそれぞれ申請が必要なのだという。
建国の日にそれぞれの王族の侍従達が申請をして承認される。承認といっても金額は決まっているので否認されることなどなく、国の税金はむやみに使っていいものではないという意思表示のようなものだった。
だがそんな意味も、もはや形骸化していた。何かあれば予算外のお金は使えるし、反対もされない。
セラフィーナはメイドに問うた。
「どんな理由で?」
「セラフィーナ様名義で、王太子妃の申請がそもそもされていないとのことです」
申請時期はセラフィーナが嫁いできた日が最終日だった。身一つでやってきたセラフィーナがそれを知る由も無い。
「王太子妃の予算が降りていないなんて、国の恥にもなるのに何を考えているの!」
怒りにふるえているソニアに、セラフィーナは目配せで落ち着くように伝える。
セラフィーナは立ち上がって言った。
「では、抗議でもしに行きましょうか」




