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孤独の女王  作者: 冬原光


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8 ゴシップガールに見守られ

だが、恐れを知らない者もいる。


「王太子妃のお仕事は他にもございますよね?」


口を開いたのはイネスの右に座るものだった。セラフィーナの傍らに控えるソニアが耳打ちをする。

彼女はヘルサの貴族の中でも上位の家系で、イネスと仲が良い令嬢とのことだった。


「同年代の貴族との仲を深めて、先を歩いて導いていく。そういった役割もございます。他国から来たセラフィーナ様にはいささか厳しい内容ではないでしょうか。このお茶会に参加している者達が、どのような者がいるかも把握するのにも一苦労でしょう?」


セラフィーナが、次世代の貴族たちとの交流は今回が初。

元々交流が活発ですでに人間関係の中心にいるイネスとセラフィーナでは雲泥の差がついている。

そして、それが逆転するには他国出身のセラフィーナに巨大な後ろ盾が必要だった。これで国王や王太子からの支持があれば別だったが、先日の簡素な結婚式や一人で放って置かれた披露宴での様子は国の貴族なら皆が知っていることだ。


令嬢は続ける。


「私の名前だって、ご存知ないのでしょう?遅くなりましたが、私はアネタ・ヴァルタン。古くから王家と親交がありこうしてイネス様とも仲良くしていただいております。我が家は……」


「領土はヘルサの中でも有数の広さ。我が国の歴史の要所要所で王族の愛人をやってお情けで手に入れた領土をうまく活用してきた家ですよね?最近は領地運営がうまくいっていないようですけれど」


セラフィーナが続けた言葉に、お茶会はしんと静まりかえった。

アネタは何を言われたのかはじめはわからなかったようだが、徐々に理解すると顔を赤くしてセラフィーナをにらみつけた。


「なんという言いがかり!何も知らないことを建前に、嘘を並べたてるなんて!」


「嘘ではないでしょう?ヴァルタン家の三代目の令嬢が当時の国王の愛人となり、五代目の子息が王妃の愛人となった。八代目の当主は当時の王子と『深い友情』を育んで……たしかに、王家と親交があるようですね?今世代はどなたがと思っていましたが、アネタ様とイネス様が『そういう』関係なのでしょうか?」


にっこりとセラフィーナは笑う。


イネスは驚いていた。彼女が言っていたことはおそらくすべて事実だからだ。

イネスの家であるレルミット家も王家と深く関わっていた。それは醜聞も耳に入ってくるということで、セラフィーナが言ったことはイネスも知っていることだった。


アネタが黙りこくり、イネスが静かにしていることでセラフィーナが言ったことが嘘ではないと気がついたのだろう。

お茶会の参加者が恐怖を感じ始めていた。

なぜ自国の自分達でも知らないことを彼女は知っているのか。


彼女はどこまで知っている?


自分たちの秘密も彼女の手に握られているのではないかと、皆顔を落としてふるえていた。

初めと違い、立場は逆転した。

皆がセラフィーナをおもちゃにするつもりだったが、今は完全に逆になっていた。


テーブルを囲む参加者が黙り込む一方、セラフィーナは賑やかなお茶会を楽しんでいた。

笑い声や嘆きの声が、セラフィーナの耳に届いている。


「ヴァルタン家の秘密暴露しちゃった!」

「この子だめねぇ。愛人家系なら何言われてもドーンとしてなきゃ」

「年頃の子にそれは無理でしょ!そこで震えている子の家も、何世代か前に騎士団長と~」

「え~!あの家そんなことやってたの!清廉潔白が聞いてあきれる~!」


お茶会参加者の令嬢達の後ろにたって、ベラベラと話している歴史を越えて集まった淑女達。

ヘルサ国が始まって以来、社交界に何人も現れた情報通の貴族女性達の死者だった。


まるで劇の感想を言い合うように、参加者の家の秘密を共有しては笑い声をあげていく。

セラフィーナが先ほど言ったのは彼女達が話していた内容をそのまま言ったものだった。


「あの気むずかしいメイド長のソニアが気に入った子だから、きまじめな子かと思ったけど」

「停滞した人間関係で面白味がなかった今の世代をここまでかき混ぜてくれるんなんて!」

「これからどうなるのか楽しみ~!」

「秘蔵のワイン開けたいわ~もう死んでるから無理だけど~」

「美味しいワインはとっておかずに直ぐ飲めって遺言残しておけばよかった~」


大声で笑いあって、ずいぶん楽しそうだ。

どんなに内心で楽しんでいても、貴族令嬢として大声をあげることは叶わなかった中、気が合うゴシップガール達が思う存分楽しめて、生きていたときより生き生きしている、とソニアがげんなりしながらつぶやいた。


一方、生者のお茶会はもう今すぐにでもお開きにしたい空気が漂っていた。

ただ、ヘルサのお茶会ルールとしてこの場で一番高位の人間が退席をするまで下位の者は終わることが出来ない。

今この場で名実共に最高位はセラフィーナだ。


皆が彼女の空気を伺っていた。


そんな中、ようやく気を取り直したアネタがどうしても気になったらしい疑問を口にした。


「セラフィーナ様、どこでそのような情報を……?」


このまま帰るのではなく、何か少しでも情報を探ろうとしているのだろう。少しは気概があるようだ。

生者も死者も含めてすべての視線がセラフィーナに集中する。

セラフィーナは皆を見回した後に口を開く。


「来たばかりの私が知るには、『情報提供者』が必要ですね。誰かは言えませんが」


そう言って、イネスを見定めて笑った。

それに生者は息を飲み、死者は声をあげた。


「やだ~!爆弾投下した!」

「おもしろくなってきたわ~!」

「さぁどう返す!?」


イネスが自分達の情報を売ったのか?お茶会の参加者は皆が疑惑の目でイネスを見る。


イネスは衝撃を飲み込んだ後、余裕があるように笑って言った。


「人脈作りがお上手なのですね。こうしてきちんとお話するのが初めてなので、今日はセラフィーナ様のお時間がいただけてよかったです」


自分は情報提供者ではないと言う意味で言ったのだろうが、参加者はまだ疑いは払拭できてはいない様子だった。

これ以上、セラフィーナが何かをするより、後は勝手に燃えたほうがおもしろくなるだろう。

裏切り者をあぶり出すゲームは、ヒントを与えすぎるとしらけるものだ。


「では、私はこの辺で失礼いたしますわ」


セラフィーナは席を立ち、皆に背を向ける。

疑惑の視線を突き破って、イネスからまっすぐに向けられる視線を背に感じながら庭園を去っていった。


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