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孤独の女王  作者: 冬原光


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6 お茶会の招待

この出来事は次の日には王城全体に広まった。


今までセラフィーナのことを馬鹿にしていたメイドたちは全員が何かしらの罰を与えられた。

それは直接王太子妃いじめに加わっていた者だけでなく、陰で悪口を言っていた者すら例外ではなかった。

セラフィーナの指示により、新たに側仕えとして配置されたメイドは、まじめで忠実なだが、身分が低いために汚くてきつい仕事をさせられていた者達ばかりだった。

周りが不思議がったのは、セラフィーナはその者達を名指ししたことだ。

彼女はこの城に来てまだ少ししか経っていない。それなのに正確に名前を言った。それも会ったことも見たこともない者ばかりだ。

指名されたメイドのうち、一人が恐る恐るセラフィーナに尋ねた。


「なぜ私たちだったのでしょうか」


それにセラフィーナが答える。


「あなたたちが人知れず頑張っていたのは、ちゃんと見ていた人がいたということです」


メイド達は『ちゃんと見ていた人』をセラフィーナだと思い、一層の忠誠心を寄せた。


けれど、それは違う。


彼女達が去った後、セラフィーナは誰もいない王太子妃の部屋でつぶやく。


「ありがとう。おかげでいい人材を得ることが出来ました」


そしてそれに答える声がした。


「もったいないお言葉でございます。適材適所がなされていないのは我慢なりませんでしたので、叶えていただいて少し気が晴れました」


「それは良かった。建国当初からこの城に仕えていただいた方としては思うところもあるのでしょうね。初代メイド長のソニア」


セラフィーナの前に、頭を下げたメイド服姿の妙齢の女性がうっすらと現れる。

メイド服は今のデザインのものではない。


「この城に居着いて、長い時を過ごしています。使用人の一人として、志半ばでこの国の繁栄を見ることなく力尽き、こうして留まっているだけの者です。死者という恐ろしい存在になった自分が、現王太子妃様のお力になれたことを嬉しく思います」


彼女は初代の王族に仕えていた者だった。

有能さを代われてメイド長として仕えていたが、国王の子供の一人が亡くなった際に責任を感じて自殺したのだという。

彼女の落ち度ではなく、元々体が弱かったのに加えて建国したばかりで様々な国からの交流が増えて、ヘルサがあった地域には蔓延していなかった新しい病気も増えた。

その病にかかり、王の子供は命を落としてしまったのだ。衛生管理をしきれなかったことで、彼女は自責の念に囚われた。

王族の子孫を守ることが出来なかった自分を、許せなかったのだ。


「次の子孫を繋ぐセラフィーナ様に尽くすことが出来るのは、至上の喜びでございます。ずっと城にいた私がおそばにおりますのでご安心ください。……といっても、体を張ってお守りすることは出来ませんが」


それにセラフィーナが笑って答える。


「十分です。建国以来のソニアの知識と経験を教えてください」


ソニアは再び頭を下げた。


「私に敬語は不要でございます。しかし、セラフィーナ様の待遇は出来うる限り改善されましたが、お食事は引き続きお部屋でとは……」


王族は食事用の部屋で集まるがセラフィーナだけは王太子妃の部屋に運ばれることになった。


「いいのよ。まともな料理も出るようになったし、私も気を使うしね」


そう言って笑っていると、ドアをノックする音が響く。

セラフィーナが許可を出すと、メイドが頭を下げながら入ってきて言った。


「イネス様より、お茶会のご招待を預かっております」


それに、セラフィーナとソニアは顔を見合わせた。





王城の庭園は広大だ。その中でも、今の季節は藤棚が美しく咲き誇っていた。

その下ではヘルサ国の中でも有力な貴族の令嬢達が一つのテーブルを囲んでいた。

椅子に座る順番で、その場にいる者の序列が分かる。この国の礼式に則れば、上座とも言える一番奥のもっとも美しく飾り付けられた椅子に座るのはイネスだ。

参列者は最新の流行のドレスを着ていた。

特にイネスは、国で一番と名高いデザイナーがイネスの為に仕立てたもので、皆一目で賞賛の声をあげた。


だが、賞賛の声は一つ足りない。


このお茶会に他国からやってきた王太子妃を呼んでいた。


きっかけは先日あった鐘事件だ。

王太子妃が非常時にしか鳴らしてはいけない鐘をならし、城の使用人達の配置換えをしたのだ。


イネスの顔見知りのメイド達は何人か解雇されてしまったし、中でもルネとの仲を取り持ってくれたメイド長に至っては監獄に入っている。


それが信じられず、イネスは倒れそうになった。


イネスの世界が、『彼女』によってかき乱されている。


不安でルネに寄り添っていたが、彼の様子がおかしかった。

今までは彼女のことなど露ほど気にせず、イネスだけを見ていたのに、鐘の事件から時折何かを考えるような表情をしていた。

彼も不安になっているのかもしれない。愛し合っている自分とは別の女性を結婚することになったのだから、当然のことだろう。


二人の空気がほんの少し違っていることに気がついたのだろう。イネスをもっとも近くで支えるメイドが提案したのだ。

「あの女に自分の立場をわからせてやればどうだ?」と。

そして、イネスを中心にいつも開かれているお茶会に『彼女』を招待した。


メイドの提案で招待は通例より早く招くことになった。本来であれば初めて呼ぶ相手は10日前までに招待状を送らなくてはならない。ドレスや手みやげの準備があるからだ。

彼女はこの城にやってきてから一度も外出していない。メイドの話ではドレスを購入した形跡もなく、普段はトリモアから持ってきたものを着回しているのだろうということだった。

ヘルサと違い、彼女がやってきたトリモアは宗教国家で商業はそこまで発展していない。ヘルサより一つ遅れた流行のドレスがあればいいだろうという状況だ。


そんな彼女を、最新の流行のドレスがあふれるお茶会に招待すれば、恥をかくことになるに違いない。

イネスとしてはそこまでは……と思っていたが、周りのメイドやそれを聞いたお茶会参加者に促されて今日のこの日を迎えたわけだ。


皆、彼女の登場を待ちわびていた。話題の人がこの華やかな場にどんな表情で現れるのか。

このお茶会はヘルサの年頃の女性の頂点ともいえる集まり。


イネスという最高点から下はパワーバランスは保たれて、皆仲がいい。だが、貴族社会は常に格付けしあう場でもある。

皆、獲物を求めていた。

いじめても問題のない、おもちゃを。


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