表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の女王  作者: 冬原光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/41

5 王太子妃の秘密

一同が去った後、部屋は静まりかえる。

セラフィーナは一息つくと、窓際に近寄った。そして口を開く。


「貴重な情報を教えていただき、ありがとうございます」


そこは何も無い、夜の暗闇だけしかない場所だった。

だが、セラフィーナは話し続ける。


「片腕を失いながらも、王族のために使用人の中からスパイを捜し、国の平穏を守り抜いたというのに、子孫がそれを軽んじているのはさぞ無念だったでしょう」


セラフィーナの独り言は部屋の中に沈む……はずだった。


「えぇ、あのような低落になっているとは思いませんでした。私の犠牲を無に返さないようしてくれてありがとう」


涼やかで、威厳がある声がセラフィーナの耳に響く。

その時、夜空の雲が晴れて窓際は月明かりで照らされた。


そこには、歴史を感じさせるドレスを着た女性が立っていた。


セラフィーナは彼女に頭を下げて言った。


「テレーゼ王太子妃、御礼を申し上げます」


「礼は私が言う方です。……あなた、私の姿が見え、声が聞こえるのね」


それにセラフィーナが微笑んで答える。


「えぇ。私は亡くなった者の姿が見え、声を聞くことが出来ます」






セラフィーナのその力は、生まれた時から備わっていたものだった。


セラフィーナは閉じこめられた塔の中で、自分を呼ぶ声が聞こえた。

その声はいつも優しくセラフィーナに話しかけ、彼女にいろいろな事を教えてくれた。

外の世界のこと、セラフィーナの歳で学ばなければならないこと。

やがて物心がつくようになった時、その声の主は母親なのだと知った。

そして、母はセラフィーナ以外の人には見ることも出来ないし、聞くことも出来ないのだと。


セラフィーナは死者の姿を見て、声を聞くことが出来た。


この世に未練を残すと、死者はその未練の場所にとどまり続ける。

セラフィーナの母は、生んだばかりの子が無事に育つかが心配で塔に留まり続けていた。

母は、セラフィーナがヘルサに嫁ぐべく、リスター家に呼ばれてまともな教育を受けられるようになった時、自分に出来る最大限のことは出来たと悲しそうに笑い、セラフィーナの前から消えていった。


外に出てからもセラフィーナの前には時折、死者が現れた。

貴族社会は人間関係が濃く、恨み辛みが多いのか多くの死者がセラフィーナの前に現れた。

彼女ら、彼らと話すようになると、その姿が奇妙な者として周りの人間からは気味悪がられ、人が寄りつかない。

やがて『孤独の女王』と呼ばれるようになったという訳だ。


「テレーゼ様の助言を聞くことが出来たので、あの者達を罰することが出来ました」


そう言って、セラフィーナは改めて頭を下げる。

今までルネや他の使用人達の前の無感情なものと違い、空気は柔らかく、それでいて敬意を表していた。

テレーゼはそれを見て少し笑った。


「『助言』なんて良い言い方をしてくれなくていいのよ。まさかあなたに聞かれているなんて思わなかったから、大声で喚いて罵っていたんだもの」


死者となった自分の声は誰にも聞かれない、と油断して大声で使用人の無礼な態度に怒り、王族の歴史をまとめた本を読み返してこいとルネに怒鳴っていた。

誰にも聞かれないむなしさと、王族としては禁止された大きく感情を表すことを聞かれていたとは、とテレーゼは顔を赤らめる。

だが、セラフィーナは微笑んだ。


「テレーゼ様が私の代わりに怒りを表していただいたので、胸がすっとしました。それに、ご安心ください。テレーゼ様の勇ましいお姿は私だけの秘密です」


「そう言ってくれると嬉しいわ。しかし、ルロワ家の腐食もここまで進んでいたとはね。王太子妃に鐘をはじめとした王族の決まりもまともに教えていないとは」


「私は他国から来た者ですから」


テレーゼはそれに怒りの表情を浮かべる。


「だとしても、王太子妃となった者にする対応ではないわ。自らルロワの価値を下げているようなもの。……王太子妃は大切な存在なのよ。他国から来ようが、腕を無くそうが」


そう言って、自分の腕を見つめる。血が滲んだ包帯が巻かれたそこには何もなかった。


「腕を失って、賊をあぶり出したまではよかった。けれど傷の感染症で苦しんで私は死んだ。子供を残せなかった私にとって、自分自身で害ある者を迅速に処分出来るという決まりを作ることが出来たことだけが、ルロワ家に残せたもの。それが当の王族から忘れ去られたことが悲しかった。それも王太子妃の夫である王太子に」


テレーゼは涙をこらえて、セラフィーナに言った。


「ありがとう。もう一度私が生きた証を日の光に当ててくれて」


「お力になれたようで良かったです」


テレーゼの姿が徐々に消えていく。最後に彼女は言った。


「生きた人間たちのほうがあなたにとっては恐ろしい存在だろう。この王城は、恨みや悲しみで埋め尽くされている。死者たちの声を聞くと良い。あなたの味方になってくれる人がいるだろう」


月が再び雲に隠れた時、テレーゼの姿はどこにもいなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ