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孤独の女王  作者: 冬原光


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44 新たな王の誕生

それを見て、イネスが大声を上げる。


「こんなのあり得ない!もっと真剣に調べて!」


「……イネス、もういい」


ルネが力なくイネスを制止した。

彼の中で何かが変わったようで、今までの覇気は失せて年相応の青年に見えた。


自分はこの王城の中の世界しか見ていなかった。

その外に住む人達のことは遠い存在で、国民はただの国民。城の中に住み、更に言えば幼馴染みの四人の世界が何よりも大事なものだった。

自分の母親にすら無関心だった自分自身に、呆れ、幻滅したのだ。

こんな自分が王になれるはずが無い。小さい世界を見てばかりだった自分には分不相応だと心の底から悟ったのだ。


だが。それをイネスは受け入れられなかった。


「嫌よ!ルネが王にならないなんて嫌!そんなの受け入れられない!」


「イネス……」


「王じゃないルネなんて価値が……っ」


そこまで叫んで、イネスは咄嗟に口をつぐんだ。けれどもう遅い。


ルネは力なく答えた。


「そうか、私は誰からも愛されていなかったのだな」


そう言ったきり、黙りこくった。


静まり帰ったところで、自分の職務を全うすべく司教が言う。


「……ルネ様が王族の血筋ではないことで、現状、次の王の資格を持つ方はセラフィーナ様となります」


その一言はさざ波のように貴族達の口を通して広間全体に広がった。

だが、司教や公証人が認めたところで、それをすんなりと受け入れられるものは少なかった。突然の状況に受け入れられず、困惑するものばかり。

少数のものは、それに反発しようと大声を上げて抗議すべく息をすった直後……。


どこからか拍手起こった。


ビクリと貴族達が体を震わせて、勇気ある拍手をしている者を探したが、誰も手をたたいていない。

それなのに、拍手の数は次々と多くなる。

それはやがて大きな渦のような音となった。


ここにいる貴族以上の人数が拍手をしているとしか言えない。


自分達には理解が出来ない恐ろしい出来事に、抗議をしようとした者達は腰を抜かしてその場に倒れ込む。

もはや誰も意義を申し立てることが出来なくなっていた。


皆が混乱して視線を迷わせている中、セラフィーナにだけはその拍手の主が見えていた。



広間に埋め尽くす死者達。この王城に仕え、この王城のために死んでいった命達が、新しい王の誕生を祝福している。


城の中で起こった政争の果てに死んだ者。

権力争いで毒殺された者。

色恋沙汰で殺傷された者。

誰かを守るために代わりに死んだ者。

誰かを傷付けることを失敗して殺された者。


そんな多くの死者の魂が、この城の中にひしめき合っている。

彼らの拍手を受けながら、セラフィーナは、ふと、昔呼んだ東洋の本の内容を思い出していた。


様々な毒虫を一つの入れ物に大量に入れて、最後に生き残ったものを使う呪術。

『蠱毒』と呼ばれたそれは、人を操るか財を得るための呪術なのだという。

逆に、魔除けや護符としても使われることもあった。


この城の中で王の血を中心に繰り返された命の食い合いの果てに生まれたのが自分ならば、セラフィーナこそがその最後の生き残りなのだろう。


重ねられてきた人々の思いや命の果てが、『孤独の女王』と呼ばれたセラフィーナ。


孤独で、蠱毒。


この呪いはどう作用するのだろうか。


セラフィーナは人の冷たさの方が多く知っている。けれど、この国に来て人の温かさも知った。

彼らを笑顔にすることが、こうして生きながらえてたどり着いた者としての使命なのかもしれない。


すべては自分次第だ。


セラフィーナは手を上げて拍手に答えた。

その光景は歴史に名を残すほど、恐ろしく、けれど荘厳な光景だったという。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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