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孤独の女王  作者: 冬原光


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43/44

43 2人だけの時間

皆が見守る中、二人は向かい合って手の甲に小さな傷を付ける。

その血が数分で止まると王族特有の病は持っていないということなる。すなわち、王の血を引いていないということだ。


誰も邪魔をしてはならないということで、会話が聞こえる距離には誰も折らず、ルネとセラフィーナが静かに立っているだけだ。

大きな怒りの感情に支払いされていたルネは、自分が不義の子という疑いを掛けられて、あらゆる憎悪をセラフィーナに向けた。


だが、検査の準備が進み、静寂に包まれる中、徐々にその感情はしぼんでいった。


それは、あの手紙のせいでもあった。


母はなぜあんな手紙を残したのだろう。自分に不利になるものでしかないのに。

やはり、自分は母に心底恨まれていたのだろうか。


今までは自分がセラフィーナを恨んでいた。けれど、恨みなんて言葉では表現出来ないほどの冷たい感情が自分に向けられているのを自覚して、ルネの中に悲しみの感情が差し込んだのだ。


場は静寂に包まれていた。

正確に言えば、用意された水瓶に堕ちる二人の血の音以外は。


ポタリ


ポタリ



自然と視線が交わる。

二人が、最後に会話出来る時間でもあった。



静かな声でルネが呟く。


「……なぜ、母はあんな手紙を残したのだろう」


セラフィーナが返す。


「あなたに見つけてもらいたかったのだと思いますよ」


「私に?」


「えぇ。初めにあなたが見つければ、この秘密が外に出る事は無かった。この血には特徴が多い。今後生きていく中で疑惑を回避し続けなければならなかったでしょう。……せめて本人が知っていれば対策は立てられるだろうと思ったのかも知れない」


「だが、私が見つけるチャンスは無かっただろう。日記の存在すら、あなたに渡されるまで知らなかった。それでは分かりようがない」


「……見つけるチャンスはいつでもありましたよ。ただ、カトリーヌ様の生きた人生に関心を寄せれば良かっただけです」


ポタリ


ポタリ


「どういうことだ?」


「カトリーヌ様のことはどのくらい知っていますか?」


「……母上のことはあまり知らない。私に気を遣ってみんなが遠ざけていた」


「でも、調べることはできたでしょう?例えばローゼン家に行くとか」


「行ってどうなる?母はこの城で死んだんだ。何も残ってはいないだろう」


ポタリ


ポタリ



「……私は、カトリーヌ様がどんな人か知りたくて訊ねました。王妃としての彼女ではなく、カトリーヌ・ローゼンとしての彼女が知りたくて」


「王族に嫁ぐ前は、一般的な貴族令嬢だったと聞く。それを知ってどうなる?」


「彼女が歩んだ道は、やがて私が歩むかもしれない道ですから。どんな風に生きたのかを知りたかったのです。王妃ではなく、人としての彼女を知りたかった」


「考えたことも無かったな。母上は王妃という尊い立場に立てたことは幸福で名誉だと思っているはずだ。貴族令嬢ならそう思うだろう」


「それはどうでしょうね。何が幸福なのか、名誉なのか。最も高い位置に行けたからといってそうとも限らない。……そこは高くて寂しい場所かもしれない」


「……」


ポタリ


ポタリ



「カトリーヌ様の生家に行った際に、彼女のことを真に支えていたであろう執事から鍵を渡されました。『初めに私のことを訊ねてきた人に渡して欲しい』と言付かっていたようです。……カトリーヌ様が亡くなってから、彼女のことを訊ねた最初の人は私だった」


「……」


「でも、ほんとうは……息子であるあなたに期待していたのでしょう」


「期待?」


「母として関心を持って欲しかった。ただ、子を成すだけしか関心を持たれていない自分に、息子だけでも自分を知りたいと思ってくれるのでは無いかと」


「……」


「カトリーヌ様の中で、大きな葛藤があったのでしょう。日記を通して、あなたを守りたかった。血筋のことで罪悪感があった。……けれど、どこかで悟ってもいた」


「何を?」


「人は血ではなく、生まれた環境も大きく起因する。もし、自分の息子が王のように自分のことに無関心なのだとしたら、その時は……息子では無く自分を苦しめた王と同じだ。だから、そう育っていたのなら共に滅びろという怒り」


「私は……」


ポタリ


ルネが何か言おうとしたときに、医師が口を開く。


「時間となりました」


二人が互いの手の甲に視線を落とす。


セラフィーナの血は流れ続け、ルネの血は止まっていた。


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