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孤独の女王  作者: 冬原光


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42 前王妃の手紙

新たな王の誕生の前に、離婚の手続きが取られることになった。

前代未聞の出来事についていけない貴族もいるが、あらかじめルネが全てを準備していたため彼らは長く待たされる事は無かった。

世紀の離婚なのに、平民よりも素早く簡潔に手続きがされていく。


教会から司教が呼ばれ、用意され紙にそれぞれが署名した。


その紙を司教が確認をして、そしてうなずいた。

彼は紙を持ち上げて、静かに、けれど広間にいる全員に聞こえるよう威厳ある声で宣誓した。


「二人の離婚手続きがこれで完了いたしました」


そう言って、静かに後ろに下がる。


ルネはここで小さな違和感を持った。

司教は本来この後退出するはずだが、他の協会関係者と共に成り行きを見守っている。


この後の行事進行が変わったのかも知れない。

イネスとの婚姻もすぐに済ます予定だ。その時まで待機することになったのだろう。


ルネは華やかな未来を思い浮かべる。

世紀の結婚となる自分とイネスの披露宴は特別華やかなものにと決めている。

セラフィーナの時とは違い国中が二人を祝福し、セラフィーナの時とは違い二人で笑顔で見つめ合い……。


離婚したというのに、ルネの心はセラフィーナがまだ居座っていた。

思い返せば、ルネにとっては初恋ともいえた。

恋を知ってしまえば、イネスへの思いは幼なじみの延長のような感情に近かったとわかった。


だが、母の日記を読まされたことでその恋心は散ってしまった。

親に愛されていないとわざわざ知らしめるような人間が、自分を愛している訳がない。


失意の中、王城の庭でイネスの愛の告白を聞いた。

その言葉がルネの心をどれだけ癒してくれただろう。


母に愛されていないと知って、それがセラフィーナから知らされた。

世界に誰も味方がいない状況で、イネスの叫びが一筋の光になったのだ。


もう、その光を掴んだのだから他は何もいらない。そのはずだ。


ルネは今までのセラフィーナへの思いを振り払うべく、彼女の追放宣言をしようとしたその時……。




「ここに、前王妃様の日記があります。こちらに書かれた真実をご覧ください。……カトリーヌ様の不貞と、その結果生まれた子供について」





良く通る声が王城の広間の隅々に届いた。

声の主はセラフィーナ。そして、その手にはあの王妃の日記が掲げられていた。


ルネがセラフィーナの言ったことがすぐ理解出来ず、初めこそ呆然としたがすぐに怒りで表情が歪んだ。


「何を言い出す!我が母の不貞!?愚弄するにもいい加減にしろ!!それに、その結果生まれた子ということは……私が王の子では無いということではないか!?」


近くにいたイネスすら、セラフィーナの言ったことを信じられず目を見開いたままだ。

広間にいた貴族達も呆然としていた。


ルネの怒りの声がこだまする。


「誰か剣を持ってこい!!王への不敬としてこの場で処刑する!!!」


殺意がむき出しの声に、周りの騎士達が一瞬すくんだ。


その隙に、セラフィーナが新たな話を進める。


「この中に書いてあることを申しただけです。新たな王の血筋に懸念があるのは、ヘルサに取っても良くないことでしょう。この、前王妃様の日記を検証してください」


ルネが怒鳴る。


「その日記は私も読んだ!あの内容をもって、私が王の子供ではないと言えないだろう!」


「ルネ様が読まなかった……いいえ、読めなかった部分があるのです。公証人、書記官、司教、こちらに来てください」


貴族としてこの場に招かれていた者達は、職務の名前で呼ばれ反射で前に出た。

皆状況を読み込めないながらに、職務として重要なことが起こると引き締まった顔をしていた。


セラフィーナが三人に説明を始める。


「これは前王妃の日記です。表紙に特別な意匠が施されています。確認してください」


三人がそれぞれ手に取る。王族だけが許された意匠が見られ、それぞれの知識からも王妃のものと疑いは無いものだった。


セラフィーナは続ける。


「そして、これは前王妃様の生家であるローゼン家にて作られた鍵です。これで日記の表紙の薔薇の意匠の中心部分に差し込むと……」


カチリ、と軽い音がして意匠が開かれた。


それにまわりの者が驚くが、公証人だけは真剣なまなざしで見ながら答える。


「細工は正確で一級品。このサイズの鍵とそれに会わせた錠前をつくれるのは、カトリーヌ様の生家、ローゼン家以外ではないでしょう」


セラフィーナはうなずき、開かれた部分から紙を取り出した。

その紙を三人とルネに見せながら説明をする。


「これがカトリーヌ様の手紙です。手紙の下部に、王族のみが使える証印が押されています。確認してください」


それに、書記官が前に進み出てまじまじと見つめて、小さく呟いた。


「本物で間違い在りません」


それに、ルネが呆然とつぶやく。


「そんな手紙があったなんて……私に渡したときは教えてくれなかったじゃないか」


「私も、あの時点では知らなかったのです。……続けます。ここに書いている内容を要約すると」


セラフィーナは静かに語った。




王妃となって暫く経ったが、子供が出来なかった。

出来たとしても、流産するか、生まれてすぐに亡くなってしまう。

年齢を重ねるごとに、子供が出来ないタイムリミットが迫り、非難は自分に集中する。

けれど、カトリーヌを含めて皆が王の血が限界を迎えていることが原因なのはわかっていた。

それが分かっていないのが王だけだった。

だが、心の底では気がついていたのだろう。

けれど、王族の血が自分が原因で絶えてしまうかもしれないことが許せず、カトリーヌに辛く当たった。

それは王城全体に広がり、彼女は不遇の日々を過ごすことになる。

度重なる妊娠と流産、そして王からの罵倒。使用人達の同情まじりの目線。生家からのプレッシャー……その全てを受け止めることは、カトリーヌには出来なかった。

貼り付けた王妃としての仮面の下は限界をむかえていたのだ。


ある日の深夜、使用人を付けずに一人で王城の庭に出た。

城の中にいると息が出来ず、咄嗟に外に飛び出したのだ。

従者を付けず出てきたはいいが、ストレスの限界を迎えてしまい過呼吸を起こしてしまった。


ここでみっともない姿を見せれば、また笑われてしまう。

プライドから、彼女はなんとか庭の木の茂みに隠れた。それでも呼吸は落ち着かず、うずくまっていた。


そこに、一人の男が声をかけた。

うずくまる彼女の背中をなでて、持っていた水を口に含ませてくれた。

背に感じる彼の手のひらの暖かさや、不快に感じさせない気遣う空気に、カトリーヌの緊張の糸が切れてしまった。


気がついたら、泣きながら今の辛い状況を吐き出していた。

それに、言葉を発さずただ彼は黙って聞いてくれた。


ようやく落ち着いてカトリーヌが顔を上げれば、彼女を介抱してくれたのは王城に出入りしていた庭師だった。


そして、朝日が差し込むと、彼の容姿に驚いた。

王と同じ髪色、王と同じ瞳の色。顔立ちもどことなく似ている。


カトリーヌの耳元で悪魔が囁いた。

……彼となら、子供が出来るのでは?





「これが、前王妃様の手紙です」


周りにいた者は呆然として、セラフィーナが持つ紙を見ていた。


その中で、ルネだけが別の感情で反論した。


「それだけが証拠になるはずが無い!例え母が書いた内容が事実だとしても、私がその庭師の子供かはわからないだろう!」


セラフィーナはうなずいた。


「そうですね。ですから、検査をしましょう」


「検査?一体何を……」


セラフィーナは戸惑うルネを放って王族付きの医師を呼んだ。

やってきた医師に、セラフィーナは問いかける。


「王族が持つ血の特徴の一つに、『血が止まりにくい』というものがあります。止血時間の確認で検査が出来るのでは無いですか?」


訊ねられた医者は戸惑いながらも肯定した。


「そのように検査する方法もございます」


セラフィーナはうなずき、ルネに問いかけた。


「では、早速しましょうか?ここには司教、書記官、医者、公証人と検査の結果を精査し認めることが出来るものがそろっています」


そこまで言った時に、黙ってルネに付き従っていたイネスが割り込んできた。


「待ってください!そのようなことをこんな大勢の前でする必要は無いはずです!」


セラフィーナがそれに反論する。


「この場がうってつけでしょう?もし彼が王の血を引いていないのなら、そもそも次の王になる資格が無い。継承の前に確認しなければならない。……それに、この疑惑が出た以上、もし王となったところで、一生ルネ様には『王の血を引いていないかもしれない』という疑惑がつきまとうことになる。……辛い立場を歩むでしょうね」


それに、イネスが目を見開く。

セラフィーナによって、すでに賽は投げられてしまった。それをひっくり返して証明しなければ、今後輝かしい人生を歩むことは出来ない。


イネスは頭を回転させて、攻めの一手を返した。


「……ですが、その検査はセラフィーナ様も受けていただくのはどうでしょう?他国に流れた王の血の持ち主とされていますが、それが間違っている可能性だってあるでしょう」


苦し紛れの難癖にも近いものだったが、セラフィーナはあっさりと頷いた。


「構いません。私も一緒に検査を受けましょう。では、ルネ様、よろしいですか?」


ルネは覚悟を決めたようで、セラフィーナを睨み付けながら言った。


「いいだろう。今ここで証明してやる。ただし、これで私が王の血を引いていると証明されたら、貴様は不敬罪で処刑してやる」



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