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孤独の女王  作者: 冬原光


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39 王の葬儀

それから、国王が崩御したのはお茶会から10日後のことだった。


ここのところは体調が悪化し続け、ずっと王の寝室で息をするだけの存在だったが、ついにその呼吸が止まったようだった。

彼は一度もセラフィーナと顔を合わすことがなかった。

最後までセラフィーナのことを認める事無く逝ってしまったのだ。


ヘルサでは国王の葬儀と、次の王の任命を同じ日に行う。

国の統治者がいない期間を極力減らすためだ。


朝日が昇ると同時に、国中の者が王を悼んで黒い服を身につける。

セラフィーナも黒いドレスに身を包み、葬儀に出席した。国で一番大きい教会に王の遺体が運び込まれる。国民は教会の外に設けられた献花台に花を手向け、教会内に入れるのは限られた者達だけだった。


葬儀は王の遺体を先頭に、その後ろを王太子であるルネが歩く。当然ながら、隣には王太子妃であるセラフィーナが歩む……はずだった。


ルネの隣にはイネスがいた。


厳かな空気を求められるため、騒ぐ者はいなかったが、それでも皆が目を合わせて、二人を見る。

そして、残りの登場人物の登場に更に驚いた。


列の最後部にセラフィーナがいたのだ。


王太子妃がその位置にいることは許されることではなかった。


ルネの様子を見れば、セラフィーナを気に掛ける事は無くまっすぐと前を見ている。まるで、セラフィーナのことなどまったく気にしていないようだった。


その様子で、これはルネが仕組んだことだと参列している貴族達は分かった。

配置されている使用人達も、気まずそうに下を向いている者ばかりだ。


おそらく、ルネの独断で決められたのだろう。


貴族の反応は様々だった。


他国から来たのだから当然だ、とセラフィーナを笑う者。


どんな出自であろうが、王太子妃をそのような扱いをすることは国の権威にかかわるのではと心配する者。


そして、ルネがこれを指示したのなら彼と国の今後を嘆く者。


これまでのセラフィーナの行動を見て、考えを改めた者も多かった。それだけに、前代未聞のこの事態に否定的な反応をする者が多くいたのだ。


その空気はルネにも伝わったらしい。

ルネは苛立っているようで、隣のイネスが彼の背中に手を添えて支えているようだ。


王を偲ぶどころではない空気だった。


それを、中心から最も遠いところでセラフィーナが見ていた。

彼女の周りには人がいない。誰もが、巻き込まれたくないと遠巻きにしていたからだ。


セドリックは配置を外されているのかこの場にはいない。

イゾルデとマルグリットは気遣わしげにこちらを見ているが、王の葬儀は爵位に応じた位置から離れることは禁じられているためそばに寄ることは出来ない。


けれど、セラフィーナは孤独では無かった。

彼女の目には寄り添ってくれる死者達が見えていたからだ。


傍らに付きそうソニアが、セラフィーナに話しかける。


「朝に突然訪れたと思ったらこの所業。本当に信じられません」


ぶるぶると怒りで震えるソニアに、セラフィーナは囁いた。


「どうにかして私に恥をかかせたかったのね。父親の葬儀に泥を塗ることすら厭わずに。……まぁ、当の父親はそんなこと気にしていないようだけれど」


セラフィーナは王の遺体が入れられている棺桶の上で呆然としている男を見ていた。

死んだばかりの男は、自分がどうなったのかをまだ受け入れられないらしい。

時々思い出したように騒ぐが、すぐに力尽きてうなだれるの繰り返しだった。


直接見ることは出来なかったが、あれがルネの父であり前国王だった。


セラフィーナは呟く。


「病気で伏せっていた時間が長かったから、意識が混濁しているのね。死者となった後に正気に戻るのは大分時間がかかるでしょう。といっても、彼は好き勝手生きたようだから心残りは無いから、消えてしまうのも早いかもしれない」


好き勝手、という言葉にソニアが辛い表情を浮かべた。


「……そうですね。良き王とは言えなかったかもしれません。けれど、それも終わります」


気がつけば葬儀は終盤にさしかかっていた。


王太子であるルネが棺に頭を下げる。その次にイネスが下げ、それを合図に皆が頭を下げた。


その中で一人、セラフィーナは頭を下げなかった。

自分には、彼を尊ぶことは出来ない。そして、配偶者であるルネのために祈る義理も無かった。


一番に頭を上げたルネが振り返り、ただ一人視線を送るセラフィーナに気がつき、苦々しい表情を浮かべた。

辱めてやろうと、自分の隣に立たせなかったのに、彼女は何も傷ついて居らずいつもと同じようにまっすぐルネを見ている。

その表情には、怒りも悲しみも無かった。


そのことで、自分の一人相撲になっていると益々ルネの感情がぐちゃぐちゃになっていく。


結局、彼女は自分のことはなんとも思っていないのだ。

それを自覚して、どうしようも無い気分になった。


そんなルネの手が、そっと暖かく包み込まれる。

視線を向ければ、イネスがこちらを微笑んでいた。


「大丈夫?」


彼女のささやきに、少し気分が落ち着いた。


自分にはやはり、イネスだけだ。あんな女はいらない。


ルネはイネスの手を握り、改めて決意をした。

セラフィーナと離縁する。そして、彼女を地獄に落としてやる。


厳粛な葬儀の中で、新しい王はひたすらに一人の女を破滅させることを考えていた。


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