表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の女王  作者: 冬原光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/40

38 終わりの始まり

思わぬ質問に、イネスはカップを落としそうになる。すぐに貴族らしく素早く心を整えて、微笑みながらセラフィーナに答えた。


「愛しているわ。生まれたときからルネのことを愛している」


それに、セラフィーナが首を振った。


「今のは質問じゃない。私の中で出た答えよ。『あなたはルネのことを愛していない』」


「……突然なんなのです?失礼だわ」


怒りをにじませたイネスに、セラフィーナは続けた。


「私を王太子妃にすべく尽力したのはレルミット家と聞いたわ」


「ええ。血で悩むルネのためにね」


「自分以外の女が、王太子妃として彼の子供を産むことに葛藤はなかった?」


「もちろんよ。でも、しょうがないこと。王が許さないんだから」


「そうね。そして、あなたは王の世継ぎを産むという重積を避け、王妃として国を納めるしがらみからも逃れ、悲恋の側妃として人が羨む恋物語の主人公であり続けられる」


イネスはセラフィーナの言葉に顔を歪める。


「よくそんな穿った見方をできますね」


セラフィーナは微笑んで答える。


「そうかしら?前王妃の苦悩を知っていれば考えられることでしょう。それに、今の王の健康状態を考えれば、『逃げ切り』も出来たはず。崩御するまでに結婚をごねるだけでもよかった。わざわざ私を連れてきたのは……面倒なことは人に押し付けたかったのでしょう?」


イネスは無言だったが、表情が少し歪んでいる。

図星を刺され、咄嗟に反論できなかったのだ。


セラフィーナは返事がないことを気にせず続ける。


「王妃としての苦悩を背負うことは、王を支えること。それを何一つせず、お茶会の主催という社交界での評判だけを気にしている。それって、王太子のことを考えた行動では無いでしょう」


セラフィーナはイネスをじっと見定めながら言った。


「何でも一番がいいだけでしょう。自分が一番でなければならない、一番愛されて、自分が中心ではなければ気が済まない。そんな一番の自分が愛すならば、この国一番の男でなければならない。自分達の恋愛は一番憧れなければ……」


「やめて!!」


イネスは声を荒げながら、セラフィーナに怒鳴った。


「失礼よ!あなたに何が分かるの!人とまともに触れ合ったことのない、孤独の女王と呼ばれているあなたに分かるわけが」


イネスの言葉をセラフィーナは遮った。


「だからこそ分かるのよ。あなたの関心が自分にしか向いていないことが。いろいろな人を、輪から外れて見ているしか出来なかった私だからわかる。社交界デビューしたばかりの高位貴族の令嬢はそんな顔をしていたわ。自分が一番大事で、自分を取り巻くものを最高にしたいと価値を見定めるような、そんな目」


貴族の令嬢は、幼少期は蝶よ花よと育てられる。

けれど、その爵位に応じて育てられ方は微妙に異なる。

下位貴族は立ち回りが大事なのでしつけとともに自分達の立ち位置を叩き込まれるのだ。

高位貴族の令嬢はそこまでへりくだる必要は無いし、逆に爵位に応じた気位を育てられる。

だが、社交界に出ると高位貴族令嬢も自分の立ち回りが家の今後に影響することを学んでいき、自然とふさわしい立ち振る舞いをしていく。


けれど、目の前のイネスは違う。


高位貴族の幼い令嬢そのままの目をしている。

自分には手に入れられないものはないし、自分には一番価値があるものしか似合わない。


彼女の生きてきた人生を考えたら、それは成立するのかも知れない。

王族や将来の国の重鎮達と共に育ち、何でも一番だった。

挫折をしたことが無いのだ。


彼女にはルネの隣に常にいたことで『現実』が襲ってこなかった。だから、いつまでも夢物語の主役が出来るのだ。


そして、彼女のルネを見つめる目は、幼い令嬢がお気に入りの人形に執着をしているものに似ていた。

愛の豊かさが無い。


「だから、一番を取ろうとする私が嫌いなのね」


セラフィーナの言葉に、イネスは口を開こうとしたが言葉が出てこなかった。


彼女自身、セラフィーナの言葉が徐々に心に染み込んで、そして自覚をしてきていた。

自分の輝かしい人生を、もっと輝かしいものにしたかった。

それをするには王太子の幼なじみでも、恋人でも駄目。王太子妃にならなければならない。


けれど、どこか自分の能力も自覚していた。国母として人々を守り、導く。

そして、大切な王の血を繋ぐ。

それは尊いものであると同時に、限りなく重い責任が伴うものだ。


自分ができる自信が無かった。


だから、せめて王の血を繋ぐ重責から逃れたかった。


イネスは、自分の中で上手く帳尻を合わせた。

責任から逃れるんじゃない。

王の血が入った女の方がルネのためになる。

子供を産むという命に関わることが怖いんじゃない。

哀れな他国の女に譲ってあげただけ。


私はそうして、妥協したのだから、国でもっともロマンチックな恋物語の主役は私のもの。


自分で作り出した哀れみと悲しみ、そして怒りの感情に酔い、それが口から出た。


「あなたがなんて言おうと、私はルネを愛している!一番愛しているのよ!」


叫びが城の庭にこだました後、新たな登場人物が現われた。


「……イネス?」


騒動を聞きつけたのか、ルネが現われた。

困惑しながらも、彼はイネスに駆け寄った。


「どうしたんだ?」


心配するルネに、イネスが寄り添う。


「……セラフィーナ様に、私の愛を否定されたの。それで思わず怒ってしまって」


うっすらと涙をためながらルネを見つめる。その光景は物語の主人公のようだった。

ルネはイネスを抱きしめた。


「あんな大声を出せるんだな。初めて見たよ」


「恥ずかしいわ」


「なんで。嬉しいよ。僕を愛してくれるのは、もうこの世界で君だけだ」


ルナはそう言いながら、セラフィーナを睨み付けた。

もう、彼の中ではセラフィーナは敵になっている。ふたりの恋物語を邪魔する悪役だ。


「……行こう。もう彼女の顔も見たく無い」


そう言って、二人は王城へ戻っていった。


一人残されたセラフィーナは、王城を見つめる。

死者達がざわついているのか、空気が震えているような気配を感じた。


これから、最終局面が訪れようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ