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孤独の女王  作者: 冬原光


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37 イネスの気持ち

貴族令嬢達が退席する中、イゾルデとマルグリットは、セラフィーナに向かって最上級の礼をした。


セラフィーナはそんな二人に疑問をぶつける。


「……なぜ、私に手を貸そうと?」


それに、まずマルグリットから答えた。


「セラフィーナ様が財務部で不正なお金の流れを正してくださいましたでしょう?……レルミット家が有利になるように動いていた宰相気取りの男を失脚していただいたので、ルセリーヌ家もようやく正しい貿易が出来るようになりました」


マルグリットの説明によれば、クレマン・シヴィルがイネスのために暗躍したことで、ヘルサ内の貴族の均衡がおかしくなった。

順調に取引を続けた家が困窮し、結果的に取引が中止になることが一度や二度ではない。さらに、新しい者好きなイネスのためにルセリーヌ家の貿易業にまで干渉されそうになっていたのだ。


「あの小物程度の謀程度では、我が家はびくともしませんが……煩わしいのは事実でした。ですから、セラフィーナ様に正していただいて、我が家はようやく落ち着いて我が国の発展を貿易で支えられそうです……それに、セラフィーナ様のファッションにもお力添えをさせてください。お美しい二つの色の瞳にはどんなドレスやアクセサリーが似合うか、一目見たときからずっと考えていたんです」


いたずらっこのような表情を浮かべて、マルグリットは笑った。


続いて、イゾルデも話す。


「あの『騎士崩れ』……ステファン・ドルレアンを粛正してくださってありがとうございます。エーデルフェルト家は建国以来、ヘルサの国防を担ってきました。ですが、ここのところドルレアン家の横暴で過剰に王城所属の騎士団への予算が多く取られ、国防予算が削減されていました。どうにかやっていた中で、ラウンダスの一件があった……」


隣国と手を組み、銃という新型兵器でヘルサへの侵略が行われようとしていた事件。

国防を担うエーデルフェルト家の領土の近隣だったラウンダスでの出来事は、王族との距離を保っていた考えを一変させたのだという。


イゾルデは頭を下げた。

「国が内側から腐り始めていることに気がつかず、距離を取っていたつもりで、その実無関心だった。恥ずかしい限りです」


それに、セラフィーナは首を振った。


「国防に取り組んでいただけるだけで感謝が尽きる事はありません。それより、中央のゴタゴタで煩わせたことを、こちらこそ詫びなければ」


頭を下げようとしたセラフィーナを、慌ててイゾルデが静止した。


「いえ!……恥ずかしながら、ラウンダスの現状は少なからず把握していました。ですが、あそこまでひどいとは思わず……それを見過ごしていたのも事実です。それをご助力してくださった。感謝しかありません」


そう言って、二人は改めて頭を下げ、そして笑顔でセラフィーナに忠誠を示した。


「セラフィーナ様がどのような立場になろうと、私は支持いたします」


「私もです!お力にならせてください」


セドリックに続き、生きた人との信頼が築けたことに、セラフィーナは自然と笑顔になる。


「ありがとう……貴方たちの言葉がとても嬉しい」


それを見たイゾルデとマルグリットは顔を見合わせて呟いた。


「恐ろしい噂ばかり流れてきましたが、こんなに愛らしい人だったなんて」


それにイゾルデがツッコミながらも同意した。


「王太子妃に失礼ですよ!……気持ちは分かりますが」


セラフィーナはそんな様子を見て、思わず笑い、二人もつられた。

生まれてから、同世代の同性と笑い合うことなんて無かった。そんな自分が不思議で、けれど嬉しくもあった。





参加者が全員帰ったお茶会に、イネスが一人座っていた。

ほとんど手が付けられていないお茶やお菓子が、お茶会の失敗を何よりも物語っている。けれど、イネスはそんなことは気にならないとばかりに、王城の庭を見つめながら静かに口に運んだ。


そのそばに、セラフィーナが座った。そばにいた使用人が注いだお茶を一口飲む。


「美味しいお茶ね。冷めても香りがいい」


セラフィーナが静かに答える。


「当たり前です。この私が選んだもの。私には一流のものしか似合いませんから。……よろしければ、そちらのお茶菓子もいかがですか?今日のために特別に作らせたものです」


見れば、嗜好を凝らしたお茶菓子だった。カップケーキだが、その上にカッティングされたフルーツと、精巧な飴細工が乗せられている。

セラフィーナは一口食べた。味は美味しい……けれど、飴細工のせいか甘ったるさが口に残る。

見かけを優先し、味を二の次にしたお茶菓子だった。騒動で手を付けられなかったのだろうが、この味では誰も二口目はいかなかっただろう。


イネスはカップを置きながら言った。


「正直に言えば、お茶会にセラフィーナ様がいらっしゃるとは思えませんでした」


セラフィーナは少し笑って答える。


「招待状を送ったのに?」


「今日の朝ですから。準備を考えれば普通は来ないでしょう」


「じゃあ、何の意図で?」


イネスは、セラフィーナを見つめて言った。


「窓から、自分が入れないお茶会を眺めてもらうためです」


その表情は醜悪だった。造形は美しい。笑顔も貴族の娘として完璧。けれど、彼女の内側が透けて見えたのだ。

嘲り、憤怒、嘲笑……そんな人間の醜い感情が、美しい表情の下であふれ出したのが見えた。


イネスはため息をつきながら続けた。


「けれど、あんな事になるとは思わなかった。あの二人を切るのは惜しいけれど、私に反旗を翻すのなら、もういらない。私にふさわしく無い」


まるで飽きたおもちゃを品評するような言い草に、セラフィーナは一つの仮説が思い浮かんだ。

イネスを見定めながら口を開く。


「このお茶会に出席したのは、あなたに一つ聞きたいことがあったから」


「私に聞きたいこと?一体なんです?」


初めて自分に向けられた興味に、意外な顔をしたイネスは小首をかしげたが、次のセラフィーナの言葉で固まる。


「あなた、ルネ様のこと愛していないでしょう」


「……何を言っているの?」


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