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孤独の女王  作者: 冬原光


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36 復讐のお茶会

王城の庭で、久々に大規模なお茶会が開かれることになった。

このところ王城での動きが慌ただしく、王の崩御の噂まで出ている。そんな時に華やかな行事をすることは通常であれば非常識なことだ。


だが、世代交代の波に乗り遅れることは致命的になるためこぞって有力貴族が出席した結果、

国の主要貴族のほとんどが出席する大規模なお茶会が開催されることになった。


この催しを開けるのは、現在王太子妃であるセラフィーナただ一人。


けれど、招待状の名前は別のものが書かれていた。


「お久しぶりです。イネス様」


次々とやってくる招待客をもてなすのは、イネス・レルミット。

ルネの恋人に再び返り咲き、それを知らしめようとしていたのは誰の目に見ても明らかだった。


城の庭での催しは王族のみとされているが、ルネの寵愛で権力バランスが再び狂い、イネスの主催に誰も意義を唱えることが出来なかった。

使用人のトップ達も、事前にルネからきつく指導されていたことでイネスの支持に従うしかなかった。


豪奢な飾り付けに、国中の贅沢品を集めたテーブルに貴族令嬢達の感嘆の声が上がる。

爵位が上の者から奥の席へ次々と座り、場が落ち着いた頃、最後の一人がやってきた。


王太子妃セラフィーナだ。


王太子妃としての面目丸つぶれの状況だ。彼女の登場に、皆が今日の視線を送っていた。

イネスが立ち上がって挨拶をする。


「セラフィーナ様。招待に応じていただけて嬉しいですわ」


微笑むイネスに、セラフィーナが静かに応じる。


「構わないわ。今日は予定が無かったから。お茶会に当日の朝招くという無礼にも目をつぶって上げましょう」


その嫌みに反応する者はいたが、セラフィーナはどこ吹く風だった。


「案内が遅れてしまってごめんなさい。王城の庭での久々のお茶会で、手間取ってしまって。ルネが『今後は自由に使って良い』と言ってくれたから、これからはこういった不手際が起きないと思いますわ」


王城を自由に使って良いとは、王太子の寵愛が盤石なことを示している。

その言葉に、周りの貴族達がイネスの勝利を確信した。


だが、子供が虫をいたぶるようにセラフィーナへの攻撃はまだ続く。


「では、美味しいお茶とお菓子を用意したので席に座ってください」


イネスはそう言って、自分の席……最上位の者が座る上座の席へ戻っていった。

セラフィーナは視線を巡らせて、小さくため息をつく。


席は空いていなかったのだ……上座には。

王太子妃が座るべき最も高貴な席はイネスですでに埋まっていて、その周りも高位の貴族令嬢達が座っている。

空いているのは入り口近くの下座の席だけだった。

爵位が下の令嬢達が固まっていて、皆気まずそうにしている。セラフィーナの知識で照らし合わせれば、彼女達はイネスの家とは関係が薄いか、ライバル関係の家だ。

皆に分からせたいのだろう。将来、あの辺りに座る者達は不遇な状況に置かれると。


セラフィーナは以前のお茶会を思い出していた。はじめて彼女に招かれたお茶会で、イネスに恥をかかせた。

おそらく、その時のリベンジのお茶会なのだろう。あのときやり込められたセラフィーナを、今度は国中の貴族の令嬢達の前でこき下ろす。


このお茶会は、この国の縮図だ。

今後は、セラフィーナはこうやって皆のおもちゃにされていく……はずだった。


「手違いで王太子妃様の席が遠くになっているようですね。私の席に代わりにお座りください。この席も王太子妃様の座る場所としては格が足りませんが」


そう言って立ち上がったのはイゾルデ・エーデルフェルトだ。

辺境伯を父に持ち、国の中でも独自の権力を持っている。長らくヘルサと隣国の境を守護してきた彼女の家は、王族に継ぐ権力を持ち、そして王族の権力に決しておもねらなかった。

社交界とも距離を保ち、権力闘争にも関心を示さない。

だが、そんな彼女がセラフィーナの肩を持ったのだ。


お茶会は静かな驚きに包まれた。イゾルデは続ける。


「……ですが、私もエーデルフェルト家の令嬢。長らく国を守り続けて来た辺境伯令嬢として、座るべき場所というものがあります」


それに、一人の令嬢が反応した。


「おっしゃる通りです。我が国の平和を守ってくださっているイゾルデ様を下座には座らせられませんわ。私の席で恐縮ですが、こちらにお座りくださいませ」


続いて立ち上がったのはマルグリット・ルセリーヌだった。

ルセリーヌ家は領土に港町を有し、他国との貿易を盛んに行っている家だった。彼女もまた、社交界とは良い距離感をっていた。といっても、社交界に興味が無いエーデルフェルトとは違い、貿易で得たものを流通させるため、あらゆる社交の場に出ていて人気の令嬢だ。皆に好かれ、そして誰にも肩入れしない。

それがルセリーヌ家の流儀だった。

彼女が明確にセラフィーナのために動いたことに、またもやお茶会にどよめきが走る。


権威ある彼女達をいつまでも立たせるわけにはいかない。

さらに中立とされている家の令嬢達も立ち上がり、お茶会は席の大移動となってしまった。


こんなことになると思わず、イネスは呆然とするばかりだった。

お茶会の主催として機能していないのは明白だ。


喧噪の中、イゾルデが口を開いた。


「この騒ぎではお茶会は続けられませんね。主催のイネス様のフォローをしようと思いましたが、余計なことをしてしまったようで」


マルグリットも続いた。


「イゾルデ様のせいではりませんわ。私がもっとスマートに動けばよかったのです」


社交界でも独自の権力を持つ二人の言葉を、イネスは笑顔を浮かべたが、口から出てきた言葉はそれに似つかわしくないものだった。


「……お二人にはがっかりしましたわ。久々のお茶会で皆さんと交流を深めようと思ったのに」


いつも微笑んで、柔らかい声で小鳥が鳴くように会話をするイネスにしては攻撃的な言葉だった。

今までのイネスなら、二人は決してないがしろにしていい存在ではなかった。

けれど、もう違う。

もうセラフィーナの転落が確固たるものと彼女の中では成っているのだろう。だから自分はこの権力バランスの頂点に立つことは決定している。


その自分に刃向かう二人は『敵』または『無価値な者』として切り捨てたのだ。


イネスは静かな声でお茶会の終了を告げた。


どの令嬢もこの場の空気に耐えられないとばかりに、イネスに挨拶をしながら足早に去っていく。

イネスはそれを微笑みながら、そして自分が王太子妃になったときに誰を重用するかを見定めるように見送っていた。



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