表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の女王  作者: 冬原光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/42

35 運命が動き出す

城に帰る馬車の中で、セドリックがセラフィーナに話した。


「今日は前王妃陛下の軌跡を辿られたのですね」


「えぇ。カトリーヌ様のことをきちんと知りたいと思ったの。……彼女は寂しい人生だったのかしら」


鍵を手のひらで動かしながら、セラフィーナがぽつりと呟いた。

セドリックは言葉少なに答えた。


「騎士の立場では分かりかねますが……国母としての重責は重いものだったでしょう」


「子供が出来るのも遅かったのよね。一体、どれほどの言葉を投げられたのだろう」


当たり前だが、子供は男女で作るものだ。

一方の原因だけでは無い。この国の貴族の血の濃さは相当なもので、中でも王族が顕著だった。

セラフィーナから見れば、不妊の原因は国王の可能性が大きい。

なのに、非難は王妃であるカトリーヌにしか向かなかった。


国で一番敬われる女性でありながら、期待外れとされた女性。


セラフィーナもその立場に置かれることになる。

カトリーヌはなんとかルネを生むことが出来たが、血の濃さは限界を超えているはずだ。

そして、妥協として他国からやってきたセラフィーナは、より子供を望まれていると言っても良いだろう。


馬車の窓から遠くに王城が見えた。

遠くからでも見える荘厳な建物は、威圧感がありこの国の歴史を物語るようだ。

その中で紡がれてきた王の血はセラフィーナのこともやがて苦しめるだろう。


世継ぎを生むことだけしか望まれていない。……けれど。


「この国のために、私が出来る事は何かしら。子供を産む他に、自分が出来ることを最近考えるようになったの」


街の視察や、ラウンダスでのことでセラフィーナの世界は大きく広がった。王城の中だけで完結していた世界の外に、多くの人が暮らしている姿を知ったのだ。


「彼らが安心して暮らせるように、私はもっといろいろなことが知りたい」


馬車の外を見ながら言ったセラフィーナの瞳は煌めいていた。

彼女は王城では無く、街の人々のことを見ている。


セドリックはその姿を見て嬉しくなった。

王族や有力貴族は城の中の勢力に注視する。けれど、彼女は外の世界の国民達を見ていた。

きっと、いい王妃となるだろう。護衛騎士として、守る存在が素晴らしい人であることにセドリックの胸に熱い想いが広がった。


王城につき、馬車から降りるセラフィーナをエスコートしながら、セドリックは尋ねた。


「それにしても、その鍵は一体何の鍵なのでしょう?」


セラフィーナは鍵を掲げながら答える。


「検討は着いてるわ。きっと彼女の秘密を開ける物でしょう」




セラフィーナは王太子妃の部屋に戻ると、カトリーヌの日記を取り出した。

背表紙に金属で意匠が施され、無駄に重いものだ。

それを手に取り、いろいろな角度で観察する。その中に、気になるものを見つけた。

意匠の中に薔薇の花がある。その額の部分に小さな穴があった。

セラフィーナは手元にある鍵をその中に差し込むと、表紙の一部がカタリと動く。


その中には、手紙が入っていた。


セラフィーナはそれを開き、中の文章を読む。

読み進めるうち、セラフィーナは視線を落として、大きく息を吐いた。

そこには、国の根幹を揺るがすようなことが書いていたからだ。


「……あなたが、それを見つけるとはね」


後ろから声がして、セラフィーナは振り返る。

そこには、カトリーヌが立っていた。


表情は形容しがたいものだった。

諦めたような、悲しいような、けれどどこかほっとしたような。


カトリーヌが続ける。


「これも運命なのかしら。だとしたら受け入れるしかないわね。情けなくも、こんな姿になってまで城にとどまっていたのだから、その結末を受け入れるわ。その手紙は好きに使いなさい。あなたの思うままにするといいわ」


セラフィーナはカトリーヌに向き合った。


「……本当は、これを息子であるルネ様に見つけて欲しかったのでは?」


それに、カトリーヌは泣きそうな顔になった。

女王としてではなく、母の顔をしていた。


「そうね、それが本音。でも、私のことを……私自身のことを知ろうとしてくれたのは、あなただけだった。それも他国から来た、生前何の関わりも無かったあなたしか。結局は、私はそれだけの存在だったということね。実の息子にすら感心を向けられない母親」


カトリーヌはそこでこらえきれなくなり、片目から涙がこぼれた。


「けれど、それは当然かもしれないわね。私は大きな罪を犯したのだから」


それを聞いて、セラフィーナは紙を持つ手に力が入る。


「……その罪を葬ることも出来たはず。なせ、形に残しておいたのです?」


「なぜかしら。分からないわ。もしかしたら、復讐をしたかったのかも知れない」


「復讐?」


カトリーヌは壮絶な笑みを浮かべた。


「私をないがしろにしてきた者達を一緒に地獄に突き落とすの」


自分を道具としてしか見ていない家族。


子供を産む道具としてしか見ていない貴族達。


何をしてもいいと、本当に何をしてもいい。子供のおもちゃ道具のようにあつかった王。


その全てに、復讐をしたかった。


カトリーヌはセラフィーナに告げた。


「その紙は、あなたへの贈り物とさせて。……地獄で行く末を見ているわ」


そう言って、カトリーヌは消えていった。


今まで出会った死者達には、生きていた頃への執着が消えると存在が消えてしまうことがあった。

多くの者が、白い粒子のようなものになり、形がほどけるように消えていく。

けれど、幾人かは違った。

足下から黒く変色していき、消し炭が舞い落ちるように地面に消えていく。


カトリーヌはそれだった。


行き先をかんがえたことは、セラフィーナはない。けれど、その先が良いことでは無いことはわかっていた。




カトリーヌが完全に消えた後、入れ替わるようにメイド長のソニアが現われた。

彼女は深々とセラフィーナにお辞儀をする。

そして、ソニアの後ろに同じようにかつて城に従事した死者達が並び、頭を下げていた。


それを見て、セラフィーナは言った。


「これから、国が大きく動くことになる。私に力を貸して欲しい。死してもなお、この国に尽くしてくれた貴方たちの力が私には必要なの。……手伝ってくれるかしら」


それに、ソニアを初めとした全員がうなずいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ