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孤独の女王  作者: 冬原光


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33 カトリーヌを探して①

セラフィーナがやってきたのは美術館だった。

ヘルサの中で最も立派なもので、国の管理下にあるものだ。

ヘルサの貴族の中でも歴史ある物や、各家が譲渡した嗜好の品がそろえられている。

ここの管理は歴代の王妃がしているのだという。


お忍びでやってきたが、将来の管理者であるセラフィーナの顔を知っていた館長は飛び上がって驚いた後、慌てて中へ案内した。

展示を一から紹介しようとしていたが、それを断ってセドリックと共に回る。


仰々しくならないように、平均的な貴族令嬢の格好をして来ているので目立つことは無い。色違いの目もベールで隠していた。

まさかここに王太子妃がいるとは誰も思わず、他の来館者もセラフィーナに視線を向けることもしなかった。


静かな中で、一つ一つに目を配り、解説を読む。


「こうして、実際に見るのはやはり違うわね」


セラフィーナのつぶやきに、セドリックが答える。


「何か書物で見ていたのですか?」


「えぇ。こちらに来る前に一通り目を通してきた。……美しくて、これを使ってきた人。目で見て楽しんできた人との時間も共有出来るよう」


セドリックはチラリとセラフィーナを見る。彼女はオッドアイだ。左右で違う色をしている。

ルロワ家の象徴である青い目がセドリックの側からは見える。

長い睫が影となり、セラフィーナの瞳には光が少なく、夜の深い海を連想させる。


セドリックは彼女の目が好きだった。

国の上に立つ者に許された人を見定める視線を向けられると、悪い気持ちがある者は居心地が悪くなる。

彼女の視線には、そんな強さがあった。

セドリックはその目に見つめられるたびに、騎士として自分は誇れる人生を歩んでこれたかと訊ねられているようで、身が引き締まる気がしていたからだ。


だが、今のセラフィーナの目は以前より柔らかい気がする。

穏やかな日の光が差す美術館だからそう見えるのかもしれないが、何か……。


「何かあったのですか?」


セドリックの口から思っていたことが自然と漏れてしまった。

王太子妃であるセラフィーナに、自分が質問など失礼なことだ。慌てて失言を弁明しようとしたが、セラフィーナは気にした様子も無く答えた。


「えぇ。自分に足りないものがあると知ったところなの。私は外の世界を深く知らないから、こうして実際の目で見て知ろうと思って」


さらりと言って、次の展示に移っていく。

セドリックが知っていることは少ないが、セラフィーナの生育環境があまり良くないことは知っている。人目に触れずに育てられたことも。

けれど、そんな生育環境を感じさせない程度には人とコミュニケーションを取れているように思う。彼女には、きっと自分の知らない何かがあるのだろう。

ラウンダスでの出来事でその片鱗を見たが、それでも全容は到底分からない。深い海の底のような彼女の秘密を見たい気持ちもあるが、守る方が自分には合っている気がした。


セラフィーナが振り返って、セドリックを見つめた。

ベールの奥にある二つの色を持つ瞳が、何かを求めている。


「セドリック。ローゼン家の展示品に案内してくれる?」


「はい。こちらになります」


セドリックはにこりと笑って、セラフィーナを先導する。彼女の興味の旅に同行出来る喜びを小さくかみしめた。





やってきた展示の場所はカトリーヌの生家、ローゼン家から寄贈されたものが集められていた。

見た目が派手なものは比較的最近のものだったが、セラフィーナの目は展示の端を捕らえる。


精巧な錠前だった。


他の展示に比べれば、地味だったので誰にも興味を持たれない。

その異質さが、セラフィーナの目を引いたのかもしれない。


セラフィーナの視線に気がついたのだろう。セドリックが説明をした。


「ローゼン家は、今でこそ前王妃様の生家というイメージが強いですが、元々は職人を多く抱えていた家です。鉄の加工で様々なものを造り出しましたが、一番有名なのはこの錠前でした。技術が低いと錠前が解除出来ず、隠したい物が本人すらも手に届かないものになってしまった……なんてことはざらにありましたが、ルロワ家のものは違いました。普通では考えられない小さな錠前と鍵も作り、それは決して壊れることはなかった」


「……王家が欲しがりそうなものね。隠さなければいけない秘密がいっぱいあるもの」


その言葉に、セドリックは否定も肯定もしなかった。


カトリーヌが王家に嫁いだときは、好色の前王の後始末で城は混乱していた。

隠さなければならない情報の管理に苦労しており、歴史ある家であり、高い錠前技術を持っていたことに目をつけカトリーヌが輿入れすることになったのだという。

ローゼン家は爵位がそこまで高くない。抜擢とも言えるが、それは他の貴族の反感を買うものでもあっただろう。

カトリーヌの肩にのしかかる重責を想像する。


「大変だったでしょうね」


呟いた言葉は、静かに美術館の空気に溶けていった。



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