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孤独の女王  作者: 冬原光


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32/40

32 変化を求めて

王城は次の日から空気が変わった。

ルネが目に見えてセラフィーナを遠ざけ、さげすむようになったからだ。


お茶会の時間も無くなり、王太子と王太子妃としての会合でもあからさまに無視して、時にはセラフィーナの対応に必要の無いダメ出しをする。

プライベートの時間はイネスと過ごし、今まで以上に甘い時間を過ごしていた。

それは過剰ともいえるもので、まるで誰かに見せつけるようだった。


王城の使用人全員が、ルネの寵愛がセラフィーナから再びイネスに移ったと分かった。

けれど、前の使用人達と違い、実直な者が多くなったこともあり、セラフィーナを下に見ることはなかった。

陰口すら上がらない。セラフィーナに同情の視線を送ることもせず、取るべき距離感でそれぞれに接していた。

それが気に食わないのか、ルネの行動は悪化するばかりで、王城の中で負のスパイラルが出来上がっていた。



一方、セラフィーナは今までと何も変わらなかった。

変わらずルネに王太子妃として話しかけ、無視をされても気にしなかった。


王太子妃の部屋で一息ついている時に、死者としてセラフィーナを世話しているソニアが声をかける。


「……セラフィーナ様、大丈夫ですか?」


「平気よ。人の気持ちがうつろげなのは分かっていることだもの」


子供の頃も、セラフィーナに優しくする者は何人かいたが、長くは続かなかった。可哀想だと世話を焼こうとした者は、セラフィーナが何もないところで話始めることに恐怖して距離を取った。

更生させようと意気込んだ者は、セラフィーナの見透かす視線や言動に激高して暴力を振るうこともあった。


「でも、死者に裏切られたのは初めてだから、それは少し驚いた。……悲しいと言ったほうがいいのかしら」


自分の感情に慣れていないのか、ぼやけた表情でつぶやいたセラフィーナがいたたまれず、ソニアが慰める。


「……カトリーヌ様は、歴代の王族の中でもっとも苛烈な方でした。元々の気質もありますし、環境のせいでもあります。カトリーヌ様の裏切りを防ぐことが出来なかったのは、私の落ち度です。忠告をしなければならなかったのに」


ソニアが落ち込む姿に、セラフィーナはくすりと笑ってしまう。


「私より落ち込んでどうするの」


「セラフィーナ様が感情を表に出されないので、私が代わりに落ち込んでいるのです」


そうして、二人で力なく笑い合う。ひとしきり笑った後、セラフィーナは呟いた。


「確かに、私は死者に対して妄信的だった。そして、それは『人間そのもの』への無理解からもつながっているのかもしれない」


それはソニアも感じていたことだった。人間相手より、死者相手の方がセラフィーナの感情は良く動く。生まれてからずっと周りにいてくれた存在だから、気を許しているのだろう。

そして、生きている人間は自分を傷付ける存在でしか無かったから、諦めのような感情を持っている。


だが、その状態は長く続かないだろう。彼女は王太子妃。

これからもっと多くの生きた人間とふれ合いっていかなければならない。


それはセラフィーナ自身も感じていたことだった。

自分の歪さ、足りないものは無限にある。


ふと、窓の外の景色を見た。

このヘルサに来るまで、セラフィーナは塔に閉じ込められどこにも行けなかった。

外の世界は、セラフィーナにとって行く事が出来ない憧れの場所だったのを思い出した。


今の自分は、閉じ込められていない。自分の足で外に飛び出して学ぶことが出来るのだ。

その決意に呼応するように、遠くから騎士達の訓練の音がセラフィーナの耳に届く。


そして、自分には支えてくれる人だって出来た。


セラフィーナは立ち上がった。前に進むためには、自分が変わらなくては。


「今更ながらだけど、学びに行きましょうか」





セラフィーナが立ち寄ったのは騎士の訓練場だった。

前と比べると、快活な空気になっていて、騎士達の訓練中の声も明るい。ステファンの査問の過程で、問題のある騎士達もあぶり出されたのだという。

遠巻きに見ている、死者となった過去の騎士団長達も満足そうな笑みを浮かべていた。聞こえるはずが無いのに、新人騎士へ剣術を指導する者もいた。


セラフィーナの姿を見て、セドリックが声を掛けてきた。


「セラフィーナ様!何かご用でも?」


駆けてきて、清廉な礼をする。他の騎士達も気がついてこちらに来ようとしたが、セラフィーナは軽く手を上げてそれを制した。

セドリックがそれを見てニッと笑う。


「騎士の使い方を分かってきましたね」


「そうかしら?今の行動で気を悪くする者はいない?」


「いるわけありません。セラフィーナ様は現在、この国で三番目に尊い方。あなたの言動を咎める者などこの場にはいません……それに、セラフィーナ様のご助力によって、騎士団のあり方は改善されました。皆感謝しています。今ここにいるのは、あなたに忠誠を誓う者しかおりません」


セドリックは真面目な表情で、静かに言った。

おそらく、今のセラフィーナの状況を把握しているのだろう。ルネにないがしろにされていることを。

だが、それをあからさまに言葉にはしない。騎士として忠誠で表現するのだ。それが心地よく、ありがたかった。


セラフィーナはセドリックに尋ねた。


「今は忙しいかしら」


「先程訓練が終わったので、特に予定はありません」


「じゃあ、少し付き合ってくれない?」


突然の申し出にセドリックは驚いたものの、すぐに笑顔で頷いた。


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