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孤独の女王  作者: 冬原光


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30 新たな企み

王の体調の悪さは末端の使用人達にまで伝わり、『もしかしたら』という空気が城中に漂っていた。

使用人を大幅に入れ替え、感情を表に出さない実直な者が増えたことで、表だって騒いではいない。

だが、王の交代の準備は裏で粛々と行われていく。それはルネも感じ取っているようで、彼が一番落ち着かなかった。


王太子としてやるべきことは貯まっているだろうが、こうしてセラフィーナとのお茶の時間を多く望むようになった。


「動揺がこんなにわかりやすいとは」


お茶を飲むセラフィーナのそばで嘆くのは、ルネの母親にして前王妃のカトリーヌだ。

こうして時々現れて、ルネのことを時々嘆きつつ、彼の好きそうな受け答えを助言してくれる。


セラフィーナとしては、この時間を通して国の中枢を担う王妃としての仕事を勉強していた。

ルネとの会話の他に、そばでルネの話に補足をする形で、王妃としての動きをカトリーヌの話を聞いて知識を蓄えているのだ。


自分としては有益な時間ではなるが、カトリーヌにとっては息子を嘆く時間でもあった。

国に対する見識の浅さを嘆いたり、王としての身構えの無さにため息をついたりしていた。


物語で学んだが、母親にも色々なタイプがあるのだという。

カトリーヌのように、不出来な息子を嘆く親というのもいるのかもしれない。

自分には詳しく分からない親という存在。ただ愛情を与えるだけではないのだと、ルネとカトリーヌを見ていると思う。


ぼうっとしていると、ルネがすねたような声を出した。


「セラフィーナ?聞いているのか?」


セラフィーナは思考を切り替えてルネに答える。


「ごめんなさい。……国王陛下の体調が気になってしまって」


そう言えば、ルネの表情も悲しいものに切り替わる。


「……医者の見立てでは、長くはないそうだ。私たちが国を引っ張っていく時が近いかもしれない」


そして、セラフィーナにすがるような目線を送る。


生きた人間について詳しくないセラフィーナから見ても、ルネは情緒不安定に見えた。

ここのところ、彼の周りでは変化が多く起こっていた。旧友が去り、城の者達も入れ替わった。

今までルネを甘やかしてきた人間達がいなくなり、急に独り立ちをしなければならなくなったのだ。


それはセラフィーナのせいではあったが、ルネからすれば分からない外国の地で立派に立って王太子妃として仕事をしている頼もしい存在に見えたらしい。

心細い自分が頼っても良い存在。それを無意識のうちに表面に出していた。


セラフィーナは考えた。自分達の関係はこれでいいのか。

国民のために、何か変えなければならないのではないか。


その思いをセラフィーナが口にしようとしたが、叶わなかった。

そこに、もう一人の登場人物がやってきたからだ。


「ルネ!」


いつもは静かに甘えるような声だが、今日は場を切り裂くような鋭い響きを含んでいる。

セラフィーナが声の主を見れば、イネスがこちらを睨み付けていた。

だが、その表情は一瞬で、すぐにいつもの笑顔に切り替えていた。


「あら、あの子も余裕が無いようね。あんな姿初めて見た」


セラフィーナのそばで立つカトリーヌが、軽蔑するような声で言った。


イネスはつかつかとこちらにやってきて、セラフィーナがいないもののようにルネだけを見て言った。


「ここにいたのね!お茶をするなら呼んでくれればよかったのに」


ルネは困惑しなが答える。


「今は王太子妃と、国の今後のことを話そうと……」


先程から、自分が王太子妃ではないと突きつけられるようで、イネスは益々気に食わない。

だが、それをイライラと表現するのでは無くルネに甘えて見せた。


「私だってルネの役に立てるわ。でも、前のように貴族の縁を深めようと王城の庭でお茶会をしようとしたのだけれど、メイド長に上手く話が通らなくて……」


そう言って、ねだるようにルネを見つめる。


その姿を見て、カトリーヌが鼻で笑った。


「それはそうだろう。王城の庭で催しが出来るのは、本来は王妃と王太子妃のみ。そのどちらでもないお前が出来ることではない。レルミット家は相も変わらず下品だな」


辛辣な言葉にセラフィーナは思わず笑いそうになる。

それをイネスは見逃さなかった。


「何がおかしいのです!?」


今まで見たことの無い表情を浮かべて、セラフィーナに怒っていた。

自分が笑われたとわかったのだろう。イネスは怒りの声を隠さずに言った。


「私を排除しようとしているでしょう!セラフィーナ様の策略だというのは分かっています!……ルネ、目を覚まして!城の人間がこの人のせいで入れ替わって、あなたの味方がいなくなっているのよ!?」


言われたルネは混乱してイネスとセラフィーナを交互に見ている。


セラフィーナはその情けない姿にため息をつきながらも、イネスに反論した。


「今までの人事が不透明過ぎたのです。王城をより良くするために人事異動をしただけ。そもそも、あなたに王太子妃の仕事をあらこれ言われる筋合いは無い」


それまで貯まっていた、自分は王城にとって何も影響を与えられないという張りぼての立場をついにセラフィーナからも突きつけられたことで、イネスはとうとう泣き出した。


「ひどい……!私はルネのことを思って行動しているの!あなたは自分が王太子妃だと見せびらかしたいだけで、ルネのことを思いやっていないでしょう!ルネの味方なのは私だけ!あなたじゃない!」


そう言ってポロポロと涙を流しながら、ルネに抱きついた。


ルネは困惑しながら、セラフィーナに一言言う。


「イネスは私のことを思って行動してくれていたんだ。そんなに責めないでくれ……」


今のやりとりでセラフィーナがイネスを責めたことはしていないが、泣いたことでルネの中で被害者と加害者に振り分けられたのだろう。

最近では関係が改善したとはいえ、それでもルネとイネスの過ごした時間の長さは強固なものだ。


こうなってしまえば、自然とルネはイネスの肩を持つ。


セラフィーナはこの状況を受け流すことにした。本音のところを言えばめんどくさく、早く終われと思っていたので最短ルートを取ることにしたのだ。

何も言わない様子を見て、ルネはため息をついてイネスを抱きしめながら立たせていった。


「私は少しイネスを落ち着けてくる。今日はここまでとしよう」


そう言って、二人は庭から去っていった。


その後ろ姿を見つめていると、カトリーヌが口を開く。


「以前より改善したとはいえ、まだまだルネとレルミットの娘との仲には及ばないな」


それにセラフィーナが答える。


「そうですね。特にそこに割って入ろうとは思っていませんが」


「そうだろうな。……だが、今後、王と王妃になった時に邪魔が入ることが多くなれば、采配に影響も出るであろう。……奥の手をさずけてやろうか?」


カトリーヌは面白そうに笑って言った。


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