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孤独の女王  作者: 冬原光


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24 トラブル発生

やって来たのは、ラウンダスという街だった。


ヘルサと隣国ネザリアの境界線にある街で、一昔前は領土争いの場として戦場になることも多かった。

そのせいもあり、ヘルサの国に属しているという気質が薄いと言われている。国の中枢自体も、そういった経緯と中央からの距離があるということで、何かと後回しにされる場所でもあった。

そこに行くことを希望したのはセラフィーナだ。


「なぜ、ラウンダスを?」


疑問を口にしたのはルネだった。

ヘルサの他の街に比べて寂れていて、活気が無い。皇太子妃のセラフィーナを楽しませるようなものは何もないと思ったからだ。

セラフィーナは馬車の窓から外を見ながら答えた。


「ヘルサのことを資料を通して一つ一つ学んできました。けれど、このラウンダスに関しては不足していた。直接見る必要があると思ったのです。……国の上に立つ人間として、必要なことだと思いました」


彼女の目は、城の中で見るよりも輝いて見えた。

片方だけが自分と同じ青い目。


それが、外の世界から何かを吸収しようと光を集めて輝きを放っていた。


ルネは初めて、その青を美しいと思えた。


その美しいセラフィーナの瞳が、何かを捕らえた。


「ここで止めてください」


突然声を出して、今にも馬車から降りようとするセラフィーナを落ち着かせながら、ルネは御者に指示を出す。

馬車が止まったと同時に、セラフィーナは街へ下りて歩き出した。

中の様子をうかがって警護の準備していたセドリックもすぐに後ろにつき、その後ろを慌ててルネが追っていく。


セラフィーナは街の隅に座り込む一人の子供に寄っていった。

うつむいた子供に話しかける。


「……どうしたの?」


急に話しかけてきた三人組に、子供は最初は驚いたが小さく声を出す。


「お兄ちゃんを待ってるの」


セラフィーナは周りを見回したが、辺りにそれらしき子供はいない。

ラウンダスは治安が良くない。子供一人がこのままいるのは好ましくない状況だ。せめて街の治安維持所などに引き継げればと立ち上がった時に、遠くで声がした。


「弟に何してる!」


その声の方にセラフィーナが目を向ければ、少年が一人猛然とこちらに駆け出してきた。手には小型のナイフが握られている。


「お二人とも下がってください」


セドリックはそう静かに言うと、セラフィーナを下がらせ自分は少年のナイフを受け止めて瞬く間に地面に押さえ込んだ。


「お兄ちゃん!」


先ほどまでしゃがみ込んでいた子が、慌てて少年に駆け寄る。


「離せ!離せよ!」


暴れる少年に、セドリックはナイフを素早く取り上げながら話しかける。


「落ち着け。暴れ続けるならこの腕を放すことは出来ない。弟を泣かせたくなかったら大人しくしろ」


言われた少年は、ハッと弟の涙ぐむ目を見て、途端に静かになった。

見知らぬ者達に囲まれて、何かされているのかと焦って行動したが、弟は怪我一つ負っていないのがわかったのだろう。

セラフィーナは少年に話しかけた。


「誤解をさせてしまったようね。一人でうずくまっていたから、心配して声を掛けていたところだったの」


セラフィーナの身なりや表情から、警戒すべき人間では無いと判断したのだろう。少年は体から力を抜いた。


「セドリック、もう離して良いわ。治安が悪い街で見知らぬ子に話しかけた私の落ち度だから」


セドリックは命に従い、セラフィーナとの間に入って何かあったときに動けるようにしつつ、少年を離した。


「ダリオ!」

「お兄ちゃん!」


二人は抱き合って互いの無事を喜んだ。


それを見ていたルネが静かに問いかける。


「……両親はどこに?家にいるなら送り届けよう」


それに兄の方はうつむいて答えた。


「出稼ぎに行っていていないんだ。ここらの親は皆そう」


少年はアルベルトと名乗った。

彼曰く、ラウンダスはここのところ気候が代わり雨が降らないのだという。それにより作物の収穫が減った。だが、納税する額は変わらないどころか増えていった。

税金が払えないと追い出されてしまうので、他の街へ出稼ぎに行ったりしているのだという。

それを聞いていたルネがつぶやいた。


「そんな話は出ていないようだったが……?」


細かい税収などは見ていないが、各地で何か変化があればルネの耳にも入る。

ラウンダスの話は彼に届いていないようだった。


アルベルトがダリオに問いかける。


「いつもは家で待っているはずだっただろう?なんでこんなところに?」


「あいつらが来たんだ。いつもと違う雰囲気で怖くなって……」


ダリオのつぶやきに、アルベルトの顔色が変わる。


「領主の下っ端のやつらか!?戻るぞ!」

そう叫んで、ダリオの手をつかんで駆け出した。


セラフィーナは二人の後ろ姿を見ながら、ルネに話しかけた。


「後を追いましょうか」


「彼らに深入りするつもりか?必要なら後で人を派遣すればいい」


「たしかにそうですね。……では、ルネ様は一足先にお戻りください」


そう言うと、セラフィーナは二人を追って駆け出した。

セドリックもセラフィーナの護衛が主任務のため後に付いていく。


ルネはため息をついた。

ここで帰る訳にもいかないだろう。それに、セラフィーナが能動的に動くのを初めて見た。

彼女がどう動くかも興味がある。

ルネは二人の後を追った。



たどり着いた場所は古びた家だった。古い世代から受け継いで住んでいるのだろう。

だが、補修が追いついていないようで、土壁のところどころが欠けている。

開け放たれたドアからアルベルトの叫び声と、ダリオの泣き声が聞こえてきた。

セラフィーナの指示で、まずはセドリックが先に入る。


「離せ!それは母さんのネックレスだ!」


目に飛び込んできたのは、大柄な男がアルベルトをねじ伏せている姿だった。男の手にはネックレスの紐がぶら下がっている。

男はこちらを見ていぶかしげな顔をする。


「なんだお前ら?」


男がセラフィーナ達の登場に驚いて力を緩めた瞬間、アルベルトが素早く抜け出すと同時に、ネックレスを奪い返した。


「これは絶対に渡さない!」


大声で叫ぶアルベルトに、男はやれやれと言った表情を浮かべる。


「そうは言ってもな。納税額が足りないからしょうがないだろう?この家にある金目の物はそれくらいだ。恨むならお前達の親を恨むんだな」


ニヤニヤと笑いながら男がアルベルトに手を伸ばそうとする。

それを見て、セラフィーナは大声を上げた。


「止めなさい!彼らは前回の納税日に一部間に合わなかっただけ。この国の法律に沿えば、次月の納税と合わせれば問題ないはずよ。彼らの両親は外へ働きに行っている。その状況を考えれば、無理に取り立てをする必要がないはす。……ですよね?」


セラフィーナは振り返ってルネに話しかけた。

何故セラフィーナがこの家の事情を知っているのか困惑しながら、ルネはうなずく。


「あぁ。……それに、子供から無理矢理貴金属を奪うのは感心しないな」


図星を指されたのか、男は舌打ちをしながら訊ねた。


「あんたらは誰だ?見たところこの街の者ではないようだが。よそ者が口だしするのはよしてくれ」


ルネはどう答えようか迷った。馬鹿正直に言えば騒ぎになるし、危険な目にあう可能性がある。迷っているうちにセラフィーナが先に口を開く。


「中央から来た者です。街の視察に来た際にこの兄弟に出会ったので話に入らさせてもらいました」


『中央から』は城に出入りする役人がよく口にする言葉だ。嘘は言っていない。

セラフィーナは続ける。


「それで、あなたは?街の役人にしては強引な取り立てをしているようですが」


男は『中央から来た者』と名乗ったことで、警戒したのか少し居住まいを正しながら答えた。


「領主の館に出入りする者だ。この二人のように税金を納めない者達の取り立てをしている」


「そう。でも間違っていたわよね?それはあなたの判断?領主の判断?」


セラフィーナの問いかけに、男は怒りの表情を浮かべる。

まずい雰囲気だと察知したのか、そこにルネが入った。


「ひとまず、その取り立ては間違いだとわかったのだから、ここから出て行くべきだ。騒ぎになると困るのはそちらではないか?」


おそらくだが、領主の判断ではなく小遣い稼ぎでやったのだろう。このまま膠着していても利が無いと思ったのか、逃げるように男はその場から去っていった。


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