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孤独の女王  作者: 冬原光


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22 風向きが変わる

事件が収束していく中、ルネはセラフィーナを一身に見つめていた。


何もわからない他国の女だと思っていた。この国のことなど考えず、ただ子供を産むためだけに来たのだと。


だが、この瞬間は自分より国のことを考えているように思えた。

一方、自分は何も出来なかった。揉め事に慣れていないのもあるが、この事態が自分が原因でもあると引け目を感じてしまったからだ。

王太子妃がいながら、イネスとの仲を続けた。

王太子妃をあからさまに下に見ていたから、ステファンもそれに同調してしまった。

権力の順位をルネがくるわせたのだ。

これは、自分のせいとも言える。


今だって、何をすればいいのかわからない。どう声を掛ければ、どう動けばいいのかわからなかった。



そんなルネを気にもせず、セラフィーナは街の人に声を掛けた。


「皆を巻き込んでしまってごめんなさい。……花冠はまだありますか?」


問いかけられたルネは、騒動で花冠を落としてしまったことに気がついた。

それを拾い、申し訳なさそうにセラフィーナに見せる。


「すまない。こんな形になってしまった」


花冠は落とされた衝撃で花がいくつか落ちてしまい、貧相になってしまっていた。

けれど、セラフィーナはそれを気にせず受け取った。

自分で頭に被ろうとした時に、小さな声が聞こえた。


「あ、あの!!これどうぞ!」


その声に目を向ければ、先程の騒動で泣いていた子供が、手に持った何かをセラフィーナに差し出していた。

セラフィーナはしゃがんで小さな手の中を見れば、四つ葉のクローバーが乗っている。


子供は一生懸命、話始めた。


「これ、幸せを運んでくれるんだって!僕とお母さんを守ってくれたからあげます!」


セラフィーナはそれを受け取って、花冠に差した。

それを見ていた周りの子供達が、「僕も手伝う!」「私も!」と散っていって、クローバーをセラフィーナに手渡していく。

それを落ちた花の箇所に差し込めば、いろいろな花の色と緑のコントラストが美しい花冠が出来上がった。

そして、幸運の象徴であるクローバーが集められた花冠は唯一無二のものだった。


セラフィーナはその花冠を被り、皆に微笑んだ。


ぎこちないながらも、目を細めて心の喜びが溶け出したような笑顔だった。


その笑顔に歓声が上がる。

いつのまにか拍手が起こり、それは波のように広がっていった。


それを間近で見ていたルネは胸の高鳴りが止められなかった。

先程までは上に立つ者の権威で場の空気を制していたのに、花冠を被り微笑む姿はまるで子供ようで。

瞬きも忘れて、セラフィーナの笑顔に見入っていた。



そのお祝いの空気の中で、一人だけ陰鬱な空気を纏った者がいた。

みんなの中心に立つセラフィーナを、一人じっと睨む存在。


イネスだ。


今まではみんなのあこがれの的で、中心に立つのはイネスだった。ちらりとルネを見る。彼のセラフィーナへの視線もいつのまにか熱を帯びていた。


彼の関心がセラフィーナに寄っているのがわかり、イネスの中で憎しみがさらに膨らんでいく。


なんで、なんであんな女が。


イネスはその場から離れるべく、一人背を向けて歩き出した。考えなければならない。セラフィーナを排除しなければ。





先日の花祭りでの出来事が広まったのか、セラフィーナに対する風向きが変わった。

貴族達は、王城で見かければ話しかけようと、セラフィーナ近づいてくる者が増えた。イネスの開いたお茶会で見た貴族令嬢さえも、セラフィーナに媚を売りに来ている始末だった。


そして、周りが変わったのはセラフィーナだけではなかった。


ステファンは騎士の審問会に駆けられた。

騎士団内でのイジメ、予算を不正に使用するなど余罪はたくさんで、彼の父親である騎士団長も共に審問に駆けられている。

セドリックが騎士団内の被害をあらかじめまとめていたということで、スムーズに事が進んでいるらしい。

それが終われば、王太子妃を傷つけようとした罪での処刑が待っている。


国の主要貴族の子供が処刑されるなど前代未聞で、一大スキャンダルとなった。


そして、イネスにも変化が起こった。

今までルネの寵愛を受けて、国の主要ポストに付く者達と仲が良かった『憧れの人』という認識だった。

けれど、幼なじみの他二人は王城から去り、そしてルネとの仲もすきま風が吹き出したという噂だ。

今までは時間があればルネと二人の時間を楽しんでいたが、今ではイネスの誘いにルネが忙しいと断っているらしい。


実際、ステファンの件で王城内は混乱していたから間違いではないが、今まではどんなに忙しくともイネスとの時間を取っていた彼の姿を知っている者達からは、二人の仲が変化したのだと思われ、噂が広がっていった。


そして、一番の変化はルネがお茶を誘う相手がセラフィーナになった。


「視察の後、疲れはどうだ」


「大丈夫です」


言葉少なく、盛り上がっているとは言えない会話だが、これまでの二人から見れば大きな進歩だった。

今まで何の関心も無かったので、ルネはセラフィーナが何を興味を持っているのか分からない。

とりあえず、この前の街の視察の事を話す。


「あの花冠は持って帰っていたが、今はどうしているのか?」


「花冠は水に浮かべて楽しみました。……けれど、しおれはじめてしまったので、少し残念です」


セラフィーナは、少し残念そうな顔をした。

その表情が幼い子供のようだった。整った顔立ちだが、無表情なことが多かったセラフィーナがあの視察以来様々な表情を見せる。

そのギャップをルネは可愛らしいと感じ、顔が赤くなったのをごまかすようにお茶を飲んだ。


ルネの中で、セラフィーナへの関心は無視出来ないものになっていた。


今までは自分に媚びを売る人間ばかりだった。

その中で自分に感心を示さないセラフィーナは何を考えているかわからなかったが、今ではミステリアスで媚びない姿勢は芯の強さを感じさせて好ましく思っていた。


セラフィーナの口数は少ないので、自然とルネばかりが口を開くようになる。だが、それすらも新鮮に感じた。

無表情の彼女がほんの少し笑うことに気が付いて、それを引き出したいと思い始めていた。


だが、実際にはセラフィーナはルネの言葉を受け流して、彼女の右となりに座る女性の話を聞いていた。

ルネの目には映っていない、もう一人の参加者。


「我が息子ながら単純ね。誰に似たのかしら」


ルネの母親にして、前王妃のカトリーヌ・ド・ルロワだ。前にセラフィーナに助言してから、時々現れる。


「ここまで来れば後は簡単よ。後は信頼を積み重ねていくだけ。今のあなたなら、どんな言葉も良い方に受け取るでしょう。……ちょうど間に合ったようでよかったわ」


ちょうど?と疑問に思い、動きが少し止まったセラフィーナに、カトリーヌは面白そうに囁いた。


「王がもうすぐ死ぬのよ」


思わずカップを落としそうになり、静かにテーブルに置いた。

それにルネが気がついて、問いかける。


「どうした?顔色が悪くなったようだが……」


それにセラフィーナは頭を下げる。


「体が少し冷えてしまったようです」


ルネは気遣わすような表情をする。


「今日は少し肌寒いからな。お茶はここまでとしよう」


セラフィーナは辞して、その場から立ち去る。王太子妃の部屋へ戻ると、カトリーヌに問いかけた。


「王の体調はそこまで悪かったのですか」


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