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孤独の女王  作者: 冬原光


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15/41

15 護衛騎士を探して

「王太子妃の予算が無事降りたようです」


財務部での出来事の次の日、ソニアが言った。

セラフィーナがそれを聞いてうなずく。


「よかったわ。お金が無い王太子妃なんて悲しいものね」


「このような出来事は我が国の恥です。財務部での出来事は秘匿されているようですが、一部では漏れているようですね。シヴィル家の馬鹿息子も地方へ飛ばされたようです」


「そうなの」


セラフィーナは興味なさげにうなずきながら、手元の本をめくる。

その本はソニアに渡された歴代の王太子妃の日記だった。日記と言っても私的な内容は少なく、王太子妃としての日々や、気がついたこと、立場上の注意点がかかれたものだ。

王妃ごとに冊数があるし、人によってはこまめに書いているため、膨大な量だった。

そのため、幼い頃より王妃教育を受けてきた歴代の王太子妃たちはそれを見返すことはほとんどしなかったようだ。

だが、セラフィーナはその知識が圧倒的に無い。

彼女にとっては貴重な資料だった。

王族の権威を表す為か、豪華な装丁で作られていて手首が疲れるのが難点だが。


ソニアが訊ねる。


「参考になる情報はありましたでしょうか?」


セラフィーナがページをめくりながら答えた。


「えぇ。今度の行事のいい予習になりそう」


ちょうどその内容が今度行われるという王城近くの街への視察というものだった。

国の次を担う王太子と王太子妃が訪れるということで、その地域では祭りが開かれるのだという。


「街全体が、お二人を歓迎するように花が飾り付けられ、それは美しい祭りなのですよ。王太子妃様には花で作られたブーケが渡されるのです」


そろそろ準備をしなければなりませんね、とソニアはドレスを見に行った。

日記を読み進めれば、その視察には騎士と同行するとのことだった。


「ソニア、視察の際に護衛の騎士が必要と書かれているけれど、これは王城に所属している騎士がついて行くということでいいのよね?」


「そうです。ただ、個別に誓いをたてることをします」


「個別に誓い?」


ソニアは説明をした。まだ建国間近だったころに視察をしていたときの名残が続いているのだという。

王城にいる騎士の数が少なく、護衛の人数が足りなかったことから親しい貴族に声をかけて専属で護衛になってもらったというものだった。

腕利きの騎士を側に置き、互いの信頼を確認しあう。今では形式的なものになり、王太子妃の家柄と親しい家の騎士を指名するのがほとんどだという。


「王太子妃に指名されて、断る者はいません。この後、騎士団の訓練場に行きましょうか。私がちょうどよい家の騎士を僭越ながらお伝えさせていただきますので、そちらを選べばよいかと」


「わかったわ。早速行きましょうか」


セラフィーナは日記を閉じて立ち上がった。







王城から少し離れたところに騎士の訓練場があった。

開けた土地はきれいに整備されており、騎士達が精力的に訓練をしていた。

近づいていけば、そこに一人の男が現れる。


ステファン・ドルレアン


イネスとルネの幼なじみだ。騎士団長の息子で、彼自身も騎士として王城で訓練をしている。


「おや、セラフィーナ様。このような場所にどうしたのですか」


黒髪で精悍な顔をしているが、鷹のようにこちらを見定めるようにしていた。

身長も高く、恵まれた体格で代々騎士として王家に仕えてきたドルレアン家の嫡男としてふさわしい男と言えた。


だが、表情が変化して、その清廉な空気は胡散し、セラフィーナに対して不誠実な笑みを浮かべた。


見慣れた表情だ。それに構っているときりが無いので、セラフィーナは話を進める。


「騎士団長はいます?今度の視察の時の護衛騎士の件で相談が」


「今、団長は国境へ長期で視察に言っています。その間の全権は息子である私が担っているため、私が承ります。よければ、直接訓練を見て選ばれたらいかがですか?」


ステファンはそう言ってセラフィーナを案内する。

二人が現れると、訓練をしていた騎士達が走ってきて整列をした。

皆セラフィーナを見ずに、ステファンを見ていた。彼が団長代行なので統率者である彼を重んじる態度は正しいのかもしれないが、どちらかと言えばセラフィーナを無視する意図の方が強く感じ、嫌な空気が流れる。


セラフィーナも、さっさと用件を終わらせようと口を開こうとした。ソニアがささやいた者を指名すれば、もうこの場に用はない。

だが、ステファンの大声で遮られた。


「今度街への視察があるが、王太子妃が護衛の騎士をお探しらしい。誰か立候補者はいるか?」


それに応える者は誰もいなかった。


騎士は皆まっすぐ前を向いて、ステファンの方を見るだけだ。だが、表情が先ほどと違う。前列のおそらく高位貴族の息子である騎士は笑いをこらえるような表情をしていた。


ステファンは残念そうに首を振って、セラフィーナに向き合った。


「セラフィーナ様。あなたを守りたい者はいないようです。どうしましょうか」


すまなそうな顔をしているが、彼もまたおかしくてしょうがないという顔をしていた。

おそらく、すでにステファンが根回しをしていたのだろう。誰もセラフィーナに立候補せず、守る価値もない者だとわからせようとしているのだ。

ステファンを改めて見つめる。こちらに慇懃無礼な態度をとりながらも、その瞳の中に怒りを見た。



ステファンは心の底から怒っていた。

幼なじみのクレマンが城から去っていた。地方に立つ前の夜中に、ステファンの元に立ち居寄った彼は多くは語らなかったが、財務部で王太子妃と何か揉めて、その争いに負けたらしいことを言っていた。


彼は別れ際にステファンに警告した。


あの王太子妃には気をつけろ。彼女は何かおかしい。


そして、同時にステファンは今日の朝の事を思い出す。

訓練場の前にイネスが立っていた。団長代理ということで、若いながら人の上に立つことの決意の現れとして、ステファンは、ここのところ誰よりも早く訓練場に行くようになっていた。

朝焼けの中、彼女は悲しそうな顔でステファンを見ていた。


「どうしたんだ?こんな朝早く」


尋ねると、イネスの瞳が潤んでいく。


「クレマンが去っていって、あなたまでいなくなってしまうのではないかと怖くて……ステファンはいなくならないわよね?あなたもいなくなってしまったら……」


涙をこぼしてステファンに手を伸ばそうとして、そしてやめた。

幼なじみとして育ち、小さい頃は妹のように彼女を慰め、抱きしめたこともあったけれど自分たちはもう大人に近い。幼い子供の頃のように触れ合っては駄目だと思ったのだろう。

ステファンはためらった彼女の手をつかみ、抱きしめた。


「今は誰もいない。イネスを泣きやませるには、兄代わりの俺の胸の中が一番だろう」


「ありがとう、ステファン。……あの人、なんだか怖い」


つぶやいた『あの人』とは王太子妃のことだろう。

イネスは続ける。


「私たちの世界が壊されていく気がする。お願いステファン、私のことを守って」


そうつぶやいてステファンをギュッと抱きしめて、彼女は足早に去っていった。

腕の中の温もりが消えて、ステファンは手を握った。

彼はイネスの兄代わりとして、ずっと彼女のそばにいた。そしてこれからもずっとそばにいるつもりだった。王家に捧ぐはずの剣も、心の中ではイネスを守るために捧げるつもりだ。


だから、訓練前に騎士達に話した。セラフィーナが来てからおかしなことが起きている。この国に害をもたらす存在になるかもしれないと。それに賛同して、視察の護衛騎士に誰も手をあげなかった。

これで彼女は、騎士から守られないという不名誉な王太子妃となるだろう。


だが、その空気は断ち切られた。


「私が、王太子妃様の視察に同行いたします」


整列した騎士達とは別のところから声が響く。

セラフィーナはその声の方を見ると、一人の青年が立っていた。騎士の格好をしておらず、簡素な服を着ていた。

彼はこちらに歩いてきて、ステファンに頭を下げた。


「今日はお休みをいただきすみません。亡くなった友人の家に花を渡しに行っており、用も済んだので参りました。……セドリック・ドゥ・ジェゴフと申します」


そばにいたソニアがセラフィーナに耳打ちした。


「ジェゴフ家は領土は小さいですが歴史が古く、真摯に王家に尽くしてきた家です。セラフィーナ様の護衛騎士には、彼を推薦しようと思っておりました」


セラフィーナは微笑んで、セドリックに問いかけた。


「よろしく。それで、視察の護衛騎士になってくれるの?」


「はい。私でよければ、王太子妃様の御身を守る栄誉をいただけますでしょうか」


そこにステファンが割ってはいる。


「おい、勝手に決めるな」


それにセドリックは笑って問い返す。


「勝手にも何も、遠目に見ておりましたがどなたも立候補者がいませんでしたよね。わかります。我が国の大事な王太子妃様を守るという重責は、並大抵の騎士ではつとまりません。恐れをなすのは致し方ないことです」


『腰抜け』と言われたことで、周りの騎士達の険しい視線がセドリックに刺さる。けれど、彼はひょうひょうとしている。

セラフィーナはそれがおかしくて小さく笑うと、セドリックに手をさしのべた。


「では、護衛を任せます。さっそくですが、この後時間はあるかしら?この国に来てまだ短いから、せっかくなら守ってくれるあなたから視察のことを聞きたいわ」


「おおせのままに」


セドリックはセラフィーナの手に誓約のキスをした。

もう用はないとばかりに、セラフィーナはセドリックをつれてその場を後にする。

二人をいまいましげに見つめるステファンの視線を背中に感じていた。



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