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孤独の女王  作者: 冬原光


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1 物語の始まり

「私、ルネ・ド・ルロワはセラフィーナ・ド・ルロワと離婚をする!」


ついに言うことが出来た。この日を待ち望んでいた。

王族の後継者を作るために他国からやってきた女は、ルネの人生を大きく狂わせた。

彼女と結婚してからというもの、ルネの世界は大きく歪んでしまった。


だが、それも今日までだ。


発表の場は、自分が王に即位する日と決めていた。

憂いを払って、新しい時代を作っていきたいからだ。


彼女が来てからというもの、共に国を盛り立てていこうと誓い合っていた幼なじみ達はいなくなり、父も崩御した。

自分の周りの世界が一気に変わった激動の一年だった。


それもこれも、『孤独の女王』と呼ばれている彼女のせいだ。


だがようやく解放される。

この疫病神がいなくなれば、幸せな日々が戻ってくるだろう。

愛おしい人と結ばれ、共に支え合っていこう。

二人で王の幸せは国の安寧にもつながる。


私達の幸せは、皆が祝福してくれるだろう。

彼女の評判は元々良くなかったから、離婚は喜ばしいニュースのはずだ。

この場に集まった貴族達の歓喜の声が聞こえてくる……はずだった。


だが、大広間は静まりかえっている。

想定していた反応と違う。なんだ、何が起こっているんだと階下を見ようとすると、彼女……王太子妃が口を開いた。


「その離婚を受け入れます」


そう言った彼女は表情一つ変えなかった。

まるで、ルネが離婚宣言をすることをわかっていたようだった。

……または、待ち望んでいたようにも見える。


彼女の静かな態度に反して、広間には大きな変化が起きた。


彼女が答えた後、ホール中に拍手の渦が巻き起こった。

その音はあまりに大きく、招待客の数以上の手が打ち鳴らされているように聞こえる。


ルネが慌てて下を見れば、驚くべき光景が広がっていた。


招待された貴族達は誰も手を動かしていなかった。

彼らは青ざめた顔で立ち尽くしているだけだった。


では、この拍手は誰が?


おぞましいほどの拍手の中、王太子妃が笑う。

それは、これから起こる地獄の時間を知らせる笑顔だった。






ヘルサは侵略を繰り返し領土を広げていった大陸随一の大国だ。


その頂点である王族も歴史が古く、建国以来その権力を手放したことはない。

ここまで権力が盤石だったのは、その血を外に出さなかったことが大きかった。


他の家と結婚し子孫をもうければ、王位継承権は増えて行き、本流が途絶えた時に権力が移行することになる。

それを忌避して、国の象徴として王族の血を特別なものとした結果、ルロワ家は親族との婚姻を繰り返した。


結果、その血は異常に濃くなってしまった。


血が濃くなると子供の健康にも影響がでる。子供が出来ても育たないか、出産まで至らないこともあった。


王自身も健康状態は生まれた時から悪く、常に痣が絶えず、少し怪我をしただけでも血が止まらない。

王の血脈は限界を迎えていたのだ。

万全の医療体制で生きながらえた王と違い、その他の血を持つ者達は次々と絶えていってしまった。


王族の専属医師達はこの方法を解決するには、『他の血』を入れるしかないとした。

現王の代で、初めて王の血を持たない貴族の娘が迎えられた。けれど、ヘルサの貴族社会事態が停滞していて、その娘の血もまた限界に近かった。


外に権力を出したがらなかった王が『建国以来の歴史ある血統』を条件として譲らなかったため、大した血の浄化が出来なかったのだ。


流産や死産が何度か続き、ようやく1人、奇跡の子が生まれた。

なんとか育った子供、ルネ・ド・ルロワは奇跡的に健康体だったが、兄3人を早くに亡くし王妃も度重なる出産で力尽きたことで、彼がルロワ家の最後になるのではないかと医師は考えていた。


周りの心配と懸念をよそに、王太子自身はレルミット家の令嬢イネス・レルミットとの恋愛に夢中だった。


イネスの母がルネの乳母だったことで、二人は幼馴染みとして幼い頃から一緒だった。兄妹のように育ったが、在るときからイネスがルネへの恋心を隠さなくなり、やがてルネもそれに答えるようになった。


だが、レルミット家もまた古くからの家で血が古い。家系図を辿れば、王族のものを真似るように縁続きとなった家と婚姻を結んでいることで、王の血以外の血統が限りなく近かった。

大幅に血を薄くすることに期待は出来ない。


王家の血にこだわる王と、血の濃さを改善したい医師団。

王太子妃にふさわしい家を検討するも、家格が合わない、健康・精神に不安がある、貴族間のバランスが……とふさわしい令嬢を見つけることが出来なかった。

彼らが長く議論を重ねている間、ルネとイネスの仲は深まっていき、二人の容姿の美しさから彼らは恋物語の主人公のようだと国民から親しまれていた。


二人が愛を誓い合った頃、ついに結論が出た。それはイレギュラーともいえる方法だった。

ルロワ家の汚点である、トリモア枢機卿国に流れた血を使うことにしたのだ。


トリモアは宗教国で、大陸に広く広がる宗教の中心地だった。小国ながら聖地としてどの国からも干渉されない国。

そして、トリモア自身も他国へ干渉することはなかった。


ヘルサとトリモアには、恥ずべき歴史がある。


トリモアを納める枢機卿の娘とヘルサの二代前の国王が過ちを犯したのだ。

その子供がさらに子を生んで、王太子のルネと同世代なのだという。


他国の血の方が多いが、王の血も流れている。

そして、政治的に他国に干渉することは無いトリモアの貴族の出身。

血は欲しいが、権力の流出を避けたい王家にとって、彼女はまさに理想的な存在だった。


枢機卿の家であるリスター家も厄介払い出来ると賛成し、その子はヘルサへやってくることになった。

ルロワ家の血を洗い、王族の権威を延命させるために。


そしてやってきた子、それがセラフィーナ・リスターだった。






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