お兄さまが代わりなのです
この勢いでみなさんにさり気なく謝罪してしまいましょう。
「と、とにかく、お待たせいたしました!
あ、あと、えっと……そのお……先ほどは失礼いたしました……。
水遊びは……ブリードさんを泳がせるだけにしますね?
あの、お魚もおりますので……」
どういったらいいのかな?
ハレンチなこと言ってごめんなさい、とか?
モジモジと謝罪すれば、みんな暖かく受け入れてくれた。
「うん。問題ないよ。ジルが上手く説明してくれたみたいだね」
「そこまで厳密でなくてもいいんだけれどね……クリスくんの場合は気を付けたほうがいいのかもね。ジルがいるから」
「だよなあ!俺んちなんてふつうに川に入るぜ?」
「ウエインのところは……な。騎士団はまた別なんじゃないか?」
「ですね。演習などで遠出することもあるでしょうし」
「特にウエインのところは……普通の騎士団とは別に考えたほうが良いだろうな」
「騎士というより、実体は傭兵に近いですしねえ……」
「いや、殿下、失礼すぎませんか?王のために腕を磨いているんですが?!」
フォローしてくれたがために、逆に「騎士団の脳筋さについて」が始まってしまいました。
アイクさまとイクシスさまとで、「騎士団の団員は神経が太い」とか「ガサツ」だとかを語り合っております。
ごめんなさい、ウエインさん!
すると黙ってうつむいていたケイオスくんが大声をあげた。
「あの!騎士団は素晴らしいと思います!王国の騎士団の強さは他国でも有名です!
腕とかすっげえ太いし、カッコいいです!俺、将来騎士になりたいんです!
……好きな相手とか守りたいし……」
チラ、と視線を寄越したので「ケイオスくんならなれるよ!お姫様をまもれるように、頑張って!」と激励しておいた。
「……脈はなさそうだね?」
「……頑張れ」
「……無駄な頑張りだけどな。そもそも怖えのが付いてるし」
何故か三人がケイオスくんの希望を挫きだしたので、ボクは慌ててケイオスくんをフォロー。
「子供の夢を挫かないでください!頑張れば立派な騎士になれるはずです!
ボクは応援してますからね、ケイオスくん!」
「……クリスと共に私も応援しているぞ、ケイオス」
みんなに応援されたのにちょっとしょんぼりしてしまったケイオスくん。
大丈夫。希望だけはなくさないで。夢を見るのは自由だからね!がんばろうね!
お約束どおり水遊び(ブリードさんは気持ちよさそうに泳いでおりました。みんな「トカゲって泳ぐのか?!」と驚いておりましたが、泳いでいるのだから泳ぐのでは?)し、会場に戻るころには、なんだかんだみんなすっかり打ち解けておりました。
アイクさまたちは「クリス、私たちのことも頼っていい。兄……こほん、いや、兄の友人として仲良くしてほしい」「またスイーツを食べにお誘いしますね」「今度ウチにも来いよ」と仰って頭を撫でてくださいました。
お兄さまにすかさずその手を叩き落とされておりましたけれど。それはそれです。
ケイオスくんは、ウエインさまに稽古をつけて頂く約束をしたそうです。
良かったね、ケイオスくん!
ウエイン様と一緒なら、あの失礼な伯爵の洗脳も解けるのでは?
少なくともボクたちの敵にはならないのではないでしょうか?
「仲良し大作戦」という目的を達成しほくほくしながら会場に戻った途端、ボクはたくさんの人に囲まれてしまいました。
とっても驚いたのですが、お兄さまがボクをしっかりとガード。
「私のクリスは少し人見知りなのです。申し訳ない。《《殿下たちとの交流》》で少し疲れてしまったようです。改めてまた……」
などと相手を牽制。
簡単な挨拶だけで済むようにしてくださいました。
親族である伯爵も、またボクに話しかけようとしたのですが……
「ジルベスター、クリス、戻ったのか。ならば…
「ああ、伯爵。先ほどの無礼、今回だけは見逃しますので。これ以上の会話は無用です。
今後の付き合いは、クリスの友人となったケイオスのみとさせていただきますのでご了承のほど。
では失礼!」
とあっけなく排除してしまわれました。
護衛のみなさんの出る間もありません。完璧なガードです。
それを見て、当初ボクにイヤな視線を送っていた方々も諦めモード。
ボクたちはもうすでに「公爵家の一員」なのだと渋々ながらも認めてくださったようです。
というより、伯爵とのやりとりを見て、ボクに関わってお兄さまの粛清を受けるのが怖くなったのだと思われます。
公爵家に出禁になるだなんて、大変な失態ですものね!
それにしても、お兄さまをお護りするはずが、ボクのほうが護られてばかり!
念ですが仕方ありません。今後のボクの成長にご期待ください!
そうこうするうちにお父様とお母さまも挨拶回りを終えて戻っていらっしゃいました。
「ジル、良くやっていたようだな。影も褒めていた」
なんと!ボクたちにこっそり影をつけてくださっていたようです。もったいない!
「クリス、大丈夫か?初めての挨拶もとても上手にできていた。
皆の評判も上々だ。とても聡明でかわいらしいお子さんだ、と皆褒めていたよ?
さすがクリスだな」
「!!ありがとうございます!えへへ。お兄さまが付いていてくださったからです!
沢山助けてくださいましたし、傍に居て下さるだけで元気がでるので!」
「ふふふ。そうか?なら良かった。
父上、殿下とは婚約解消に向けて動くことで同意致しました。クリスにも、《《然るべき時までは》》クリスの婚約者の代理として私が傍に居る了承を得ましたので、そのようなお心づもりでお願いいたします」
「そ、そうか?……少し気が早いのではないか?無理を言っていないだろうな?クリス、ジルベスターで良いのか?」
「?無理は言われていませんけれども……。ボク、お兄さまが大好きですので、お兄さまが良いのでしたら良いのです!」
「あらあら!そうなの?」
「はい!そうなのです!」
こうして五歳のお披露目は大成功で終わりました。
アイクさまたちと仲良くなれましたし、未来の敵のケイオスくんとも仲良くなりましたから。
これは大成功と言ってもいいですよね?
あと、これは嬉しいご褒美!
お兄さまがボクの婚約者代理になってくださいました。
代理というのがよく分かりませんが、代理がいれば無理に婚約者を作る必要が無いのだそうです。
ボク、全く知りませんでした。まだまだ貴族には知らないルールがたくさんあるみたい。
ボクはお兄さまと居られれば良いので、無理に婚約者を作らなくて良いのと聞いてほっとした。
だって、婚約者がいたらそちらを優先しなければならないでしょう?
ボクの一番はお兄さまだもの。それは無理なので。
その日の晩、いつものようにベッドに入ろうとしましたら……
「今日からは私が婚約者代理だからね?これからは婚約者代理としておやすみの挨拶をしてもよいか?」
「そういうものがあるのですね。知りませんでした!はい!勿論です。何をしたらよろしいですか?」
さすがのボクも学んでいないことまでは分かりません。
これからおいおい学んでいこうと思います。
するとお兄さまはキラキラとその目を輝かせ、こう仰いました。
「では目をつぶってごらん」
「はい。……こうですか?」
ぎゅうっと目をつぶってみました。
なんだかこれ、チューを待つひとみた……
ちゅ!
い?!え?!は?い……いま……!
慌てて目をあければ、すぐ前にお兄さまのお顔!
ち、ち、ち、近いというよりもゼロ距離です!
パチパチと瞬きをすれば、お兄さまのお顔にボクのまつ毛が……!!
息がかかってしまいそうだから、息すらもできませんっ!
必死で息を止めていたら、またしても……
「クリス?クリス?!」
ああ……気を失うのは久しぶり……
なんというか、ボクのお披露目はとっても刺激的な日となったのでした。




