ケイオスくんと
「……………あのう……まだ抱っこなのですか?
ボク自分の脚で歩けます……えと……人が居ない時には大歓迎なのですが……ボクと同じ年のケイオスくんもおりますし……」
「問題ない。この方が早い」
「……はい。ありがとうございます」
お兄さまの抱っこで戻りながら、当たり前のようにお兄さまがこう仰った。
「クリス。お披露目が終わったから、クリスには婚約の打診が殺到するだろう。
会場に戻れば多くの子弟を紹介されることだろう。
私はまだ婚約中の身。お互いに解消に向け動くとは言っているのだが……いつまで拘束されることになるのか分からない。
いつと約束はできない。だが、どうか心に留めておいて欲しい。
いつかその時に、クリスの隣にいるのが私であればよいと願っている。
そうでなくともクリスに婚約者ができるまでは……私に婚約者の代わりをさせてくれるか?」
余りにも穏やかな声音だったので聞き流してしまうところでした。
えと。
これって……これって……
「婚約者がいない間、お兄さまがボクのエスコートしてくださるということですか?」
異世界でご令嬢のお兄さまがしているエスコート。こちらではボクにも適用されるのですね!理解しました!
ぱちり。
瞬きをしたお兄さまが固まった。
なにかボク、間違えちゃったのでしょうか?
「お兄さまの婚約解消までの間は、ボクの婚約者の代わりになってくださるけれど、エスコートは無しなのですか?」
あ、あれ?良く分からなくなってきた!
「えっと、えっと、よく分からなくなってしまったのですが、ボクはお兄さまが大好きですので、ずっとお兄さまと一緒がいいです!
お兄さまのエスコートとか婚約者代理とか、ボクにとってはご褒美でしかありませんし、大歓迎です!
なんならお兄さまがいて下さるのならば婚約者とかいりませんし!
お兄さまがしてくださることは何でも嬉しいですし、お兄さまのお願いなら何でも叶えたいと願っております!」
一生懸命訴えれば、固まったままのお兄さまが今度はクツクツと笑い出した。
抱っこされているから、身体を振るわせて笑っているのが伝わってくる。
「お兄さま?ボク、何かおかしなことを言いましたでしょうか?」
「ふ……ふふっ…!い、いや。クリスは素晴らしい答えをくれた。何よりも嬉しい答えをね。
ただ……思っていた以上の答えを貰えたものだから。……ふは!クリスはいつも私の想像を超えて来る。
さすが私のクリスだ!」
「?そうですか?お兄さまがよいのならば良かったです!」
「ああ、とてもいい。未来に希望を持ったのは初めてだ。……ふふふ。
クリスは私がいれば婚約者などいらぬのか?」
「それはそうでしょう!だってお兄さま以上に素晴らしい方なんていませんもの!」
当たり前でしょ、と胸を張って見せれば「そうか」と幸せそうに微笑むお兄さま。
余りに尊いその笑顔に、ここにいるのがボクだけで良かった、と心底思った。
だって、こんなに素晴らしい笑顔を独り占めできるなんて最高でしょう?
「……クリス?」
「…………」
「クリス?どうした?」
あああ!
「お兄さま、しばらくほおっておいてください!先ほどの笑顔を網膜に刻み付けておりますので!
ああ、どうしてカメラがないの?!スマホ!!お兄さまの笑顔、プライスレスです!
せめてボクに絵心があれば!!残したい、その笑顔!」
「…よくわからぬが、私の笑顔ならばクリスが共に居てくれる限りいくらでも見せてやるぞ?」
「います!絶対にお兄さまと一緒におりますので!!」
「約束できるか?」
「はい!お兄さまが許して下さる限り!ボクはお兄さまと一緒です!
ボク、頑張って飛び級しますね!お兄さまとご一緒できるよう、頑張ります!」
「……そういう意味ではないのだが……頑張りすぎぬようにな?クリスの身体の方が大事だ」
「はい!」
ああ、ボクの推し、優しすぎませんか?
こうしてお兄さま抱っこで戻ったボクに、みなさん呆れ顔。
「大丈夫かと心配していたのだが……なぜ二人ともそんなに嬉しそうなんだ?」
「それより、どうして抱っこなのかを聞いた方が……」
「しっ!突っ込んだら負けなやつじゃね?これ」
ケイオスくんはぎゅむっと眉を寄せております。
「…………クリス……」
同じ年のボクがあまりにも甘えん坊だから呆れてしまったのでしょうか?
「ケ、ケイオスくん?ボクが歩くよりもお兄さまの抱っこのほうが早いですし!お待たせしないようにと……っ!いつも抱っこなわけではありませんのでね?誤解しないでね?」
「いや、それにしちゃあ抱っこ慣れしてるだろ?」
「ウエインさま?!」
余計なことを!
「兄弟なのだから、抱っこくらいは良いだろう?普通だ」
お兄さまが清々しく言い切りました。さすがお兄さま!
「ですです!普通です!兄弟ですので!」




