不穏です4
ボクはここで「はいっ」と手を挙げた。
「どうした?クリス」
「えっと、あの、その……。
公爵家の子であり今日の主役であるボクに、招待客の、伯爵家の息子が手を上げた。これって不敬ですよね?
皆さんも見ておられましたし、処罰の対象となると思うのです」
ボクにそうはっきりと指摘され、親子の顔色がみるみる悪くなった。
公爵家の身内だと偉ぶってはいても、伯爵家は伯爵家。ここまで人の目のある中では誤魔化しようもない失態だ。
唯一の例外は「公爵家がそれを許すこと」。
伯爵はボクを子供だと侮っていた。
まさか「不敬」を指摘されるとは思ってもみなかったのだろう。
お兄さまもいらっしゃるのにね?
ボクが指摘しなくてもお兄さまがされたでしょうに。
すかさずアイクさまがこう自己申告してくださった。
「私も見ていたぞ?最初から全部な。
必要ならば私も証言しよう。宰相の息子であるイクシスと、騎士団長の息子ウエインもいるぞ?
クリスが望むのならば父上に進言しよう」
ナイスです、アイクさま!
この人ってばピンク頭と絡むまえは普通に優秀だったのですね。うん。お友達コースを選んで良かった!
アイクさまによって「ケイオスくんに恩を売るチャンス」を頂いたボクは、いわゆる「エンジェルスマイル」を浮かべてケイオスくんに手を差し伸べた。
「ケイオスくん。ボクはケイオスくんを訴えるつもりはありません。
最初に言った通り、ケイオスくんとは仲良くなれたらなって思うんです。同じ年齢ですし。
お家とお家のつながりは関係なく、ボクとお友達になりませんか?
学園では飛び級する予定ですのでご一緒できませんが、一緒に遊んだりすることはできるでしょう?
でも、お兄さまとお父様に対する無礼だけは謝ってください。そうしたらボクはケイオスくんを許します。
ね?どうですか?」
冷静に見ればおかしいよね。
だって、自ら「不敬ですよ」ってわざわざ指摘したくせに、「許します」って、矛盾しているもの。
でも、そこはほら、ボクですから。
五歳の子供がにこにこと手を差し出せばだれもそんなことは気にしません。
ボクにあるのはゲームの知識とこの「可愛らしさ」だけ。
お兄さまとボクの明るい未来のために、使えるものは遠慮なく使いますよ!
ボクはあのピンク頭の必殺技「胸の前で手を組み、うるうるとした目で見つめる」をやってみました。
「大好きなお兄さまとお父さまに関することだけは譲れないのです。ボクのことはかまいません。
だから、どうかお二人に対する謝罪を」
ちなみにお兄さま、不満そうな顔をしながらも、黙ってボクのやることを見守ってくれております。さすがお兄さま!
主人公が大勢を虜にした技なだけあります。なんと五歳児が使っても効果ありでした!
ケイオスくんは真っ赤になって、目をウロウロ。
下を向き、上を向き。
ようやく絞り出すようにしてこう口にしてくれました。
「…………叔父上とジルベスター…さまに、大変失礼なことを申しました。心より謝罪致します。
それに………クリストファー。…………すまなかった」
はい!よくできましたー!
その横で悔しそうに唇噛みしめている伯爵とは違って、ケイオスくんは更生の余地がありそうです。
ボクの味方になって頂きましょう。決定!
ボクはニコニコとこれは心からの笑みをうかべ、ケイオスくんの前にしゃがんだ。
「はい。受け入れます。
ケイオスくん、謝ってくれてありがとう。ボクのことはクリスでいいです。仲良くしてくださいね?」
うな垂れる赤い髪をそっと撫でてあげれば、顔をあげたケイオスくんが嬉しそうに破顔した。
「!!あ、ああ!仲良くする!い、いや、仲良くしてくれ!」
ギュッと手を握られぶんぶんと激しくシェイクハンド。
こうしてみると大型犬みたい。なんだか可愛く思えてきました。
なんとなあく見守っていたギャラリーから拍手がおこります。
その中には微笑みを浮かべたお父さまとお母さまの姿も。口パクで「よくやった」ですって。
えへへ。照れてしまいます。
恥かしくなってちょっと照れ笑いを浮かべれば「なんともお可愛らしいご子息ですわねえ」「とてもお優しく聡明なお子さんでお幸せですわね」「公爵家の二人目の天使ですな」などという声が聞こえた。
今のボクはお腹の黒いボクなのですけれどね。いうなれば……悪魔?




