不穏です3
ぶたれるっ!
とっさにぎゅうっと目をつぶったけれど、パシッと音がしたのに衝撃が来ません。
恐る恐る目をあければ……
ものすごく怖い顔のお兄さまが、ケイオスくんの手を掴んでおりました。
「……何をしようとしたのかな?」
子供の口から発せられたとは思えない低い低い声。
声に含まれる威圧にケイオスくんの身体がブルブルと震えだした。
「……っこ、こいつが……っこいつが……っ伯爵家のくせにボクを馬鹿にしたから……っ!!」
お兄さまはギリギリと音がするほどの強さでケイオスくんの手を掴み上げ、そのまま上に持ち上げた。
徐々にケイオスくんの脚が床から離れていく。
「ひいっ!は、離せええっ!」
ぱっ。
急に手を離されたケイオスくんは、そのままドスンと床に尻もちをついた。
「ケイオスっ!大丈夫か?!
おい!貴様、息子に何を……
言いかけた伯爵ですが、抗議しようとして見上げたところにあったお兄さまのすさまじい表情に気圧され、思わず言葉を飲み込んだ。
「……伯爵家のくせに?
クリスはもう公爵家の子供だ。公爵家の次男としての5歳のお披露目に参加したというのに、ケイオスはそれすら理解できていないのか?
それに、仮に入籍前だったとしても、クリスはもともと伯爵家の嫡男。お前とは同格のはずだが?
貴族の序列というものを学び直したほうがいい。恥をかくのはお前だぞ?」
反論したのは、伯爵ではなく痛む腕を押さえたケイオスくんの方だった。
「俺は伯爵家といっても、本来なら公爵家だったんだ!父上は公爵家の生まれなのだからな。公爵家を継ぐ権利がある!単なる伯爵とは違うんだぞっ!」
訳の分からない理論だけれど、心からそう信じているのでしょう。
つまりは彼の両親がそれを信じているから。
氷の令息の名にふさわしい氷点下の視線が伯爵に向けられた。
視線だけで凍り付きそうです!
その視線の延長線上にいる貴族やアレクさまたちまで、関係ないというのに「ひえっ」と身をすくませました。
とんだとばっちりですね。申し訳ない。
「……もう一度言いましょう。貴族の序列を学び直せ」
そして伯爵にも軽蔑の眼差しと共にこう言ったのでした。
「彼にそう教え込んだのはあなたですよね?あなたも序列を学び直す方がいい。もうよいお年なのですから、そろそろ自分の立ち位置というものを理解してください。
公爵家を継いだのは父上であり、あなたではない。あなたは伯爵。それ以上でも以下でもない。
世迷い事をこれ以上聞くつもりはありません。下らぬ持論で私のクリスの耳を汚すのはやめてください。
いいですね?……次はありませんよ?」
言い捨てると、彼らには興味を失ったかのようにボクに優しい目を向けるお兄さま。
「クリス?大丈夫だったか?驚いただろう。すまなかったな、怖い思いをさせた」
そっと頬に手を当て心配げにボクを覗き込むお兄さまの表情からは、先ほどの怖いお顔は露ほども想像できません。
とっても優しいいつものお兄さまのお顔です。
ボクはにっこりとほほ笑んでお兄さまに抱き着いた。
「大丈夫です!ボクの最高のお兄さまが護ってくださいましたから!
とってもカッコよかったです!
でも、ボクがお兄さまを護りたかったのに、逆に護られてしまいました。悔しいです……」
「ふふふ。クリスはしっかり私を護ってくれたよ?とても立派だった」
「!ほんとですか?ボク、カッコよかったですか?」
「ああ。とてもカッコよかったぞ?私のクリスは可愛らしいだけでなくとてもカッコいいのだな」
「えへへ!うれしいです!」
お兄さまになでなでされていたら、急に思い出した。
ああ!ケイオスくんって、あの赤髪!
伯爵家嫡男とかいう乱暴者で、主人公に一番にメロメロにされちゃう、通称「赤髪ちょろ男」だ!
何故かジルベスター様に異常に絡むんだよね。赤髪。
そうか、従兄弟だったのですね!
元々ライバル視していたから、あんなにも絡んできたのか。納得!
てことは、ケイオスくんもピンク頭側になるってこと?
今のうちに伏線をもいでおかなきゃ!
こっちを裏切れないようにしておきましょう!
って、こんなに怯えてるんじゃあもう遅いかなあ?




