不穏です2
暗に「縁を結ぶ気はありません。あなたはもっと立場をわきまえてね?」したボクに、まさかここまで言い返されるとは思っていなかっただろう伯爵が一瞬言葉を失う。
が、すぐにカァッと赤くなった。ボクが言った言葉の意味をようやく理解したようす。
激高した伯爵は何か言い返そうとしましたが、ここで自分が周りの注目を集めていることに気付きハッとしたように言葉を飲み込みました。悔しそうにぎりりと唇を噛んで耐えております。
ですよねー。五歳の子供相手に本気で言い争うなんて、恥の上塗りでしかないもの。
ちなみにボクの声はよく通るまだ声変わり前のボーイソプラノなのです。
しかもあえて声をはってハッキリと発音したから、周りの人にも興味津々でこちらに注視していたというわけ。
ほら、向こうでアイクさまが口元を押さえ笑いを堪えているのが見えます。お隣でイクシスさまは信じられないといったお顔で茫然とし、ウエインさまは……ちょこっと涙目?え?ウエインさま、なんで泣いてるのですか?
いずれにせよクレイグ伯爵の立場はこれで明確になりました。悪い方に、ね。
「お父さまとお兄さまの意向でボクは伯爵とは距離を置きます」というボクの発言は、つまり「クライス公爵家はクレイグ伯爵家と親しくするつもりはありません」って公言したのと同様の意味をもつ。
クライス公爵家は、言うまでもありませんが、王国でもほぼ最高位に近い立場なのです。その家が仮にも親族であるクレイグ伯爵家を「明確に拒絶した」。それを知った他のお家はどう動くでしょうね?
これはもちろん、お兄さまがはっきりと「気を付けるべき相手」「敵だ」と仰っていたからこそできたこと。
そうでなければボクだってもっと言葉を選びます。ほんとですよ?
このことで後で伯爵に苦情を言われても、関係ありません。だってボク、お披露目したばかりの五歳の子供ですし。そもそもボクのお披露目会に招待されながら、その主役であるボクに会った早々酷い言葉をぶつけたのがことの発端。伯爵の良識を疑われるだけです。
やりすぎでしょうか?
しかたありません。だってボク、怒っているのですから。
お兄さまのおっしゃったことを「冗談」呼ばわりしたあげく、お兄さまとお父さまをまるで「飽きっぽい人」みたいな言い方で貶めたのですよ?
お兄さまたちを軽んじるなんて、許せませんから!
「伯爵?ご理解頂けましたでしょうか?」
ニコニコと貴族の笑顔を張り付けて伯爵に対峙するボク。
そんなボクの肩を、お兄さまが「よくやった」とポンポンと撫でた。そして小さな声で「クリス、立派だぞ。誇りに思う」と褒めてくださいました。
やったあ!
お兄さまの「ヨシ」が出たので次はケイオスくん。
唖然と口を開けているケイオスくんにも微笑みかけた。
「えっと、ケイオスくんとお呼びしても?
ボクはクリストファーです。クリスとお呼びください。
公爵家に取り入るだとか、追い出されるだとか、仰っておりましたが、いったいなんのことでしょう?
まさか、お父さまとお兄さまがボク程度の子供に簡単に騙されるような人間だとでも?
まさかお父さまが、神に共に歩むと誓った相手を簡単に裏切るような人間だとでも?
そんなはずありませんよね?いったいどうしてそんなとんでもない勘違いをされたのですか?
《《誰かに何か嘘を吹き込まれた》》のでしょうか?
ボクたちはまだ子供ですが、発言には気を付けたほうがいいのではないでしょうか? 」
と、ここまではお兄さまたちへの発言への苦言として、ここからはボクについて。
「でも、勘違いがあったとはいえ、ボクを気にかけて言ってくださったんですよね?
ありがとうございます。
ケイオスくんとは《《親戚とかは関係なく、普通に》》お友達になれたら嬉しいです。
でも、残念ですが、学園ではお会いできないかもしれません。
ボク、飛び級する予定なんです。家庭教師の先生にも入学の段階で二年は飛び級が可能だろうとお墨付きを頂いたので。できればお兄さまと同じ学年を目指しているのですが……さすがに三年飛び級というのは例がないそうで……」
話をしているうちにみるみるケイオスくんの顔色が悪くなっていった。
きっとボクのことをこの見た目から「大人しい子供だ」と思って侮っていたのでしょう。
でも、一応前世の記憶が一部ありますし、ゲームを周回しておりますので、貴族のこういう言い回しだってたくさん学んでいるのです。スピンオフの小説まで読みましたからね!
本当はもっとオブラートとか薄紙に包んでお話したほうがよかったのでしょうが、お兄さまへの無礼な態度についぼこぼこのぼこにしてしまいました。
お二人とも、大丈夫ですか?
せめて開いたお口くらい閉じたほうが良いと思います。とってもお間抜けに見えてしまいますので……。
ボクは武士の情け、いや、貴族の情けでトコトコとケイオスくんに近づき、お口をパコンと閉じてさしあげました。
ハッと意識を取り戻したケイオスくんが、かああっと首まで赤くなる。
「お、お、お、おまえ!おまえっ! 生意気だぞっ! 」
ボクの手をバシッと叩き、そのままもう一度手を振り上げた。




