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こんにちは!クリスです!

これからずっと住むのなら、きちんと聞いておこう。

伯爵家では使用人さんと親しくすることが許されていたんだけれど、家格が上の公爵家ではダメなのかもしれない。

だけど「場を弁えて、理解した上で」ならどうなのかな?

人前ではちゃんと致しますので。だから……


ボクは、思い切って聞いてみた。


「ボクはまだ子供でしょう?

ボクは伯爵でも公爵でもありません。たまたまその息子に生まれただけなんです。

ですから、大人の方や仲良くなりたい方には丁寧に接したいと思います。

そうすると、公爵家としてふさわしくない行いだったりいたしますか?

貴族は使用人に敬語は使わないということは知っております。お外ではきちんといたします。

ですから、家族だけの場では許していただけませんか?」


きちんと綺麗で丁寧な言葉で頑張って伝えた。

するとお母さまがこう言ってボクを援護してくれた。


「ごめんなさいね、ジェームズ。こういう子なの。

公爵様さえ良ければ、この子の気のすむようにさせてやりたいのだけれど……」


ジェームズの目が少しだけ見開かれる。

そして「ふうむ」と顎に手を当てて、少し考え、にっこりした。


「失礼いたしました。

貴族としての話し方を知っていらっしゃる上で、ご自分のご意志で《《あえて》》丁寧に接してくださったのですね。

ありがとうございます。そのお心遣い、このジェームズ確かに受け取りました」


ボクの前にしゃがんでボクと目線を合わせてくれるジェームズさんは、ウインクしてこう言ってくれた。


「そうですね……では、この公爵家では、クリス様の良いようになさってください。皆も喜ぶと思いますよ?

公爵様にはわたくしから報告させて頂く、ということでよろしいですか?」


わあ!本当に?


「うん!ありがとう、ジェームズさん!」


「どういたしまして」



立ち上がったジェームズさんが、ボクたちに先立って扉を開けてくれる。


「では、中にご案内いたしましょう。ご主人様がお待ちです」


いよいよ公爵様と初対面だ!お母さまはお二人のこと「怖いお顔なの」っていっていたけれど、いったいどんな方なんだろう?

公爵様たちの本当の気持ち、ボクは見つけることができるのかな?


ちょっと入るのを躊躇してしまったボクを安心させるように、お母さまがそっとボクの背に触れる。


「入りましょうか、クリス?」

「うん」


とたん目に飛び込んできたものに、ボクはアングリ口をあけた。


なんと、玄関ホールが3階までの吹き抜けになっていたのです!

天井がすっごく高い!

しかも遠すぎてよく見えないけれど、どうやら細かなレリーフが描かれてるっぽい。

正面にある二階に続く階段も、幅が3メートルくらいありそうなの。

とにかく、なにもかもが大きい!


「……………ふわあああ……」


ここ、ダンスホールじゃないよね?玄関だよね?


無意識にぎゅっと上着の胸元を握りしめてしまっていたらしい。

お母さまの手がそっとボクの指に触れ


「皺になってしまうわよ?」


と服の代わりにお母さまの手を握らせてくれた。




と、2階の踊り場に碧い影が。

ゆっくりとボクたちのほうに降りて来る。


「クライス公爵様です」


ジェームズさんが深々と腰を折る。


「ご主人さま、クリスティーナ様とクリトファー様がご到着なさいました」


お母さまがカーテシーをしたので、ボクも慌てて片足を下げて膝を曲げ、きちんとした礼を取る。


「クライス公爵家当主、セブラン・クライスだ。

良く来てくれた。

さあ、顔を上げて楽にしてくれ」


ちょっと緊張したような、硬質な声音。

でも一生懸命に優しく話しかけてくれようとしているみたい。


「ありがとうございます、公爵様」

「失礼いたします」


恐る恐る顔を上げたボクの目に飛び込んできたのは……

銀の髪の美しい男の人。

お母さまよりも5つ年上って聞いたから30歳のはずなんだけれど……そのお顔には皺ひとつなく、とても若々しい。

まるで神様が作った彫像のように整った容貌は、ともすれば冷たそうに見える。

でもよく見ると、灰色に近いブルーグレイの瞳の奥には確かにボクに対する気遣いがあった。

しかも、わざわざ礼装を身に纏ってくれている。ボクたちを迎えるために着替えて下さったんですね?


目が合ったから「にこっ」としてみたら、狼狽えたように一瞬手をぎゅっとして、かすかに目じりと口元が緩んだ。


うん。ボクこの人が好きかも。

お母さまがいう通り。表情に出にくいけれど、よく見たらちゃんと分かりました。


楽にしていいって言ってくださったから、普通のご挨拶でいいのかな?


「お初にお目にかかります!クリストファーです!お会いできて嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたします!」


ペコリ!

顔を上げてまた公爵さまを見上げたら、

嬉しいような困ったようなお顔で「うむ!」

口元がピクピクしてるから、これはきっと笑顔だ!


「……君の母上からは、とても良い子だと聞いている。私も君に会えて嬉しい」


本当に?やったあ!!


えへへへへ。

嬉しくなって横に立つお母さまのお腹にぐりぐりとお顔をこすりつけた。


「まあまあ。甘えん坊ねえ」


お母さま、ボク、公爵さまと仲良くなれそうだよ!

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