お披露目の日のために
あれからボクは、お兄さまにご協力頂いただいて挨拶の言葉を考え、必死に練習した。
そして、一人の時にはブリードさんに確認してもらいながら筋トレを頑張った。
なぜ筋トレなのかって?
お披露目会では、公爵家の、お兄さまの弟としてふさわしい「美しい所作」をご披露したい。もちろんいわゆる「ボウ・アンド・スクレープ」も完璧に!
ところが、知ってる?この貴族のお辞儀、美しくしようと思うとすっごく筋肉を使うの!
まず、お兄さまのようにスラリと立つには、全身に神経を研ぎ澄ませなければなりません。
本人は背筋をまっすぐにしているつもりでも、後ろに反っていたりお腹を突き出す形になってしまったりしがちなの。
かといって意識しすぎると肩が張ったり身体が強張ったりしてしまう。
「きちんと美しく立つ」には背筋と胸筋、腹筋に力を入れ、かつ程よく肩の力を抜くことが大事なのです。
もうわかった?
そう!美しく立ちたいと思うだけでも、腹筋、背筋、胸筋が必要なの!
鍛えすぎてはダメ。優雅さが失われてしまう。
かといって、ぷよぷよなんてもってのほか!
絶妙に鍛えて、かつ、それを当たり前に使えるように身体に覚え込ませなければならないのです!
お勉強は先生に太鼓判を頂きましたし、体術に関しては……今後ののびしろに期待。
マナーについても、とりあえずお披露目に必要なマナーは必死で覚え込んでいるところ。
お父さまたちにお願いして、お食事の時にもボクのマナーにおかしなところがないかチェックして頂いている。
そういう座学ではどうしようもないのが、筋肉なの!
子供の間は、ペコリと頭を下げるお辞儀で大丈夫。
でも、お披露目からは正式な場では貴族のお辞儀が求められる。
もちろんまだ子供だから形だけでもできていれば御愛想は言って頂けるのでしょうが、ボクはそれでは嫌なのです。
お母さまとボクの家格は、もともとは伯爵家。
高位貴族は、王様の弟殿下の大公家、公爵家の2家(このクライス家と、あとは宰相様のおうちです)、侯爵家の3家(ひとつは騎士団長のおうちです)、辺境伯、そして伯爵家の5家、以下子爵家、男爵家と続く。男爵には、一代限りの準男爵などもあるから、下に行けばいくほど多くなるイメージ。
伯爵家は順番では真ん中以下なのだけれど、貴族の爵位の割合がピラミッド型で下になるほど多くなることもあって、一応高位貴族に含まれる。だから公爵家と縁付くのもよくあることなのです。
でも、お母さまの場合は再婚で、しかも「息子」がいる。
連れ子が「ご令嬢」の場合は問題はないのだけれど、息子の場合は後継争いに関わるというので、敬遠されがち。
実家に残して実家を継がせるということが多いのだ。
ボクの場合も、本来なら伯爵家に残って叔父さまの養子となり、伯爵家を継ぐというのが一般的。
サイモン叔父さまと仲が悪いというのならまだしも、仲良しだしね。
なのにお母さまはそれを良しとしなかった。
ボクには言わなかったけれど、たぶん、叔父さまがボクに気を遣って結婚しないと分かっていたからだと思う。
叔父さまはとてもハンサム。強くて優しくてユーモアもあって、最高に素敵なので。
だからもちろんモテモテでたくさんの人から結婚のお申し込みも届いていたの。
でも、実のお父さまが亡くなった伯爵家の「当主代理」という立場になってボクたちを支えるため、叔父さまは伯爵家に来てくださった。将来はボクに継がせ、ご自分はそれまでの「つなぎ」となるつもりで。
でも、そうすると叔父さまが結婚したとき、叔父さまのご家族は微妙な立場になってしまう。
叔父さまに子供が生まれたらボクはすっごく可愛がったと思うのだけれど、その子からしてみれば複雑な気持ちになると思うのです。
だからお母様はボクを連れて再婚することを望んでいたの。
そういう事情だったから、公爵様と「息子を連れて」再婚できるというのはお母さまにとっては願ってもないことだったの。
ボクも叔父さまと離れるのはとてもつらかったのだけれど、冷静になって「ボクの気持ち」ではなくて「サイモン叔父さまのこれから」を考えたらそのことがとてもよく理解できた。
だけどこういった事情は全部「ボクとお母さまの事情」
公爵家には関係のないこと。でしょう?
クライス公爵家は建国にまでさかのぼる由緒正しいお家柄。広大な領地を有し農業も盛ん。さらにその領地の一部には鉱山も含まれ、それを利用とした工芸品を輸出し、莫大な利益を得ている。つまりは王国の中でもトップを誇る資産を有している。
だからこそ、そこに息子であるボクを連れて入ったお母さまのことを「格上の公爵家の乗っ取り」だとか「図々しい」だとか言う人もいる。それは仕方のないことなのだ。
お父さまが「結婚のお披露目とクリスの5歳のお披露目を一緒に」というのは、この微妙なボクの立場に配慮して下さってのことだと思うのです。
ならばボクにできるのは、ボクたちに悪意を向ける人に付け入る隙を与えないこと。
完璧な所作、マナーで対応し「公爵家にふさわしい品格を有している」のだと認めて頂くこと。
もちろん攻略対象の3馬鹿アイウを味方にする必要もあるけれどね。
そのためにはボクが彼らに好かれなくては!
要するに、やることが山積みなのです。
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