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新しい家族

公爵家は、伯爵家から馬車で2時間半くらいのところだった。


王都に屋敷を持つのは基本的に高位貴族。

高位貴族になればなるほど、王都での社交があるから、領地の邸、いわゆるカントリーハウスとは別に王都にタウンハウスを持っていることが多い。

夫人や子供はカントリーハウスに、当主はタウンハウスにという貴族もいれば、カントリーハウスに領主代理を置いて一家全員タウンハウスに、という貴族もいる。

そのタウンハウスなんだけれど、そもそも王都には人口の割に土地が少ないから、カントリーハウスほどの大きさじゃないのが一般的なのだ。


ちなみに、ボクのおうちだった伯爵家は、王都から3時間くらい。

通えない距離じゃないけれど、毎日往復するのは大変、そんな微妙な距離。

なので実のお父様はほとんど邸にいなかったのです。



で、クライス公爵邸ですが……タウンハウスなのにすんごくおっきい!

なんと、門には門衛さんが二人も!

門から続くお屋敷までのアプローチもすごい。森みたいなのが続いていて、向こうがみえないんだもん!


まだ貴族教育は少しのボクだって、これくらいのことはわかる。

タウンハウスの大きさはそのまんま貴族の力を示すから、つまりこれは公爵様がすっごおく力のある貴族だということ!

「そりゃあ伯爵家に来て」なんて無理だよね、って妙に納得しちゃった。



門を守っている門衛さんも、なんだかとてもビシッとしている。

ボクたちが公爵家の馬車に乗っていたからか「ようこそおいで下さいました!」と敬礼してくれた!

色々聞かれることもなくそのまま通してくれたから、ボクは横を通りすぎちゃう前に、慌てて頭を下げてご挨拶した。


「ボク、これからお世話になりますので。よろしくお願いします!」


馬車の中からだったけれど、ちゃんと見えたみたい。

後ろの窓からバイバイって手を振ってみたら、振り返してくれたの。

優しそうな門衛さんで良かった!





門から続くアプローチは、本当にちょっとした森だった。

小さな池とかもあって「ここ、王都だよね⁈」ってなった。


森の中を5分ほど馬車で走ったら、ようやく広々と開いたスペースが。

馬車留めのあるエントランスだ。

中央に噴水と花壇があり、そこを回り込むようにして玄関に向かう。


「お待たせしました。到着致しました」


重力なんてないみたいに軽やかに馬車が停まり、御者さんが素早く台を置いてボクを馬車から下ろしてくれる。


「ありがとうございます」


とお礼を言ったら、「どういたしまして」とほほ笑んでくれた。

御者さんとも仲良くなれそう。良かったあ!





「ふ、ふわああああ!」


改めてお屋敷を見ると……すっごおく大きい!

建ってるというより、聳え(そびえ)ているという言葉の方がしっくりくる。

3、4、5…5階建て⁈

思わずボクはお母さまの服の裾を掴んだ。


「お、お母さま!ボク、ほんとにこのおうちの子になるの⁈大丈夫⁈」


お母さまはぶるぶるするボクを見て「あらあら!」と笑う。


「お母様も最初は驚いたわ。でもね、クリスならすぐに慣れるわ。大丈夫。

敷地内だから安心してお池で釣りをしたり、森をお散歩したりできるのよ?

どう?楽しそうでしょう?」


それは楽しそうだけれど!

でも、領地じゃなくてタウンハウスなのに敷地に森があるんだよ⁈

しかもお城みたいなお屋敷!

なんか「お母さまのオマケ」なボクが居てもいいのかなあ。


「やっぱり、ボク、叔父さまと…」


言いかけたところで、玄関前に立っていた50歳くらいの灰色の髪の男の人がこちらにやって来た。


この人が公爵様?


と思ったら、違ったみたいだ。

その人はボクたちの手前まで来るとピタリと足を止め、胸元に片手を当て90度に腰を折った。


「奥様、おぼっちゃま、ようこそ公爵邸へ!

クリストファー様でいらっしゃいますね。

わたくしはクライス公爵家で家令を務めさせて頂いております、ジェームズと申します。

お目にかかれて光栄です」


どうやら公爵様ではなく家令さんだったみたい。

柔らかな物腰だけれど、一つ一つの動きが流れるように美しい。

とっても仕事ができそうな人だ。


「ありがとう。どうかお顔を上げてちょうだい?」


お母さまが促してようやく顔を上げてくれた。

なのでボクはジェームズの目をしっかり見つめながらご挨拶できた。


「ボクはクリストファー。クリスと呼んでください。どうぞよろしくお願いします!」


そうしたら、「私は使用人でございますから、敬語を使わなくてよろしいのですよ?どうか楽になさってください」って優しく注意されてしまった。


高位貴族はそういうものなのかもしれない。

だけど、ボクはまだ子供だから丁寧に話したいの。

そういうのってダメなのかなあ?



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