クリスくんの独白
本当のところ、お兄さまと出会う前のボクは、何も考えずに楽しく幸せに毎日を過ごしていた。
本当のお父さまが亡くなったことで「可哀想な子」と言われることもあったのだけれど、実際のボクはサイラス叔父様やお母さま、優しい使用人さんたちに囲まれて幸せだったし、満たされていたのです。
お友達にお兄さまがいるのを羨ましいとは思っていたのだけれど、それはお兄さまやお姉さまのいない子はみんなそうでしょう?
それが変わったのは、お母さまの結婚が決まってから。
お母さまとお義父さまとでご縁ができて、それをきっかけにボクはお兄さまと出会うことができた。
そして前世の記憶を取り戻して、お兄さまが大好きになったのです。
それまでのボクは与えられたものをただ受け入れて幸せに浸っていただけ。
ある意味、受動的なもので満足していたのですけれど、でもお兄さまと出会ったときから、ボクは変わったのです。
どういったらいいのかな。
ボクの全ての細胞が満たされた気がしたの。
大好きで、嬉しくて。その人にはいつも笑っていて欲しくて。
「ボクが護らなきゃ」って思った。
ボクは生まれて初めて「運命」だとか「使命」というものを信じた。
この出会いも、前世のボクすら全てこのためにあったのかも。
前世ですべての気力ややる気を失っていたボクに生きる希望を与えてくれた推し、ジルベスターさま。
そんなジルベスターさまが悲しむ未来なんて、見たくない。そんな未来はボクが許しません。
そう、きっと、お兄さまを断罪させないためにボクはここに導かれた。
主人公がお兄さまを貶めるのなら、ボクがそうならぬよう別ルートを開けばいいのです。
王子さまがジルベスターさまをいじめるのなら、ボクがお兄さまを護ります!
だって、お兄さまへの愛なら誰にも負けない自信がありますから!
あのゲームではボクとお兄さまの縁は薄かった。
でも、今は違う。
ボクはお兄さまが大好きですし、お兄さまもボクを大切にしてくださっている。
それに、お兄さまがピクニックに誘ってくださったことがきっかけで、ゲームに無いはずの伝説の存在、ブリードさん、アクア、グエンという頼もしい仲間までできました。
これってとてもすごいことですよね?
なんだか「冒険者が旅をしながら仲間を増やしていき、最終的にみんなで協力して魔王をやっつける」という物語のよう。
もう元の乙女ゲームとは違うルートが開いているということじゃないのかな?
そうだとすれば、この後もゲームとは違う展開が待っているのかもしれません。
そもそも、もう今のお兄さまなら断罪ルートには入らずにすむのでは?
それともまさか「主人公の中の人が転生者と入れ替わっている」というラノベ設定なのかなあ?
ゲームと同じ展開なら、ボクが前世記憶チートでなんとかできるのだけれど、もし転生主人公なら、お兄さまの表情筋が元気になっても無理やりに断罪ルートに引きずられるパターン!
まだまだ何があるか分からない。油断しちゃダメです。
ああ。ミノくんがここにいたら相談できるのに!
でも前世のボクの相方ミノくんはここにはいない。
だからボクは何があってもお兄さまをお護りできるように、ボクの力を伸ばしておきます!
これまで以上に頑張って、強くなってムキムキになって賢くならねばなりません!
幸いたくさんの知恵と知識を持っているブリードさんがボクの先生になって色々教えて下さるそうです。
飛び級をしてお兄さまとなんとか同じ学校に通うつもりなのですが、家庭教師の先生はお時間が過ぎれば帰ってしまう。
ブリードさんが先生になって下されば、先生がいらっしゃらない時もお勉強できますね!
「これからのボクはブリード先生によって一味違うNEWクリスになります!
待っていてください、お兄さま!」
黙って考え込んでいたと思ったらいきなり決意表明をしたボクに、お兄さまが目を丸くした。
「いきなりどうしたのだ?クリス。NEWクリス?クリスは今のままでも十分可愛いが、味が違うのか?味は……」
不思議そうに首をひねると後ろから身をかがめ、ペロッ。
「……この味で良いと思うが?」
ど、ど、ど、どんな味ですか?!
てゆうか、ボクの頬を舐めました?ペロッて!舐めたのですかっ?
ボクちょこっと汗をかいていたのですが、しょっぱくありませんでしたか?
そもそもキレイじゃないので、せめてお風呂に入った後で………!!
頭の中でぐるぐるしながら、ボクは真っ赤になったお顔で俯いた。
「……そ、その味ではありません……。えっと、お勉強をしてもっと…賢くカッコよく強くなります、という意味なのです」
「?そうなのか?クリスはもう十分賢いと思うが……。クリスがそうしたいのであれば応援しよう。私もクリスに負けぬよう精進せねばな?」
推しの笑顔、尊さ200%です!
「……………」
ブ、ブリードさん?どうしました?
ただでさえ小さなお目目が更に細くなっておりますよ?
「いや……なんというか…………お主もなかなか難儀よのう……。退屈せずにすみそうだ」




