一途なセルシオさんとボク
妖精さんのショックは大きかったみたいだけど、なんとかみなさん落ち着いて受け入れてくださいました。
一番最初に適応したのは、レインさん。
「私は祖父から伝承やら伝説やらを聞いて育ちましたからね。あちこちに同じような伝承や痕跡があるのです。過去にはそういう存在がいたのだろうとは思っておりましたよ。
とはいえ、まさか精霊や守神さまが現存していらしたとは思いませんでしたが……」
それなりの素養があったから、ということでしょうか?
「それよりも私は、クリス様はともかくジルベスター様まであっさりと受け入れたことに驚いております。現実主義だと思っておりましたので」
「?何故だ?実際に目の前に存在し、会話もできるのだぞ?否定する意味がわからぬ」
「現実主義だからこそ、あるがままを受け入れたということなのですね。さすがお兄さまです!」
「ところで、レイン。『クリスはともかく』とはどういう意味だ?」
ジロリとレインさんを睨むお兄さま。
あ、それボクも思いました。
「えー?それ聞かれます?
……いや、クリスさまはまるで生まれたての赤子のように《《無邪気でいらっしゃる》》から、精霊でも神様でも、魔法でも、そのまま受け入れてしまわれるのではないかな、と。
あ、ちなみに霊などはそういう無垢なものに魅かれる傾向にあるのです」
つまり、世間知らずでなんでも信じちゃうから、チョロいから、とかそういうことをオブラートに包んで言っておるわけですね!
ちょっとムッとしたボクとは対照的に、お兄さまが俄然勢いづいた。
「うむ!それには完全に同意するぞ。
クリスはとても無邪気で無垢な存在なのだ。精霊や神が魅かれるもの当然」
うむうむ、と勝手に納得されております。
お兄さま、その発言は兄馬鹿が過ぎる気が致します……。さすがのレインさんもひいてしまうのでは?
「いえ、そういう意味じゃあ……い、いえ!そういう意味です!もちろん!」
レインさんはとても空気の読める人でした。
ちょっとボク、レインさんを見る目が変わってしまいそうです。
と、レインさんがお兄さまをとても優しい眼差しで見つめた。
「…………ジルベスター様は変わられましたね」
「?」
不思議そうにこてりと首を傾げるお兄さま。とてもお可愛らしい。
「年齢に似合わぬ冷静沈着なお方だと思っておりましたが……。人間らしくなられました」
つまりは表情筋が活動をし始めたということですね。
良かったです。
お兄さまの未来を変えるには、お兄さまがみんなに冷酷だと誤解されぬよう固まった表情筋を動かすことも大事ですので。
でも、それもたったひと月もたたぬうちに達成できそう。
だって、ほら。
今も眉を下げて困ったようなお顔。
「それは……私も人間だからな。しかし、私はお前に褒められているのだろうか?それとも貶されているのか?」
「ふふふ。褒めております。今の方が私は好きですよ?クリス様のお陰ですね」
ボクですか?えへへ。だったら嬉しいです!
「はい!ボクはどんなお兄さまでも大好きなのですが、表情筋が活動するお兄さまは大変お可愛らしいと思います!」
「私の主人、人たらしがすぎませんか?私のことを軽薄というのならクリス様のほうが相当なのでは?」
セルシオさんがマーシャに愚痴っております。コソコソとお話ししているつもりなのでしょうが、聞こえておりますので!
それを耳ざとく(?)聞きつけたお兄さま。スノーの脚をとめ、厳しい表情でセルシオさんに向き直った。
「セルシオ、聞き捨てならぬな。私のクリスが軽薄だと?!素直で無邪気なこのクリスが?!」
8歳とはいえさすがお兄さま、素晴らしい覇気です!
セルシオさんは慌てて「降参です!」と片手をあげた。
「はいはい!失言でした!申し訳ございません!
クリス様はジルベスター様一筋ですもんね!一途ですよね、一途!
私と同じですね!」
「うむ。分かればよい。クリスが軽薄などあり得ぬ。クリスは私だけを想ってくれる私の宝なのだから」
ボクのこと「私の宝」だって仰られましたか?
なんてこと!なんというもったいないお言葉なのでしょう!
レインが小声で「え?クリス様への執着、すご!」と叫んだけれど、いいのです。問題ありません。大歓迎です!
セルシオと同じではありませんが、ボクにとってお兄さまだけが特別な存在なのですから!
とにもかくにも、みんなが妖精さんがいたのだということを信じて受け入れてくれました。
みんなには守神さまの声も聞こえず、妖精さんだって見えていなかったのに、さすが優秀な公爵家の護衛さんたち。
良かったあ!




