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セルシオさんの意外なおかお

アクアとグエンにさようならをすると、マーシャたちが焦ったように一斉にしゃべり出した。


「どういうことなのですか?クリス様、『妖精さん』とか仰っていましたよね?

私たちには何も見えなかったのですが」

「ああ、俺も聞いたぜ?」


マーシャは馬から落ちんばかりに興奮して、レインさんに慌ててガシっと抱き留められた。

ブリックさんはといえば頭を抱え込んでしまいました。


「守神さま、いや、ドラゴン?とかの次は妖精かよ!マジか……」



セルシオは「こんなことってあるんですねえ」と我を忘れたようにひたすら頷き続けているし、レインさんはマーシャを押さえながら「クリスさま、何か持っていませんか?不思議を引き寄せるようななにかを!そういう血筋かなにかですか?」と大興奮!


血筋?

えっと……確証はないのですが一応言っておいた方がいいのかな?


「ボクの生まれた伯爵家なのですが、本当なのか定かではありませんが、ご先祖様にサフィラスさまがいらしたというお話が残っております。でも、系図には載っていないので証明はできません。

ブリードさんいわく実在するとのことでしたので、もしかしたら本当なのかも?」


するとブリードさんの目がキラリと輝いた。


「伯爵?………するともしや………グリフィス家か?」


「ご存じなのですか?ボクはその分家筋にあたるのですが、ボクの住んでいたお家はもともとはグリフィス家の屋敷だったと聞いております。ボクの亡くなったお父さまは養子なので違いますが、代々お医者様をされていたそうですよ?」


「そうか、ゲイルの……」


ボクの知らない名前を呟くブリードさん。少し寂しそうなその響きからすると、遠い昔のお友達だったのかもしれません。


「うむ。クリス、お主は確かにサフィの血筋。なんと面白いものよ。

サフィに似た気配を感じておれば、やはりその血を引いていたのだな」


うわあ!繋がりました!

うちに伝わっていたお話、本当だった!

ボク、生まれ変わりではないけれど、そのお血筋なのですね。やったあ!

でもそれを言えば王族もサフィラス様の直系のお血筋ですよね?

そうすると、なにしろかなり昔のお方ですから、あちこちに傍系がいるのでは?

あの人も、その人もサフィラスさまの血をひいているのかもしれない。

そう思うととっても夢がある。ロマンです!


ひとりで勝手ににこにこしていると、ブリードさんが今度はじっとお兄さまのほうを見つめた。

そして、なにか納得したように「ふむふむ」と頷いている。


「ジルベスターよ。お主もかなり祖先の血が多く出ておるようだ。

お主とクリスは出会うべくして出会ったといえよう。クリスを大切にするのだぞ?」


かなり曖昧なブリードさんの言葉。

でもお兄さまは真面目な表情でしっかりと頷いた。


「はい。もとより、そのつもりです。父上の再婚という形で、私はクリスと縁を結ぶことができました。

その日より父上と義母上、そして神に感謝を欠かしたことはありません。

クリスと出会えたことは我が人生の僥倖だと思っております」


最後の言葉はボクのお顔を見つめながら。

いつもこうだから慣れてはきたのですが、お兄さまはもうすこし言葉を選んだ方がいいと思います。

兄弟として言ってくださっているのだと分かっているのに、それでもなんだかプロポーズみたいでドキドキしてしまいますもの。


真っ赤になったほっぺを押さえながら、ボクもお兄さまにしっかりと気持ちを伝える。


「ボクも、お兄さまと出会えて嬉しいです。運命というものがあるのなら、きっとボクはお兄さまと会うために生まれたのです!お兄さまを幸せにするためにボクはここにいるのですから!」




セルシオさんが小さな声で「まだお子様なのに熱烈ですねえ」と呟いた。

聞こえてますよ!


「大好きに子供も大人も関係ないのです。それに大好きは何回言ってもいいのですよ?

セルシオさんも大切な人にはきちんと気持ちを伝えるといいと思います。

あ!でも、セルシオさんは少しチャラ……こほん、軽い人に見えてしまいがちですので、伝える相手には気を付けたほうがいいのかも?」


「ブッフォ!……失礼!」


噴き出したソルトさんが慌てて明後日の方を向いて謝罪した。


「クリス様の仰るとおりです。ウルガを見習うといいかもしれませんね」

「そうですね。軽薄な態度を少し改めるように」


「うわ!酷くないですか?

クリス様も私のことを誤解されています!こう見えて一途なのですよ?」


本当かなあ?


「ジルベスター様やクリス様のような方をこそ一途というんだぜ?お前は違うだろ。言葉に重みがねえ」


ブリックさんがバッサリと切り捨てた。


「ブリック様!私は一途です!ずっとウルガ一筋なのですからっ!」


思わず叫ぶセルシオ。

言った後「しまった!」というお顔で慌ててお口を押さえている。


え?ウルガに?どうしてウルガ………はっ!も、もしや……!!


「セルシオさんはウルガさんがお好きなのですね!」


そうか!確かにウルガさんといる時のセルシオさんはなんだかイケメンが二割増しになっていたが気がします。

そうだったのですね、セルシオさんとウルガさんが……。

この世界は男性同士でも婚姻できますからね。

この場合は職場結婚、ということになるのでしょうか?幸せそうで何よりです。


ニコニコするボクに、セルシオさんが焦ったように叫ぶ。


「ち、違いますからっ!言葉のあやですっ!」


「お前もかわいいところがあるじゃねえか」

「うふふふ。ですよねえ。まさか、ウルガさんと……」

「安心しろ。ソルトには黙っていてやるから」


ブリックさん、マーシャ、ルナさんがニヤニヤしながらここぞとばかりにセルシオをからかう。

レインさんはと見れば、意外や意外笑い上戸のようで、マーシャに体重がかからないように横に身体をひねって笑い転げていた。


「………あんたら、覚えていてくださいよ……っ!!人の恋路を笑う奴は自分の恋路に泣くといいますからね!」


うんうん。

セルシオさんやレインさんの意外な一面を見て、なんだかみんな一気に仲良くなれたような気がします。


ブリードさんが肩の上でボクにこっそり「面白い仲間だのう」と囁いた。

ええ。とても良い方ばかりなのですよ!







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