お義父さまとお義兄さまの顔面は死んでいるらしい
お母様ってすごい!
お母様のお話で、胸のぎゅうっていうのが小さくなった。
寂しいけれど、叔父さまはボクのここでいつも一緒なんだ。
そう思ったら胸がぽかぽかした。
元気になったボクを見て、お母様がちょっと真面目なお顔に。
「あのね、クリス。お義父さまとお義兄さまについて、少しお話があるの。いい?」
「?どんなこと?」
「叔父様のお顔は笑ったり怒ったり困ったり、とっても忙しいお顔でしょう?」
「うん!」
ボクは一緒に悪戯して笑った叔父さまのお顔や、お母さまに怒られてしょんぼりした叔父さまのお顔を思い出して、クスクスと笑った。
「でもね、公爵家のお二人は、お顔を……そうねえ……あんまり動かせないの。
心は笑ったり泣いたり怒ったり喜んだりしていても、それがお顔に出ないの」
「ええ?どうして?」
「お義父様はとっても偉い人だってお話したでしょう?
公爵家というのは、とっても身分の高いお家なの。それでね、『思ったことをお顔に出してはいけません!』って育てられていたのよ。今はそんなことはないのだけれどね。
公爵様のお父様はとっても厳しいお方だったから、息子である公爵様と、孫であるお義兄様に気持ちをお顔に出すことを許さなかったの。
それで……頑張ってそうしているうちに、お顔が動かなくなってしまったのよ」
なんてこと!そんな酷い教育ってある?!
は!てゆーか、そこに行ったらボクもそうやって言われたりするのだろうか?
無理!絶対に無理!
「その公爵さまの意地悪なお父さまっていう人が、ボクの義理のおじいさまに……」
さああああ、っと顔から血の気が引くのが分かった。
みるみる顔が強張っていくボクを、お母さまが大慌てでフォロー。
「だ、大丈夫よ?その方は数年前に亡くなられているわ」
「よ、良かったああああ!」
ちょっと失礼かもだけれど、ほんとうに良かった!
だってそんな人と家族になんてなりたくないもん。
ほっと胸を撫で下ろしたボク。
お母さまは少し心配そうに話を続けた。
「あのね、これまで公爵様たちにあなたを会わせたことがなかったでしょう?
そのことをおかしいとは思わなかった?」
「うーん。ちょっと思った。
だけど、公爵さまは偉い人だっていってたから、お仕事が忙しいのかな、って思ってたの」
違ったのかな?もしかして、公爵さまがボクに会いたがらなかったとか?
「そうね。実は公爵様は何度もあなたに会おうとしてくださっていたの。
でもお母様がそれをお断りして、その代わりに結婚前に一緒に暮らす『お試し家族』をしたいとお願いしたのよ」
「ええ?どうして?」
「それはね、ありのままの二人を見て欲しかったからなの。とても誤解されやすい方だから…。
入籍をする前に、一緒に暮らす中で、あなたに二人の本当の気持ちを見てほしかったの。
そうしてあなたがお二人と仲良くなれそうだと思ってくれたのなら、入籍するわ。
公爵様もそれでいいと仰ったから。
一緒に暮らしてみて、それでもあなたが嫌だというのなら、結婚をやめてまた伯爵家に戻りましょう。
どう?」
まさかのお話にびっくりだ。
とにかく、公爵さまたちのお顔が動かないのは分かった。
意地悪なおじいさまのせいで可哀想に。
「えっと。
それって、ちょっと会っただけじゃ怖い人って誤解しちゃうかもだけれど、一緒にいたら優しいってわかるよ、っていみ?
『お会いしたとき怖い顔してても、ホントは優しいんだよ』ってことだよね?」
「そうね。そういうことね」
「大丈夫!ボク、いいとこ探し得意だし。
それにね、お母様を好きになってくれた方なんだもん。きっと二人を好きになるよ。
二人はボクのこと、好きになってくれるかなあ?」
そっちの方が問題じゃない?
ボクはお義兄さまができて嬉しいけれど、お義兄さまのほうは弟なんて欲しくなかったかもしれないしね。
そうしたら、残念だけど、お邪魔にだけはならないようにしよう。
お邪魔じゃなければ、嫌われるまではいかないと思うから。
眉を下げて考えるボク。
でも「あら、クリスなのよ?好きにならないわけないでしょ!」なんて当たり前のようにお母さまが言うもんだから、笑っちゃった。
お母さまってホントにボクのこと大好きだよねえ?
でもそう言われたら大丈夫な気がするから不思議。
たしかに、ボクって誰かに嫌われたことはない。
これはまだ、優しい人にしか会ったことないからかもしれないけれど。
一応、外見はかわいいってよく言われるし(金髪に碧眼だからか、天使みたいだってよく言われるの)、性格だって悪くはない……と思う。
だから、お義父さまとお兄さまも、ボクのことを好きになってくれたらいいな。
もしダメでも、なんとか好きになってもらえるように頑張るからね。任せて、お母さま!
ご拝読頂きありがとうございます♡
イイネやコメントなどのリアクションを頂ければとってもとっても嬉しいです!