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幸せな香り

………おはようございます、クリスです。

ええ。分かっております。酷い顔ですよね?

そうでしょうとも!


はい、ボク一睡もできませんでした!


だってお兄さま、一緒に眠ることには同意いたしましたが、まさか抱きしめられるだなんて!

当たり前のように「ほら、おいで?」とその胸に抱きしめられるだなんて思ってもみませんよ!







「慣れぬところでひとりは寂しいだろう?

クリスは叔父御にも使用人たちにも大層可愛がられていると聞いていた。

体調も優れぬというのに、愛する皆と離れた初日に母上とも離れ一人で眠るなど、あってはならぬ。

母上の代わりにはなれぬだろうが、私で我慢して欲しい」


そう言って優しくボクを胸の内に抱き込んだお兄さま。

あまりのことに言葉すら忘れ真っ白になっているボクを抱きしめ、ふう、とため息をついた。


「こうして誰かと眠るのは私も初めてだ。

…………確かに良いな。クリスはとても柔らかくて温かい。

こんなに小さくて柔らかいとは。これまでよくぞ無事に生きてこられたものだ。

きっとみなに大切にされていたのだろう。

これからは私が君を守るから安心するといい」


いや、普通!ボクが小さいのはまだ5歳だからです!

そりゃあ5歳児よりもほんのちょっとだけ小さいのかもしれませんが………。

とにかく、やわらかいのも子供のもちもちなのであって、そんな放っておいたら死んでしまうような生き物ではございませんので!


って言えたらいいのに!

実際にボクが口にできたのは


「ふ、ふわ………ふわわわわ……」


だけだった。

なぜなら、そうボクに囁くお兄さまがずうっとボクの登頂を嗅いでいたから!


「ふ。太陽の匂いがするな。良く陽に当てたシーツのような……温かく幸せの匂いがする」

「く、臭くないならよかったです………!」


こ、これはボクも言うべきだろうか……?

ボクは真っ赤になったお顔を隠しながら、お兄さまの胸元ですうっと息を吸い込んだ。


「え、えと、あの、お兄さまは……グレープフルーツのような……ミントのような?

スッキリとしたよい香りがいたします。

なんというか……一言で言うのなら……そう、『至高の香り』です!

不敬なのですが、いついつまでも嗅いでいたくなる常習性の高い香りです。

ネコニマタタビ、ボクにジル兄さま!

あたまがポワンと幸せで満たされてしまう香りです!!」


最初は恐る恐る口にしていたのに、最後はものすごい熱量で熱弁を振るってしまった。


そんなボクにもドン引きすることないお兄さまは、やはり神でした。


「そうか?そう思ってくれたのならば嬉しい。

クリスの匂いも常習性とやらがあるのではないか?

少なくとも、私はいつまでも嗅いでいたいと思うぞ?」


と仰ってくださったのです!

ナニコレ恥ずかしいっ!でも、嬉しいですお兄さま!




こうして何故だか「抱っこでお互いにお互いの香りを嗅ぎながら眠る」ことになってしまったボク。

抱っこはボクの心臓が無理ですって伝えようとしたのに………。

「いつまでも嗅いでいたい」なんて言ってしまったから……!ボクの馬鹿っ!


いずれにせよ、幸せそうに微笑むお兄さまに逆らうなんてできるはずもない。




こうしてボクはそのままお兄さまに嗅がれ、お兄さまの素晴らしいお胸に顔を押し付けられその至高の香りを嗅ぎながら眠………眠れるわけないよ!


すやすやと幸せそうに眠りの世界に旅立たれたお兄さまの鼓動を聞き、吐息を浴び、至高の香りを吸いながらまんじりともせずに夜を明かしたのでした。



幸せすぎる拷問でした。。。

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