お母さまの再婚?
◆◆クリス5歳◆◆
お母さまから再婚の話を聞いてびっくりした。
なんとなく、ずっとお母さまとサイラス叔父さまとボクとで伯爵家で暮らしていくんだと思っていたから。
でも、「再婚したら私たちは伯爵家から出て、クリスは公爵家の息子になるのよ」って言われた。
ええ⁈そうなの⁈
そうしたらサイラス叔父さまが一人になっちゃう!
お母さまが幸せになるのは嬉しいけれど……でも、でもボク、叔父さまと一緒がいいなあ。
だからボクはこうお母さまに聞いた。
「新しいお父さまのほうが伯爵家に来たらいいんじゃないの?」
そうしたら、お母さまはちょっと困った顔をして、ボクに優しくこう言い聞かせた。
「お相手は公爵様でとっても偉い方なの。公爵様には納めなければならない領地があるし、たくさんの領民を守らなければならないの。だから、お母さまがクリスを連れて公爵さまのおうちに入ることになるのよ。
伯爵家にはサイラス叔父さまがいるから、私たちがいなくても大丈夫でしょう?」
「大丈夫じゃないよ。ボクとお母様がいっちゃったら、叔父さまが寂しいよ?ボクも叔父さまがいないと寂しい」
言ってるうちになんだか寂しくなって、急いでぎゅうっと叔父さまに抱き着いた。
叔父さまは「おっと!」と言って飛びついたボクを難なく受け止める。
そしてそのままいつもするようにボクをその腕に抱き上げ、コツンとオデコを合わせてきた。
これは大事なお話の合図。
こうされたら、ちゃんとお話を聞かなきゃならないの。
「叔父さまを心配してくれてありがとう、クリス。
でも叔父さまは大丈夫だ。だって、会おうと思えばいつでも会えるんだから。そうだろ?
いつでも好きな時に帰ってくればいい。俺はここでクリスが遊びに来るのを待っているから。
お母様とクリスは、公爵家で今よりもっと幸せになるんだ。
クリスにお父様ができるんだよ?」
「今だって幸せだもん!叔父さまがボクのお父さまだもん!
えっとね、お母様とサイラス叔父さまが再婚したら?そしたら三人でずっと幸せだよ?」
いい考えだと思ったんだけれど、お母さまも叔父さまも困ったお顔になった。
「うーん。クリスのことを息子みたいに思ってるけどな。お母様と叔父様は結婚できないんだよ」
「あのね、お母様とサイラスは姉弟だから結婚できないの。
クリスはまだ幼いのだもの、お父様が必要だわ」
「叔父さまが居ればいいもん。叔父さまだってボクを息子みたいって!」
「じゃあ、お兄様は?
クリスはお兄様がいるお友達のことを羨ましがっていたでしょう?
実はね。公爵様にはクリスの三つ上の息子さんがいるのよ?
『お兄様』がクリスにもできるの。どう?嬉しくない?」
「お兄様!ボクにお兄さまができるの⁈
ボクの、ボクだけのお兄さま?」
一人っ子のボクは「お兄さま」という存在に憧れがあった。
近所に住む友人ラファエルのお兄さまミカエルは、うちに遊びに来るたびにボクを可愛がってくれた。
木登りするときには、ボクを上まで引っ張り上げてくれるんだ。
庭で転んだ時には、ボクをおんぶして邸まで走ってくれた。
ボクは優しくてカッコいいミカ兄さまが大好きだった。
でも、ボクのお兄さまにはなってくれないんだって。ミカ兄さまは、ラファのお兄さまだから。
バイバイ、と手を繋いで帰りの馬車に乗る二人を、ボクは羨ましいような寂しいような気持ちでいつも見送っていた。
しばらく考えて、ボクは言った。
「えっとね。お母さまは、公爵さまと結婚したいの?どうしても?」
「そうね。クリスが許してくれるのなら結婚したいわ。
でも、お母さまはクリスが一番大切。だからあなたがどうしても嫌だというのならやめてもいいのよ?」
「……いいよ。ボクもお母さまが大切だもん。お兄さまができるなら、寂しくても我慢する。
サイラス叔父さまといられないのは悲しいけど、『いつでもおいで』って言ってくれたから。
叔父さまもボクに会いに来てくれる?」
「ああ、もちろん!公爵家はここからそう遠くない。会いたいときにはいつでも駆けつけるよ」
こうしてお母さまは公爵さまと結婚することに。
二人とも再婚同志だということで、婚約式などはせずお互いに書面だけで婚約を結んだ。
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こちらの作品はアルファポリス様にて先行公開しております(近日追い付く予定)