初めてのお食事2
こうしてその身をもって「マナーは気にせず楽しんで食事をしよう」と示してくれたお二人のおかげで、ボクは安心して(違う意味で安心できなかったけれど)食事をすることができたのでした。
お食事は「お祝いだからシェフが腕を振るった」というので、とっても豪華!
前菜にあたるオードブルは柑橘系の果物と、お兄さまとお父様がボクのお口にいれてくれたサイコロ状のスモークサーモンとのマリネ。
トマトとカッテージチーズ、アボカドが3段に重ねられたケーキみたいなミルフィーユ。
どちらもさっぱり&こってりのバランスが絶妙で、とってもおいしかった!
スープはベーコンと玉ねぎのコンソメスープ。なんと小さな玉ねぎが丸ごと入っていたの!甘くなるまで煮こまれた玉ねぎがとろっとろで最高!
メインのお魚は白身魚のステーキ。皮がカリっと香ばしく、タイムやセージなどの香草の香りがいい感じ。
横にローストトマトやソラマメが添えてあるので、交互に。
シンプルな味付けなのだけれど、だからこそ素材が良いんだなってわかる。
そして次にレモンのソルベ。デザートかな?サッパリとした甘さにお口の中がリセットされた。
そろそろお腹がいっぱいになりかかっていたから、ちょうど良かった!
ところが「これで終わりかな」と思ったらね。それだけではなかった!
なんと次にまたお肉!メインがふたつも出てきました!
このあたりでもうボクのお腹はけっこうぱんぱん。
お隣のお兄さまをチラッと見ると、平気なお顔。するするとお肉がお口に中に消えていく。
驚いていたら「ん?」と首を傾げられた。
な、なんでもありません!とニッコリ笑って誤魔化す。
せっかくお祝いしてくれるんだもん!なんとか食べきらなきゃ!
ボクも小さく一切れカットし、お口に運ぶ。
柔らかっ!噛んだ気がしないくらい、すうっとお口に溶けて消えたよ!
幸いなことにコショウが効いていたから何とか食べきることができた。
だけど、最後のデザートが来る頃にはボクはもう限界。
お腹がはちきれそう。
そっとお腹をさするボクに、お兄さまが「どうした?痛いのか?」と心配そうなお顔。先程から気にかけてくださっていたようす。優しい!
それに小さな声で「大丈夫です。沢山いただいたので、お腹がいっぱいになってしまいました」と返す。
するとスッと手が伸びてきたのでびっくり!
お兄さまはそのままその手でボクのお腹をなでなでさすり始めた。
あんまり驚いて固まっていると「どうだ?」と顔を覗き込まれる。
どうしたもこうしたも…
「手当、というのだったか?クリスの手当てはとてもよく効いた。
私の手当てはどうだろうか?少しは楽になっただろうか?」
あ゛ーーーーーー!
もう、ボク今日これを何回やっただろう。
でも、やっぱり
あ゛ーーー!
あ゛ーーーーーー!!
お兄さますきっ!もう、もう、もう!
ボクのお兄さまになってくださってありがとうございます、ありがとうございます!
声が感動のあまり震えそうになるのを必死で抑え「ありがとうございます。楽になりました」と返事をした。
ほんとうに魔法みたい。お兄さまの手が触れたところから、なんだかどんどん楽になっていく気がする。
もしかしたら、興奮と感動で急速にカロリーを消費したせいなのかもしれないけれど。
とにかく全てお兄さまのおかげです。
おかげでデザートのイチゴのタルトもなんとかお腹に入れることができた。
これを食べられなかったら絶対に後悔するところだった。
本当にお兄さまって素晴らしい方だと思う。
お食事が終わってお茶を頂いていると、おもむろにお兄さまが言った。
「父上。まずは一緒に暮らしてみてクリスが了承してくれれば籍を、ということでしたが。
もう私たちは既に家族としてお互いに認め合っているのではないかと思います。
先ほどクリスからも私のことが大好きだと言質をと……、こほん、私のことが大好きだと、言ってもらえました。私も会ったばかりではありますが、もうクリスのことを大切な弟だと思っております。
このような気持ちを抱いたのは初めてといってよいのかもしれません。クリスのことをこの上なく愛おしいと感じております。
であれば、これ以上のお試し期間など設ける必要があるでしょうか?できればすぐにでも籍を入れ、名実共に本当の家族になりたいと思うのですが……いかがでしょう?」