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ボクのお兄さま!

お部屋の案内の後は、邸の中を案内してくれた。

だけど………


正直よく覚えていません!

だって、だって!

あれからずっとお兄さまの白魚のような手にボクのちんちくりんの手をぎゅっとされたままだったから!


さすがにもう倒れはしないけれど、それでもけっこうギリギリ。手に汗が……。

恥ずかしいからそっと手をほどこうとする。だけど、そのたびにジル兄さまが「ん?どうした?」って優しいお顔でボクを見るから!


あああ……!

どうしたらいいのだろう。

無理やりに手をほどくだなんておこがましいこと、ボクにできるはずがない。手をつなぐのが嫌だから、などと誤解されたくはない。

しかしこのままではお兄さまの手を汚してしまう。


葛藤の末、恥を忍んで打ち明けることにした。


「……あ、あのう…手……手に汗が……」


「?そうか」


終了!

え?伝わらなかった⁈

嫌じゃないの?人の汗がつくのって。特にジルベスター様はちょっと潔癖症……いや、綺麗好きだという設定だったはず。


ボクは勇気を振り絞ってもう一度声をかけた。


「え、えと。あの。お、お兄さまの手にボクの汗がついてしまいます………」


「?それが?」


ええ?言わなきゃダメ?


「人の汗が付いてしまうの、お嫌かなと思いまして……」


ちょっと涙目。これ、相手がお兄さまじゃなかったらわざとされてるのかって思っちゃうよお。

とりあえず理由はお伝えしたから大丈夫だよね?誤解しないよね?


今度こそするりと手を引き抜こうとして……

ギュッと止められた。


「ジル兄さま?!」


「…………人間ならば誰でも汗くらいかく」


「…………は、はあ……?」


「…………だから、問題ない」


つ、つまり、ボクの汗なんて気にしないということ?

潔癖……いや、綺麗好きなお兄さまが?!


驚いて固まったボクをどう思ったのか、ジル兄さまがボクを覗き込んできた。


「クリスはこうしているのが嫌なのか?私は……とてもよいのだが…………」


よく見るとその眉がほんの少しへにょっとしている。


あ゛ーーーーーーー!

あ゛ーーーーーーーーー!

これって自ぼれではなく、ボクと「手を繋ぎたいから汗くらい平気」ってことだよね?

可愛いっ!ジル兄さま、最高に可愛いですうううう!


叫び出したくなるのを、唇をぎゅっと結び頬の内側を噛み締めることでなんとか耐えたボク、エライ!


「い、嫌じゃあありません!すっごくいいです!永遠に繋いでいたいくらいに素敵です!全ての神に感謝を捧げたいくらいに!なんなら両手を繋げたらいいのにっていうくらいに最高です!」


ものすごく力説するボク。

お兄さまは「そうか」と口元をもにもにさせると、真面目なお顔で首を傾げた。


「………両手を繋いだら歩けないのではないか?」


「…………それはそうですけれど!それくらいに良いということです!」



顎に手をあてしばらくなにやら思案していたジル兄さま。

何を思いついたのか「ではこうしてみよう」とボクの横ではなく背後に立った。


「え?」


「クリス、手を」


ボクを背中から抱えるようにしてボクの横で両手を繋ぐお兄さま。


「うむ。これならば両手を繋いで二人とも前を向ける」


ぎゃああああ!なんですか、これ!すっごくいい匂……じゃない、背中があったか……じゃないっ!

満足そうにしていらっしゃいますが、これバックハグ!バックハグですよね?


「………このまま前に進むというのはどうだろう?」


どうだろう、って…………。本気ですか?


「えっと……両手は繋げましたが、上手く歩けないのではないでしょうか?

ボクはまだしも、お兄さまは歩きにくいですよね?ボクもジル兄さまの足を踏んでしまいそうですし……」


「ふむ……」


え?今度は何を考えているの?


「………掛け声をかけるというのはどうだ?右、左、と順に足を出せば踏まれることもないだろう。

よし、いくぞ、クリス」


「え?ええ⁈」


「右・左・右・左」


「は、はいっ!右・左・右・左……」


よちよち、よちよち。


ボ、ボク、推しといったい何をしているんだろう……。

良い匂いとお兄さまの体温に包まれながら、必死でお兄さまの声を追って足を繰り出す。

ああ……どこまで?どこまで行けばよろしいのでしょうか?


ところどころ立ち止まり


「ここを進めばサンルームだ」

「ここは図書室。好きな時に利用するといい」

「ここが我が家の保管庫だ。時間があるときにゆっくり見せてやろう。先程話をしたサフィラス様の遺物もここに保管してある」


だの教えてくれる。

最後の、めっちゃ気になるう!それは見たい!

でもどこがなんだかさっきより余計に頭に入りません……!背中が気になりすぎて!


ボクは理解した。お兄さまがお一人を好むまれるのは何故なのかを。

お兄さまのお考えになることはあまりにも奥が深すぎて、凡人には理解できなかったのだ!

それで周りの人はお友達になることを諦め、ひたすらに尊いお方として崇め奉っていたのだろう。そうに違いない!



大丈夫ですよ、お兄さま!

ボク、これからもっとお兄さまを理解できるように精進いたしますからね!

凡人から賢人に進化してみせます!






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